出発前のひと風呂
「ちょっと出かけてきます」とあとを頼んで、ボロン達一行は地下にもぐることにした。
龍の庭のお留守番係はデュラン。
館周辺の見回りはダーさん達
地上との連絡役はミューズである。
とりあえずは 温泉滝のある第一の張り出し岩へ移動した、ボロン・ミューズ・コンラッド・ゴン。
そこで1泊しながら、第1回地底探検のベースキャンプを、第一の張り出し岩におくのか、光の洞窟口のある第2の張り出し岩に置くのかを話し合った。
もちろん 温泉につかりながら。
①「食料補給という観点からすれば 第2の張り出し岩。
見晴らしのよさではここだね」ボロン
②「地底まで距離があるのが難点だけど、見晴らしがよくて飛び立ちやすいのはこっち」ゴン
③「見晴らしがよいということは 敵からも見られやすいということではある」コンラッド
④「ここに 敵は居るの?」ゴン
⑤「わからん」コンラッド
⑥「備えよ常にの警戒心だね。
でも 何に備えるのかわからないのにやみくもに心配するのはただの取り越し苦労だったりして」ミューズ
⑦「何事にも慎重に!だ。」コンラッド
「先ほどのコンラッドの発言は 客観的指摘だから価値がある。
それを評価するだけの情報が現状ではないから、「やみくもに心配している」ととらえるのはデスリになるよ。
そして「ただの取り越し苦労」と決めつけるのは主観的発言だね」ボロン
「ぼくは ただ 一般的な会議でよくある発言パターンを再現して見せただけ」ミューズ
「というわけでゴン、話をもとにもどすなら どこから巻き直せばいいかわかる?」ボロン
「え~ どういうこと?」ゴン
「今の会議の主題は何だったか覚えているかい?」ミューズ
「ベースキャンプをどこにするか」ゴン
「話の流れとして 候補地が二つあがって、それぞれの利点・留意点が述べられたよね」ボロン
「うん ③までの部分だね」ゴン
「そして 留意点の評価に必要な事実確認が ④と⑤の発言」ボロン
「そこに横殴りで介入したのが僕の発言⑥」ミューズ
「民主的な会議では 行動目的・課題遂行に沿った発言と、個人の感情や集団内での力関係を動かすための発言が入り混じるんだ。
軍隊では、計画通りに物事を遂行し、必ず勝つことが目的だから、
会議でも、メンバーのやる気を引き出したり 集団としての士気を高めることにより課題遂行速度をあげるということが重視される。
だから そういう観点から 部下や同僚の感情・気分などを動かし目的達成への意欲を高めるための発言も出てくる
一方、民主的な集団では、何かをするときに参加者が心の中で重きを置いているのは、その人の個人的満足感なんだ。
たとえ 議題が 集団としての利益、各人が暮らす社会全体をよくするための共通課題であったとしてもね。
だから課題についての締め切り日はあっても、遂行の効率性よりも、その遂行途上において得られる個人の満足への期待度が その人の意思決定の要因になりやすい。
だから何かを一緒にするための話し合いの場において、会議の主題が「目標達成に向けての方法を話し合うこと」であったとしても、実際には、「方法を検討する」ための発言であるように見えて、実は「話し合いの場において だれかの心を動かして自分が得をする。たとえば優越感を得るとか自分の支配力を増すとか・・」の為の発言だったりすることも多い。
そこを ちゃんと見極める、つまり「今は何の話しているのか」を見る目を養うことも必要だよ、ってこと。
つまり 話が脱線しちゃったときは 的確に話を巻き戻せるようになろうねってこと」ボロン
「よーするに ボロンは おまえさんの会議スキルを上げるための練習素材として
わしとミューズの発言を利用したのじゃ」コンラッド
「ふぇー。ただの話し合いかと思ったら これも訓練だったのぉ~~」ゴン
「まあ わしらは お前の仲間であると同時に お前の親として いつも 日常生活=教育的訓練と思っておるからのう」コンラッド
「だから たまに 「良い子はみないふり」してあげなきゃならない大人の息抜きなんてやっちゃったりもするんだけど。」ミューズ
「ふぇ~~」ゴン
「とはでに 脱線に脱線を重ねてしまったが 話をもどすぞ!」コンラッド
「旅の出発点としては 見晴らしがよく 飛び立ちやすいところの方がいいんじゃないかな」ミューズ
「食料補給は ベースキャンプとしては欠かせない役割だよね」ボロン
「しかし ここは どこからでも見えるから、モノを備蓄するにはむかん」コンラッド
「ということは、第一の張り出し岩と第二の張り出し岩を適宜使い分けていくのでいいんじゃないの?」ゴン
「つまりは そういうことだな」コンラッド
「こんな簡単なことを確認するのに なんで こんなに話が長くかかるのさ!
早く探検に行こうよ!!」ゴン
「はっはっは おぬしの意見ももっともじゃ。
しかし デュランだけでなく これからもドラゴンクランには新人が出入りするだろうし、ゴンよ お前も体が大きくなるに合わせて 人族とのかかわりも増えてくる
飛び方を覚え、己の能力を磨くだけでなく、生きるための技を鍛える必要もある。
その技の中には 会議の持ち方・会議に参加する者達の発言を吟味することも含まれておる。
わしが狩りについてお前に教えるように、ボロンは人族との付き合いに関わるスキルを これからお前に教えて行こうとしておるのじゃ。
そこんことは ちゃんと理解して受け止めよ」コンラッド
「はい。」
ゴンは素直にうつむき すぐに 羽をバタバタさせて言った。
「こどもであるって ほんと大変!
はやく 大人になりたいなぁー」
「て言いながら 独り立ちを焦って、
社会人になると あーしんど っていうんだよ。
これ ぼくの経験ね」
ミューズは笑顔で言い、ゴンは 翼でミューズめがけてお湯を跳ね飛ばし
その気配を察したボロンは いち早く湯に潜って コンラッドの陰に逃げた。
「はぁ まさかこの歳になって 潜水で泳げるようになるとは思わなかったよ。
スカイの護符に感謝だ」ボロン
「子育てごくろうさん」コンラッド
「フォローをどうも」ボロン
「こうタイミングを見て話すってむつかしいし、日々実践っていうのも根性がいりますね」
小声でつぶやくボロンが ゴンがたてた波で流されぬように、
コンラッドはボロンにしっぽをまきつけ、しっかりと支えてやった。
※ 土日休日は 朝8時
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