酒盛り
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ボロンとコンラッドが ゴンの父親としての心構えについて、ミューズから一喝された日の夜
ボロンの「酔っぱらいたい気分」に付き合うミューズ
ぶどう酒一樽とともに過ごす夜
その夜 二人は 酒盛りをした。
ボロンは 小太鼓を叩いてドワーフ小唄を歌い
ミューズは 扇を片手に吟詠しながら舞い踊り
ボロンが うんりゃぁとっと うんりゃあとっと 掛け声をかけながらつるはしを抱えて鉱山音頭を踊れば
♬孤軍奮闘 囲みを破りぃ♬と剣舞吟詠に興じるミューズ
そのあまりのにぎやかさに、ゴンとコンラッドも目を覚まして覗きに来た。
「一体全体 なにをしておる?」コンラッド
「御覧の通りよっぱらってまーす」ミューズ
「飲んで 騒いで チャカボコ 酒は 心の憂さの捨て所~ ホイホイ」
世にも珍しい ドワーフ踊りを披露するボロン
目が点のゴン
「これは 何のお祝い? 僕も仲間に入れてよ」
「ごめんよ ゴンちゃん。
僕が 未熟なドワーフでぇ」
ボロンはゴンに抱き着いて おいおい泣き出した。
「な な なに?」ゴン
「僕の体がちっちゃくてぇ
僕の手足が短くてぇ
今では 君を抱きしめられなくてぇ
おまけに ひ弱な体だから君のしっぽ振りが怖くて御免なさーい」
「ほんとは もっと もっと君をよしよししたいんだけどぉ
どうしていいかわからなくって うじうじしていて 御免なさーい」ボロン
「だったら スカイがコンラッドにするみたいに
僕の毛をモフモフして くしでとかしたり シャンプーやリンスをしてよ」ゴン
「わ わかった。善処します」ボロン
「あっはっは 君の毛を乾かすときには 風魔法を手伝うよ」ミューズ
「うん よろしくね!」ゴンは うれし気に びったんびったんしっぽで地面をたたき その振動で地面がゆれた。
(ボロンとミューズは 屋外で酒を飲んでいた。
いわゆる月見酒である)
「やりすぎじゃよ ドラゴンよ」コンラッドは ゴンのしっぽの付け根の上に飛び乗って押さえつけた。
「お前 力が強くなっているから そんなにしっぽで地面を叩くと
振動で近くの村の建物が全壊するぞ」コンラッド
「えっ でも ここの建物は大丈夫だよ」ゴン
「そりゃ ここの建物はわしとスカイで建てたのだから 頑丈だ。
しかし この竜の地の外の建物は 普通の建物だから壊れやすい」コンラッド
「そうなの?」ゴン
子龍がちょこんとすわって首をかしげる姿は かわいい
「かわいいなぁ 君 いくつになっても とってもかわいい
でも 力の強さは 脅威的
それで ぼく わけわかんなくなっちゃって酔っぱらうことにしたの」ボロン
「日ごろ謹厳実直 絵にかいたようなまじめちゃんのお前さんが酔っぱらう姿も レアで面白いがな
寝た子を起こすのは どうかと思うぞ」コンラッド
「すみません。
ワインは 蓋をあけると 味が落ちるのが早いから
一樽飲み干したら ひと眠りして 酔いがさめたら またまじめ君に戻ります。
でも こんな上物のワインを前に 酔っぱらうなという方が無理です!
しっかりと楽しまないと お酒様に失礼です!!」
びしっと「気を付け!」の姿勢で答えるボロン
「あー 大人は時に 羽目をはずすことがある
そういう時は こどもは そっとその場を離れて見ないふりをするのが よい子のふるまいだ。
お前も あと100年か千年かして ドラゴンとしてのたしなみを身に着けたら 人族と宴会することがあるかもしれぬが、
今はまだ 自分の力のコントロールについて学び始めたばかりの子供だから わしと一緒にこの場を離れよう」
コンラッドは まじめにゴンを説得することにした。
「うーん 酔っぱらうのって楽しそう
僕も 早く大人になって 仲間入りしたいなぁ」
そういって ゴンは ゴンラッドと一緒に 竜の山のふもとの小屋まで行って もう一度寝なおすことにした。
それを見送った ボロンとミューズ
二人は 顔を見合わせ 罰が悪いからもうお開きにしようかなぁ
だけど めったにない上物ワイン もうちょっと飲みたいなぁ
酒樽を前にして・・
「やっぱり飲もう!
二人で こうして飲み明かすなんてめったにない機会だ!」ミューズ
「だね では ササ一杯」
ボロンが 樽からワインを柄杓で掬い上げ、コップに入れてミューズに勧めた。
「いっただきまーす。
一緒に乾杯しよう!」ミューズ
ボロンは 手酌で満たしたグラスを掲げ、二人は乾杯した。
「BGMが欲しいね」
ミューズは竪琴を取り出し、シャランと鳴らした。
すると 竪琴が自動演奏を始めた。
ポカンと口を開けるボロン
「魔力の応用バージョンだよ。
音楽で何かを産みだすんじゃなくて
楽器で音楽を産み出す魔法を開発した」
ミューズは にっこりと ほほえんだ。
「すごい すごすぎる」ボロン
「眠くなってきた。そろそろお開きにするか」ボロン
「だねぇ」
ミューズは 竪琴とワインの残った樽を収納し、
居眠りを始めたボロンを担いで 城の中の部屋まで運んだ。
「おやすみ ボロン」
ミューズは ボロンをベッドに寝かせて その横に自分ももぐりこんだ。
その夜、ボロンはゴンの背中に乗って 空を飛びまわったり、
スカイボードに乗って スカイやミューズ、コンラッドやゴンと空中鬼ごっこをする夢を見た。
ちっとも怖くなくて 面白かった。
だって ゴンの背中から飛び降りても 必ずゴンが下側に回って受け止めくれたし、スカイボードから落っこちても 必ず スカイやコンラッドが魔法で受け止めてくれたから。
これからは 仲間の魔法やゴンの実力をもっと信頼しようと 夢の中でボロンは考えた。
いつもいつも 僕が誰かの世話をしなくてもいいんだ。
僕には 僕のことを気にかけてくれる仲間ができたんだ!
そう感じると ボロンの心が羽のように軽くなって、体がふわふわと浮き上がった。(もちろん夢の中で)
・・
(注)龍の草原にある ドラゴンクランの本宅は 「館」または「城」とよばれ、境川の近くにあります。
一方 同じ龍の草原にあっても、竜の山の近くにある建物は「小屋」と呼ばれます
「小屋」のキッチンの調理台などは ドワーフの手足の長さに合わせたドワーフサイズ
館のキッチンは 人間・エルフサイズです
クランメンバーはいつも館で生活をしていますが、ボロンが調理を楽しみたいときには
小屋に行きます。
小屋には「さしかげ」(本来は屋根を外に張り出したものをいうが、ゴンが大きくなってからは
小屋の壁に接する平屋根のあずまやのようなモノになった)があり、
そこでゴンが休憩できるようになっています。主にボロンが小屋に居るときに。
今夜は そのあずまや風のさしかけで、コンラッドといっしょに眠っていたゴンでした。
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