牧人のひっこし
地中世界での2泊3日の休暇を楽しんだゴン達は 地上に戻った。
コンラッド・ボロン・ミューズは出発時の大騒ぎについてダーさん一家から盛大に苦情を言われた。
コンラッドの遠吠えとその結果生じたやまびこによる家畜たち=龍の草原の住民達への衝撃については、ゴンも一緒になって傾聴した。
「いやあ すまん。 つい取り乱してしまって」
コンラッドは 耳をペタンとしてうなだれた。
「まったく もう!」メリー
「生きていれば誰だって いろいろあるもんさ。
ここに来て初めてのことだったんだから。」オットーは とりなした。
「次からは あらかじめ予告してくださいね」メモリー
「いやあ 人生の衝撃ってやつは不意に来るから 取り乱すんじゃないか?」オットット
「そりゃまあ そうなんですけどぉ」メリー&メモリー
そこにタマゴさんと彼女の診察と治療を終えたミューズが戻ってきた。
「タマゴさんの体はもう大丈夫」
ミューズが皆を安心させるようににっこりと笑った。
ミューズがその気になると「エルフの笑顔はんぱねぇ」威力を発揮する。
今なら その場が一気に和んだ。
「今回は 初めてだったからびっくりしたけど、次回は それほど驚かないかも」タマゴさん
「確かに 避難小屋の威力はすごかったですね」
メリオの言葉にうなづくダーさん達
「今回のことは なんかあった時の避難訓練だったと思えばいい思い出になりますわ」
モリッコの言葉に ほかのダーさん達もうなづいて、一見落着。
・・
ミューズとボロンは 龍の草原にいる家畜たちの世話をして回り、
ゴンは楽しく荒れ地に行って走り回ったり、空中パンチやキックをして遊んでいる間に、コンラッドは 牧人の里に行った。
コンラッドと牧人達の間で話し合い、新たに誓約の儀をおこなったり、いろいろな取り決めをして、コンラッドは、何世帯かを眠らせて将来牧人の里で人口が急減した時まで預かったり、4人の牧人を地中世界のノーム達の牧場の手伝いとして連れて行くことにした。
つまり 牧人の里の人口過剰問題に、村を拡張するのではなく、住民の数を適正数まで減らすことで対応することにしたのだ。
そして冒険心の強い若者たちにとっては、地底にある牧場で働くという提案は魅力的なものに思えた。
たとえ そこに行ったら一生戻ってこれないとしても。
今いるところから 飛び出したいという欲求にかられた若者と言うのは
そういうものである。
むしろ そんな若者たちを送り出す親世代の方が、別れを惜しむ気持ちが強いのだが
ある意味 現状に満足できない欲求不満の若者と一緒に暮らすことは
たとえ 諍いがなかったとしても、周囲の者にとって精神的負担になるものであるから、別れを惜しむ気持ちよりは いなくなってホットするという気持ちの方が強かった。
要は 互いを思う情があっても、一緒に暮らすストレスの方が強かったということ。
だからまあ 安全に健康に暮らせることを保障してくれる神獣様がいらっしゃるなら、冒険大いに結構、いってらっしゃい! ということになったのだ。
それに 失敗と後悔は どこに居ようとどんな暮らしであれ、起きるときは起きるもんだという達観が 牧人達に共通する感覚でもあったので、そこはまあ冒険心の強さによって 各自望み通りの選択をしたともいえる。