会談
王宮窓口の面談室で、会談が行われた。
その出席者は以下の通り。
申立人カンカン
カンカン側からの仲介人:国王の秘書官でもあるアラン
アランにより出頭を命じられたデュラン
立ちあい人ボロン
ボロンは、ドラゴンクランのクラン長でもあり、元ドワーフギルドの支部長でもあった実績から、最近ドワーフギルドの顧問に名を連ねていた。
・まず最初に、デユランから このような呼び出しが行われたことについて抗議があった。
カンカンは自分の親族でもなければ婚約者でもない。
そのような赤の他人の一方的な言い分のみで、なぜ 自分が呼び出され、面会を強要され、今現在の自分の生活を脅かされねばならないのか?
これは、国王の名を利用した迫害行為であるととともに、
国家王宮科学院の正職員=国家公務員であった自分に対する、かつての雇用者(王宮)による個人情報の漏洩でもあると同時に、退職者の保護規定に関する違反行為であり、国家権力によるプライバシーの侵害・個人の生存権の侵害であると。
・さらにカンカンからも、自分はデュランに会いたかっただけなのに、なぜボロンが立会人となっているかについて異議申し立てがあった。
そして デュランの抗議は、王宮とデュランとの問題であり、自分には関係ないと言い放った。
自分は、あくまでも 自分の問題について デュランに個人的に相談したくて
今すぐデュランに確実に連絡がつく 連絡先を尋ねに行ったに過ぎないと。
・それに対して ボロンが 自分の立場を明らかにした。
①本来 ドワーフの家族間の争い、特に相続問題についての訴えは、ドワーフギルドで対応することである。
にもかかわらず、カンカンの一方的な申し立てに基づいて、ドワーフギルドの保護下にあるデュランに対して王宮から呼び出しがあったことについて、デュランからドワーフギルドに相談があった。
その結果 自分が ドワーフギルドの代表としてこの案件を担当することになった。
②この会談に出席するための予備調査により、デュランとカンカンは 単にそれぞれの勤務先の取引の担当者として 2・3度顔を合わせたに過ぎないと判明している。
にもかかわらず カンカンは あたかも デュランがカンカンの婚約者であるかのように装って 王宮に名乗り出た。
さらに デュランが居ないから 相続問題が進展しないと虚偽の申し立てをした。
相続問題に関してデュランが完全に部外者であることは ドワーフギルドの正式な調査で確認済みである。
ゆえに このような呼び出しは不当である。
それゆえ このような不当な呼び出しにより 開かれた会談の場で デュランの権利が侵害されたり、不当な扱いを受けないように、自分が この案件に関するドワーフギルドの担当者として 立ち会うのだと。
・デュランとボロンからの抗議に加え、カンカンからの異議申し立てを受けて厳しい顔となったアランは反論した。
「私は、カンカンさんが デュランさんに相談したいと思うに至った事情をお聞きして、カンカンさんに同情して、カンカンさんに良かれと思って仲介の労をとっただけです。」
「役所の担当者が 個人的感情に基づいて権力を行使して、元職員の人権を踏みにじることは許されません!」ボロン&デュラン
思わずカンカンをにらみつけるアラン
・カンカンは息をのみ、立ち上がり デュランの方に向き直って発言した。
「私は あくまでも デュランさんの連絡先を聞きに王宮に行ったのであって
デュランさんを呼び出してほしいと言ったわけではありません。
私が 個人的事情を話したのは、なぜ デュランさんの連絡先を知りたいのかその理由を言えと言われたからです。
なにも 私の相談にのるようデュランさんに強要する気は全くありませんでした。」
さらに、アランの方に向き直って言った。
「私が あなたに デュランさんに相談したいという思いに駆られて理由をお話したのは、
ただたんに 私がデュランさんに連絡したい理由を知った上で、王宮の方が
私に連絡先を押してもいいかどうか判断したり、あるいは 担当の方が、デュランさんにこういう要件で連絡先を尋ねてきた者がいるけど教えてもいいかと問い合わせるために質問されたのだと思って答えただけです。
確かに 最初は 受付の方の気を引こうと ちょっと紛らわしい態度をとったのは悪かったと思いますが、受付の方に代わってあなたが事情聴取に来られた時には、すぐに私がデュランさんの婚約者ではないとお話したはずです。
私は私の思いを語りましたが、事実関係でうそはついていません!」
アランはため息をついて議事進行を図った。
「確かに 私が カンカン氏の思いの強さに影響されて、デュラン氏に連絡を取るときに
たんなる事務連絡ではなく、カンカン氏との会談に出頭を命じるかのような圧力をかけたと
感じさせるような態度をとったことを デュラン氏にお詫びします。
しかし こうしてデュラン氏がカンカン氏との同席に応じてくださった以上、お二人の間で今後のことについて話し合われてはいかがですか?」
デュランは ボロンに目を向けた。
ボロンは デュランにかすかにうなづいてから、アランに向かって発言した。
「あなたは今、カンカン氏の思いの強さに影響されたとおっしゃったが、それは
訴え人のカンカンさんがドワーフであり、カンカン氏が抱える問題がドワーフの家族間の問題であったことに関係しているのではありませんか?
これが人間同士の問題でも あなたは訴え人の思いの強さに影響されて、元雇用者を強制的に呼び出すという暴挙に至ったのでしょうか?
あなたは これまで 対人関係の問題については、冷静で的確な判断力を下すという評価を受け、
昇進を重ねてきたと聞いておりますが、そのあなたが、このような愚挙を犯したのは、しょせんドワーフは 封建的な家父長制度をとる劣った人種だという差別意識や思い込みがあったからではありませんか?
さらに、あなたには、王宮科学院の職員であったデュラン氏の個人情報を守ることにより、彼の身の安全を確保する義務があったにもかかわらず、その責任を放棄したのは、単にあなたが個人がカンカン氏の便宜を図りたいとの思いに駆られたのみならず、デュラン氏が人間とドワーフのハーフであるから、その人権を軽んじても良いと考えておられたからではありませんか?」
デュランもまた、ボロンの発言に同意するかのように、アランにヒタと目を向けて大きくうなづいた。
アランは カット目を見開いて、デュランとボロンを見据えて言った。
「ただ今のご指摘に関しては、席を改めて討議することとして、今 この場においては、カンカン氏の問題を話し合っていただきたい」
それに対して ボロンは冷静に応じた。
「今現在 デュラン氏がここに居るのは、王宮からの不当な呼び出しの結果である。
その呼び出し理由が カンカン氏との面談の強要であった以上、なぜこのような事態に陥ったかについて、カンカン氏と呼び出し担当官のアラン氏同席の上で 明らかにされなければ、デュラン氏がカンカン氏との面談を進めることには同意できない。
そもそも アラン氏は、カンカンさんが抱える問題に痛く心を動かされて、デュラン氏の呼び出しという行動に走ったと主張されるが、カンカンさんが抱える問題は、これドワーフ家族事業の相続と
ドワーフの家内工業における家族雇用に関する問題であるように察せられるがちがいますか?」
ボロンは カンカンに問いかけた。
カンカンも渋々認めた。
「そのように指摘されれば そうだと言わざるを得ません」
「ならば このような問題についての話し合い・相談はまずはドワーフギルドにおいてなされるべきでした。
カンカンさん、あなたは ドワーフギルドに相談しましたか?
アラン氏は、カンカンさんが ドワーフの家族事業関連の悩みを抱えて 王宮の窓口に来たとドワーフギルドに連絡しましたか?」
「いいえ」カンカンとアランは それぞれに答えた。
「それは 問題ですね」ボロン
「じゃあ どうして 私のために ドワーフギルドが動いてくれないのですか?
女だからと差別です。
男のデュランの立場ばかり擁護して」カンカン
「そもそも 君は 君のお父さんの工房の一件について、ドワーフギルドに何も相談していませんね、記録によると」ボロン
「ドワーフギルドが ドワーフの家族間の問題について扱っていると知りませんでした。」カンカン
「婚姻届・死亡届・転居届など各種届出は すべてドワーフギルドへ、仕事上での相続・調停・裁判関係もドワーフギルドで扱うと学校で習いませんでしたか?」ボロン
「習いました。
でも 私の案件が ドワーフギルド案件だとは知りませんでした」カンカン
「工房の相続における、これまでその工房の発展・経営に寄与してきた者への報酬をめぐる話し合いなら、仕事上での相続・調停に関する相談の範疇ではないかと 僕は思いますけどねぇ」ボロン
「そんな考え方をする男性が居るなんて思いませんでした。
ドワーフギルドって 男性ばっかりじゃないですか。」カンカン
「僕も男ですよ。デュランもね。」ボロン
「僕の母は 以前ギルドの参事になったと思いますが・・違ったかな?
あなたが 自分が女性であることにこだわったり、
個人的相談で済ませたかったのなら、
僕ではなくて 僕の母に個人的に相談に行った方がよかったのではありませんか?」デュラン
「今回の不当呼び出しに関連して あなたの行動履歴も確認させていただきましたが
あなたが デュランと私的に会話した履歴はなく
むしろ あなたは、お父さんが過去に破産寸前に追い込まれた時に、お父さんの鍛冶場を工房に生まれ変わらせることによって一家の破産を防ごうと デュランの母君の所に何度も教えを請いに行っていたことが判明しています。
なのに 今回発生した あなたのお父さんの引退後の工房の扱いに関して、あなたはドワーフギルドにも 工房の女経営者の先駆者でもあるデュランの母君の所にも一度も相談に行っていない。
お父さんの鍛冶場を工房として再建するときには あなたは何度もドワーフギルドの相談部門に足を運んでいましたよね。」ボロン
息をのんだカンカンは デュランンに向かって静かに言った。
「つまり デュランさんは、私に呼び出されて迷惑だと
私の相談に乗る気はないということですね」
「そうです。
しかし 袖触れ合うも他生の縁ということわざもありますし、
この場をセッティングされたアラン氏の顔を立てるために、私からカンカンさんに少しだけお話しさせていただきます。
あえて一言申し上げるならば あなたは 相談を持ち掛ける順番を間違えています。
まず最初に行くべきは
私的な相談ならば 僕ではなく僕の母の所
公的な相談ならば 王宮ではなく ドワーフギルドに行くべきでした。
そして 僕の母や ドワーフギルドでダメなら 次は・・ と順々に考えて行動していくべきだったと思います。
いずれにせよ 私とあなたは無関係です。
たんに 仕事上、たまたまその部署にいただというだけの関係を
あたかも 個人的接触があったかのように言いふらされてたことについては断固として抗議します! 迷惑です。 もう2度と 僕の前に顔を出さないでください。
僕に関するいかなるうわさもお断りします。」デュラン
「デュランさんに 御迷惑をお孵したことをお詫びします」
非常に悔しそうな顔でカンカンは 言った。
「私が 必死なあまり 情報収集に失敗して 相談先を間違えて 御迷惑をかけたことも謝ります。」カンカン
ボロンは カンカンに穏やかに話しかけた。
「これは 僕の個人的意見だが、今の君の立場なら、王宮から再度よびだされて虚偽の訴えをしたなどと糾弾されたときに備えるために、今回の一件を洗いざらい ドワーフギルドに報告するとともに助けを求めるね。
今の君は あらゆる意味で 混乱し 疲弊し 判断力が偏っているように見える。
何かにすがってでも 状況に押し流されるのを防ぎたいと思うなら
誰か個人にすがろうとするよりも 公的機関に出向くことをお勧めする
もちろん君の期待通りに事が運ぶかどうかはわからないけど。
それと 誰かに助けてほしいなら 下手な小細工をして 己の信用を落とすんじゃないよ。
アリの一穴のたとえにもあるだろう、
これまで正々堂々と一人でがんばってきたのに、わずかな心の揺らぎで これまで築き上げてきた信用をすべて失うなんて 悔しすぎるだろう。
たとえ十分な助言を得られず敗北したとしても、それが真っ向勝負の結果なら
気力・体力・時期の運が回復した時には 何とかなるもんさ。
でも 小細工弄して失敗したら 自分自身の中の信念すら揺らいで 立ち直れなくなるんじゃないか?」
「はい」
カンカンは退出し、とぼとぼと家路についた。
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