食事の後で
食事を終えたコンラッドは フェンリルの姿に戻った。
「さてと、デュランのことだけど」スカイ
「デュランという人物には好感を抱いたけど、ドラゴンクランでの仕事の割り当てがむつかしそうだな」ボロン
「彼、魔力はあっても魔法使いではないね。
それに 鑑定・計測の技術だけなら・・3人目か4人目の新人としてはよいけど
ゴンの地中探検の仲間としては役不足だよ。」ミューズ
「デユランを同行させても、転移と護衛と救助・救援・治療関係が わしとミューズしかできぬ状況にかわりはないからな」コンラッド
「僕たちが地中に潜っている間の 地上でのお留守番係にするには、
彼の専門性が活かせず、彼にとって気の毒なことになりそうだ」ボロン
「そもそも どうしてスカイは彼を推薦してきたんだ?」ミューズ
「僕が デュランを推薦した理由かい?
それは 僕が知る範囲では、口が堅くて人間的に信用できる魔法使いの中では 一番 彼が優秀だったからだよ。」スカイ
「一番優秀?」コンラッド&ミューズ
「そうさ。彼は 一応 生活魔法が使えるからね」スカイ
「生活魔法って?」ボロン
「種火をつけたり、水を浄化したり、自分の空間倉庫に水を保存しておいて必要に応じてそこから水を出すときにその出し方を調整したりする力さ」スカイ
「しかし マッチや火打石があれば種火はつけれる。
空間保存は 水以外のものはできないのかい?」ミューズ
「そもそも 今の時代、魔法使いの仕事は 鑑定と錬金術に特化しているからねぇ。
その錬金術の実態も 火力で金属を溶かして融点の違いを利用して金属の種類別に分離したり、逆に合金を作る程度のことだから、彼のように 鑑定を応用してきちんと測定できたり、錬金と鑑定の力を応用して水の浄化までできる人は優秀だよ。
それに ほとんとの錬金術師は 僕が今言った原理を理解どころか意識をしていない。だからこそデュランの父親が、錬金術は曖昧過ぎるといってドワーフの鍛冶師の所に弟子入りしたんだよ。」スカイ
「僕が思ってた魔法使いとずいぶんイメージがちがう」ミューズ
うなづくコンラッド
「ぼくは 幼い頃からコンラッドに鍛えられたから、今の僕であって
この世界で今の時代に 人間に育てられた魔法使いだと、生活魔法ができたらそれだけで天才扱いだし、でも実用性の面から評価されるのは錬金術師だから 錬金のできばえで魔法使いとしての評価が決まるんだ。
ぼくは 火力の大きさと治療魔法が使えるってことで「規格外の魔法使い=大魔術師」と認定されたけど、錬金をやらない僕が「宮廷魔術師」のままでいられたのは、前国王夫妻の支持があったからだよ。
たしかに 破損したまま宝物庫で保管されていた国宝の金属製品を修復したから
錬金術師としての最高の腕を持つとも認められているけど、実際には最初に父に命じられて修復しただけで それ以後は錬金をやってないから」スカイ
「なぜ 錬金をやらなくなったんだい?」ボロン
「そりゃぁ 欲の皮が突っ張った人間がうるさいからさ。
初めて宮廷に上がったときに、父に修復せよと命じられた金属製品の劣化の原因が
不純物だったり、代替金属を使った過去の修復作業による腐食だったから、
それらを除去して全体を純度の高いミスリルや金に替えたら もう大騒ぎ。
それで 僕に無理強いするなら、すべての金属を錆びさせて粉にするぞと 一例を見せたら やっとおとなしくなったよ。
それ以来 僕は一切 錬金もしないし、錬金術を使った修復もやらないことにした。もっとも ドラゴンクランの中は例外だけど、ここでも魔法の乱用はしていないだろ。」
「濫用を慎むことは 魔法使いの基本原則なのにな。
そのことを学ばない人間
そのことを身に着けるのに時間のかかるエルフもおる」コンラッド
「そしてドラゴンの成長にあわせてそのことを教えていこうと知恵を絞っているのが今の僕たちだよね」スカイ
「だからさ そういう意味ではデユランはゴンにとって良い友達になれるかなと思ったんだ。
生きている者はみな 魔力のあるなしに関係なく自分の力の使い方を覚えないといけないし、力の使い方を覚えるってことは、自分がどう生きたいかを決めることでもあるんだって意味で、デュランは良い先輩になれるんじゃないかと思って」スカイ
「じゃが・・わしとしては 出力の安定しない幼龍の安全確保のための 助っ人がほしかったんじゃがなぁ」コンラッド
「ゴンは ドラゴンだから 幼いとはいえ、本質的にはフェンリルに匹敵する力を持っているのではありませんか?
逆に言えば、ゴンに危機が訪れたとき ゴンを助けられるのは コンラッドとミューズだけではないでしょうか?
魔力的には、僕やボロンにできることは、お二人が全力でゴンの危機を救いに行けるように しっかりとサポートすることだと思います。
そして 普段の生活では、ゴンの友人として 先輩としてゴンとともに生きること、そしてゴンの保護者であるボロンをしっかりとサポートすることが大事だと思います。
ボロンやコンラッドやミューズの代わりを務められる者など どこにもいないと思います。」スカイ
「念のために聞くけど、転移魔法が使えたり 戦闘力が高い魔法使いは 君の知っている範囲ではいないってこと?」ボロン
「幸いにも 現状転移魔法を使える魔法使いは宮中にはいない。
たぶん 国内にもいないんじゃないかな。
そもそも 僕が使えることも国王になるまで知られないようにしていたし
今でも極秘事項というか アランがうっすらと察しているかもしれないけどゴンの存在同様、彼が口外することは一切できないからね。」スカイ
「君の側近も 沈黙の誓を建てているんだね」ミューズ
「そうさ。極秘事項が多いとほんとにたいへんだよ」スカイ
「つまり 君が推薦できる範囲で 魔力持ちとか魔法が使えるとかだとデュランが最高ってわけ?」ミューズ
「ああ。守秘義務とか 消息を絶っても問題が起きないとか、クランメンバーになるにはいろいろ条件があるだろ。だから人選が大変なんだよ」スカイ
「ということは 彼の人柄を見込んで採用したら、彼の配置は僕たちで工夫しないとダメってことだな」ボロンはそっとため息をついた。
「はたして ドラゴンクランが彼の希望に沿う職場となるかどうか・・」ボロン
「てことは、彼を地中世界での冒険に誘った場合、やっぱり龍の庭の家畜たちの世話係は別に用意しないとダメってことだね。
できれば 龍の庭に残ったり 地中に潜ったりと交代ができればよかったんだけど」ミューズ
「君は 地中世界に行くのが 好きではないのかい?」ゴン&スカイ
コンラッドも問いかけるようなまなざしをミューズに向けた。
「どっちが好きかと聞かれれば、もちろん お日様いっぱいの地上だよ。
でも 地中探検も面白そうだとは思うよ。
たださ、龍の庭を長期間 離れることが心配なんだ。
ほら 僕の歌の効果が いろいろかかっている場所だから、
ちゃんとバランスが保たれているか 定期的に見回らないと心配なんだよ。
僕って 時々無意識に 魔法を発動することがあったからさ、その影響をみとどけなきゃって責任感じちゃって」ミューズ
「それで 君は 定期的に あちこち見回っているんだ」ボロン
「うん」ミューズ
「その割に 見回りの時も 歌っているようだが」コンラッド
「今は ちゃんと意識して行動しているよ」ミューズ
そっとため息をつくコンラッド
「おまえさんにとっては 歌うことは呼吸をするのと同じように、生きていく上において必要なことなんだな」
「だよ」ミューズ
「デュランに念話の適正があるかどうか確かめ、3か月の試用期間の間にあの者がクランになじめそうなら、本採用になってから 時期を見て 念話の能力を与えるとともに、あやつを 地上の留守番係に任命して 何かあったときにはすぐにミューズに念話で連絡できるようにしておくというのはどうであろうか?」コンラッド
「その「何か」を彼が正しく認識できれば ってことだけど」ミューズ
「あとは 彼の体力・運動能力次第かな、地中探検につれていけるかどうかは。
できれば 僕よりも身体能力が高くて丈夫ならいいんだけど」ボロン
「今の時代 伝説の戦士のように強い存在を期待しちゃだめだよ。
人間もドワーフも 種族の平均的な身体水準は上がっているから
逆に とびぬけて優秀で頑健って人はいないと思ったほうがいいよ。
それに 昔の英雄が 今の良くできる人より優れているというわけでもないんじゃないかな」スカイの言葉にコンラッドもうなづいた。
「そっか 君たちみたいに すっごい人が来るかなって期待してたんだけど
その期待は ずれてたんだな」ボロン
「そいうこと」スカイ
「もし 彼を地中探検隊の追加メンバーにするなら、地上のお留守番係をだれかみつけないとだめだねぇ」ミューズ
「となると あとは牧人かな?」コンラッドが考え込んだ。
「牧人は集団生活をしておるからなぁ。
一人で留守番ができるだろうか?」
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