会談(その2)
カンカンの退出後、アランは、ボロンの前に行き 深く腰を折り謝罪した。
「私の不手際により ボロン氏にご迷惑をかけたことを謝罪します」
「君は まちがっている。
君の行動により迷惑をこうむったのは デュランだ」ボロン
「しかし 差別意識・思い込みの指摘に関しては慙愧の思いに耐えません」アラン
「つまり君は 僕の指摘の正しさを認めるんだ」ボロン
「はい。」アラン
「では そのことを深く反省して 今後 同様の誤りが起きないように改善点を話し合おう」ボロン
「改善点ですか?」アラン
「職員が思い込みで突っ走らないように 手順を明確化して徹底するんだよ、
細部まで。
つまり ドワーフギルドの相談部門に関する知識・理解を深めるための研修の必要性とか、ドワーフ関連の来談者が王宮の窓口に来た時の対応に置ける留意点の確認とか」ボロン
「差別啓発活動ではなくて、手順とか留意点とか 組織理解のための研修を行うのですか?」アラン
「当然だろ。
『差別』なんて言葉を振りかざすのは利権屋の手口に過ぎないじゃないか」ボロン
「そういうものですか」アラン
ボロンはため息をついてそっぽを向いた。
(この件については スカイをとっちめてやる!と心の中で呟きながら)
ボロンは気を取り直して、アランに向かって毅然として言った。
「我々は まだ あなたの行動によってデュラン氏が被った不利益・迷惑の数々についての謝罪を受けていないことに 断固として抗議する。
その点に関して ドワーフギルドとしても見過ごすことができない」と。
「いったい どういう不利益・迷惑をこうむったというのですか?
ここに来るのが嫌なら 来なければよかっただけではないのですか?」
アランが 開き直ったようにデュランに問いかけた。
「魔術師・魔法使いと呼ばれる人々の間では、実力主義が当たり前です。
人間たちの間でも 性差別、女性は男性の前では控えめであれ、実力をひけらかすのは生意気だという主張する男がいますよね。
あるいは 女は癒しの魔法で男に尽くせとかって主張する魔力なしの大馬鹿人間もいますよね。
しかし 魔術や魔力を高めるためには そういう輩を排して、実力主義を貫く魔術師・魔法使いの矜持が大切であるというのが 王国の魔術関連部門で働く人間の常識であり規範なのは お分かりですか?」デュラン
「存じてます。」アラン
「しかし どんな集団にだって 他者を見下す思い込みに走る人間はいます。
やれ ドワーフは家長主義封建集団だから 魔法が使えないんだ・魔力なしなんだ
とか。」デュラン
「言われてみれば そういう話を聞いたことはありますが、それは スカイ国王の治世になってから そういう与太話を真に受けるのは愚か者のすることとみなされるようになっているはずです」アラン
「私は スカイ国王が即位される前から 王宮魔術院で訓練を受け王宮技術院で働いていました。私の父もです。
私の父が ドワーフの鍛冶師の元に弟子入りしたのみならず、ドワーフ親方の娘さんと結婚したことにより なんと中傷されたか知ってますか?」
「いいえ」アラン
デュランは 深く息を吸いこみ 己の心を無理やり落ち着かせようと努力しながら言った。
「人間のくせに 魔法使いのくせに 女性蔑視の差別主義者だから、ドワーフ社会に逃げ込み ドワーフ女性と結婚した糞だと ののしられ軽蔑されたのです」デュラン
「これは 人間によるドワーフに対する差別意識と抱き合わせの デュランの父君に対する誹謗中傷だね」ボロン
「その話は知りませんでした」アラン
「僕は 物心ついた時から 王宮魔術院に出入りしてましたから
幼い頃から 母の種族であるドワーフへの蔑みと、父に対するいわれなき侮辱・誹謗中傷にさらされて育ったんです。
その苦しみ・屈辱があなたにわかりますか?」デュラン
「いいえ」アラン
「僕の父も 僕も そのような環境で 錬金術に関する己の信念に基づいて実践と研究を重ねてきたのです。
今もそうです。
研究・実践の場を確保するために すべての悪口・悪意攻撃を無視してはねのけて生きているのです。
さらに 僕は 僕自身の恋愛・結婚がらみの話で 更なる侮蔑・誹謗中傷にさらされることのないように 女性とは個人的な交際に至らぬように細心の注意をはらって生きてきたというのに、
その結果として 唐変木だの枯れてるだのという批評にも無言で耐えてきたというのに、
自称婚約者の婿取り問題で僕を呼び出すなんて!」デュラン
「そこまで深いあなたの個人的事情を知りうる立場になかったものですから」アラン
「それは言い訳にはならないね。
王宮での人事管理の不足が デュランの苦難につながっているわけなんだから。
君が 人間たちの軽口が どれほど ドワーフを侮辱する言葉であるか
なぜ ドワーフが 人間集団の中に入ろうとしないのか
そういったことについて 少しでも真面目に考えたことがあったなら
今 デュランが言ったことに気が付いていたはずだ。
それを 「知りうる立場になかった」って一言ですませることそのものが
我々ドワーフが人間たちの中でどのように位置づけられているかということに対する無関心そのものの現れだよ」ボロン
「ムカッと来ましたが ボロンさんのご指摘は 冷静に受け賜り 人間として今後につなげていくべき課題であると認めます」アランは乱暴に返答した。
「それで?」ボロン
デュランもボロンも 真面目に静かにアランの顔を見つめた。
「それで なんです?」デュラン
ボロンは 冷ややかに応えた。
「王宮管理官であるアラン氏には デュラン氏に迷惑をかけたことへの自覚も反省ないということですね」
「その点に関しては 一度持ち帰り 検討の上 ご返答させていただきます」アラン
クルリと踵を返す ボロンとデュランに向かってアランは声をかけた。
「私はむしろ 情に厚いというボロン氏が 同じドワーフ女性のカンカンさんに非情な態度を示されたことに遺憾を感じております」
ボロンは アランのセリフを無視してデュランンに話しかけつつ ゆっくりと出口に向かった。
「なあ 色ボケ事務官が担当だなんて 王宮も質が落ちたなぁ」ボロン
「色ボケ事務官よりは ドワーフ女性の方が賢いと期待できるかなぁ・・」デュラン
「この件も 報告案件だな。
まったく」ボロン




