若者たちの夜話
(7/8)
(家族の日・七夕のお祝いの続き)
ところで ミューズへのプレゼントがなんだったと思います?
なんとなんと それは女性用の浴衣でした!
というのも ミューズが「今年はぬいぐるみより女性用のおしゃれ着が欲しい♡」と言ったから。
紺地に白抜きの朝顔。花びらのふちだけ、濃いピンク・明るいピンクのふちどりがついた浴衣。
帯は 麻の葉模様の入った黄色の兵児帯
大麻100%なので 体を締め付けないけどズレたり緩むこともない締め心地♬
さっそく着替えて、宴に参加したミューズは 金色の髪をふんわりとアップ。
「うわぁ ミューズさん 美人ですね」清明
「君 女性として結婚する気になったら、ぼく求婚者の一人になるよ」スカイ
「そりゃまたどうして?」ミューズ
「君は賢い・勇気がある・腕もたつ・気立ての良い美人だ
僕としても 結婚するなら、気心が知れて 仕事仲間としても信頼出来て 暗殺される心配もなくて、
家庭では一緒にいると安心して寛げて、
公の場でも どうどうとパートナー役を担える人がいいから」スカイ
「じゃあ 僕が 女装はするけど 男として生きたいと言えば?」ミューズ
「だったら 今まで通り クランの仲間だよ。
君が男の気分だろうと女の気分だろうと クランの仲間であることに変わりはない。
でももし 君が女性として夫を選ぶ気になったら、僕は 真っ先に立候補したいってだけの話」スカイ
「確かに 君は 王国内では僕のお目付け役でもあるから、
僕が ほかの男と結婚したいと言ったら、その男の適格性について徹底的に調べ上げる負担が増えるよねぇ。
まっ 今のところは まだまだ結婚する気はないからご安心を」ミューズ
「王国のお目付け役としてはもちろん、クランの仲間で友人でもある僕としては、君の配偶者になる人の素性や人柄のことは気になるね。
だって 君の幸せにかかわることだから。」スカイ
「それにしても ミューズさんなら 花婿役でも花嫁役でも どっちでも映えるでしょうねぇ」清明
「まったく お主は気楽じゃのう」コンラッドが苦笑した。
「さっ そろそろ 子供はお眠の時間だ」コンラッドはゴンを促した。
「はーい。 みんなお休みー
今夜は 僕がキューちゃんを寝かせてあげる♪。
コンラッドは そのぬいぐるみに何て名前を付けるの?」
ゴンは背中にキューちゃん(ぬいぐるみ)とコンラッドのゴマアザラシぬいぐるみを乗せてもらって
ご機嫌で 寝室に向かった。
しっぽの先に結んでもらったリボンが落ちない程度に ご機嫌にしっぽを立てながら
「「「お休み」」」スカイ・ボロン・ミューズも口々にお休みを言いながらゴンをハグして見送った。
・・
「星がきれいだなぁ」ミューズは 椅子の背もたれによりかかって言った。
「きれいな服を着ると 地面に寝っ転がれないのが不便だ」
「敷物をお出ししましょうか?」スカイがクスクス笑いながら言った。
「お気持ちだけで 十分です。気を使ってくれてありがとう」ミューズも笑顔でこたえた。
ボロンは 空間倉庫から野外用の応接セットの追加を引っ張り出した。
「星空を見ながら こうしてクッションの利いた椅子に寝そべるのって すごく豪華な気分だ」
「ほんとですね」清明
「すごいな 君たち いつのまに こんな贅沢を」
スカイも野外用一人掛けソファに座りなおして グラスを傾けた。
「なんだか ますます気持ちが引き裂かれる気がするなぁ。」
清明が 長椅子を横に使って 背中にクッションを追加して 足を投げ出しながら言った。
「ん?どうしたんだい」ボロン
「私はね、コンコーネ領主になれてよかったと思ってるんです。
今までずっと蚊帳の外に置かれて、放浪者として人々の暮らしを眺めているだけだったのに
今は仲間の中心となって いろいろ仕事ができるんですからね。
そのために あれこれ覚えたり気を遣わなければならないことが山もりになってもかまわないってくらいにね。
だけどね、私にとってドラゴンクランは、家族のようなもんなんです。
私が初めて自分のものだ・自分の居場所だって思えた場所であり仲間なんです。
だから もっともっと一緒の時間を過ごしたい。
だけど 家族の一員であるだけでなく、自分の職場であるコンコーネ領の領主としての仕事も大切なんです。
しかも、最近では、コンコーネ領主である私の元にも縁談が次々と持ち込まれますし
私だって 領に定着して一家を構えるなら、結婚して自分の家庭を築きたいなぁって気もちが生まれますし
なんといっても コンコーネ領ではプライダル商品・家庭向け商品を販売企画していますから
結婚や結婚式そのものにも興味が向きますって。」清明
「人間の結婚式って 派手なところは派手だよなー。
友人としては 清明にもスカイにも、政略や商魂がくっつかない幸せな伴侶選びと結婚をしてほしいよ。」ボロン
「そういう君は どうなんだい?」ミューズ
「人間よりも寿命の長い種族であることの良い点は、独身で自分の人生を考える時間をたっぷりもてるってことさ。」ボロン
「私は最近思うんですよ。
結婚はしたいけど、クランの秘密を守る私と結婚しても 幸せを感じてくれる女性がいるのだろうかって。」清明
「確かに それはあるね。
配偶者に秘密を持たれると、いい気持がしないのは、夫でも妻でも同じだと思う」スカイ
「それを思うとね お見合いできないんですよ。
部下の中には、『職務上の秘密を守ることや、仕事のために 家庭で過ごす時間が少なくなるのは許容のうちだけど、ただでさえも夫婦で過ごす時間が短いのに、その上 趣味だの友人との付き合いだので夫だけが一人で勝手に出歩くのは許せない!』って妻に詰め寄られて困っているってぼやく人もいるもので」
清明
「たいてい そんなことを言う男の99.99%は 家庭を維持する苦労を妻に押し付けて
自分は 家庭生活の楽しみだけを 自分が享受して当然のサービスなんだと主張して
妻を使役する男だよ」ボロン&ミューズ
「ほんとにぃ?」スカイ&清明
「これだから 世間知らずの坊ちゃん二人は!」ボロン&ミューズ
「しかしですね、まじめな独身男としては、今の自分の状況でお見合いに臨んでいいとは思えなくて
困っているんです!」珍しく清明は きっぱりと自己主張した。
「一応 クランの誓約としては、君の口は押えてあるし、君が誓約をたがえることを考えた瞬間に
あるいは 君が脱退するときには 君の記憶を消去することになってるから」スカイ
「だーかーらぁ 私は これからもクランの一員でいたいし、思い出も持っていたいのです!」清明
「「ドラゴンクランの活動も領主の仕事の一環だと言い切って、その分、家庭で過ごす時間や 家庭のために費やす時間が少ないし、守秘義務で話せないことが多いけど そんな僕とでも交際してくれますか?結婚を考えてくれますか?って言えばいいだけなんじゃないの?」(か)?」ボロン・ミューズ
「えっ そういうもんなんですか?」清明
「と思うけど。じゃ、君はどういうもんだと思ってたの?」ミューズ
「えっと 結婚したら 男はもっと家庭の為に使う時間を増やすべきかと
それにこの国の男達って、『男の付き合い』とかって男だけのグループをいろいろ作っては出かけているでしょう。
だから ドラゴンクランもそういう男の遊びグループだと妻になる人から思われそうで怖いんです」清明
「ドラゴンクランは れっきとした仕事上の付き合いだってことは わかってもらう必要があるし
変な疑いを噂にされないようにこれから警戒したほうがいいのかな?」ボロン
「その点については 私も気を付けよう。
しかし そこまで疑り深い人を配偶者にしたくないな。
婚約する前に 相手の人柄も見定める必要もあるね」スカイ
「あのさ、結婚したら家庭のために時間を使うのは 男も女も同じでしょ。
女の人だけが 家庭維持に時間も労力も気も体力も使わなければいけないって男が主張・要求することが問題なんだよ。
男も女も それぞれ生まれて来た最初の家族の事情ってやつを背負ってるし、それは千差万別だしさ
各自が選んだ仕事による制約も人それぞれだし、
だから 結婚前の付き合いで その各々のつり合いを調整して、うまくやっていけそうだと思えば結婚、
調整するのがむつかしそうだとか、
結婚の為に ぞれ迄自分が築いてきた生活や人生を これ以上損ねたくない・失いたくないと思えば
お互い好きあっていても 結婚するのやめようねってことになるんじゃない。
そういうのを めいめい考えたり、話し合うのが 本来の婚約期間だと思う。
それをさぁ、婚約して相手を自分のモノとして縛り付けようと邪な考えを抱いたり
本来 新生活を始めるための供託金(=お金を渡して新生活用品を買ってきてもらうためのお金)を
結納だ婚姻契約金だとかって変な名前を付けて、女の人を売買することに置き換える輩が増えたから
婚姻そのものが変な形にゆがめられて、結婚生活が最初から破綻の種を抱えてスタートすることになった人間社会そのものが変なんだよ。」ミューズ
ボロンもうなづきながらミューズの後に続いた。
「婚約破棄の賠償金っていうのも、結局のところ 新生活用品を整える為に結納金を受け取った側が
準備に要した時間と労力に対する詫び金のはずだろ。
だから 多額の資金を渡していれば それに見合う準備をする時間も労力も増大するから、
婚約破棄の賠償金は 結納金の2倍、さらに浮気とか婚約時に嘘をついていたとかだったら、その分の慰謝料も含めて結納金の3倍返しになるだけじゃないか。
もっとも賠償額・慰謝料から先に渡した結納金の分が差っ引かれるわけだけど。
結婚の約束をしただけで、金品(金や宝石など換金価値のある装飾品等のプレゼント)を欲しがる女も、
それで 女を買った気になる男も どっちもおかしいよ!
まして 恋人だから・婚約したからと言ってそれだけで女を支配したがって、
「釣った魚に餌やらん」なんてうそぶく男は言語道断!」ボロン
それにうなづくミューズ。
「えーと ドワーフ社会にも そういう問題があるのですか?」清明&スカイ
「まさか! ばかばかしい。
俺たちドワーフは 人間のそういうゴタゴタに巻き込まれて
人間相手の商売で損をしないように気を付けているだけのことだよ。
僕たちの結婚観は、最初に言ったように、ちゃんと独身時代の生き方と結婚後の生き方と
両方をお互いそれぞれによく考えて、互いにきちんと話し合って調整できてから、新しい家庭を作ることを結婚だと考えています!」ボロン
「エルフもだよ。
だってさぁ 長生きするってことは、結婚してから一緒に暮らす時間も長いってことだもの。
嫌な相手に縛り付けられると それだけで人生が終わって死にたくなるよ。
その一方で、しょっちゅう結婚と離婚を繰り返すなんて大騒ぎもまっぴらごめんだ。
と思うと、単に気楽に同居するだけの関係と、結婚とは厳しく分けて考えるよね」ミューズ
「同感だね」ボロン
「しかし それって 独身時代の禁欲期間が長くならないか?
できちゃった場合はどうするんだよ」スカイ&清明
「避妊その他医学的処置についての技術は確立してるよ。
それに女性だって 不本意な妊娠はしたくないから身持ちが堅い
女性に強引に迫ったりする男はクズだ。社会の一員にしておけないよ。
それに 子供ができたら、婚姻の有無に関係なく、男女平等に費用と労力の負担を分配するし
性犯罪は死刑だし、
被害者が出産した場合は、被害者の子育て負担は免除されるし、
被害者が自分で育てる場合も、本来男が負うべきだった負担分は、ドワーフ執行部が男の全財産没収の上、不足分は執行部の予算で女性に支払うからね。
育てる親の居ない子については もともとドワーフ社会で責任をもって子育てするし」ボロン
「そういえば きみの両親は、そういう子供達の世話もする仕事をしてたね」ミューズ
「そいうこと」ボロン
「だからさぁ 節制は大切だよ。
そして しっかりとした独身時代があってこその 幸せな結婚生活だと思う。
結婚してから~します・改めます!ってのは嘘だね。
婚姻相手を利用します・だまします宣言にほかならないと、僕は思う」ボロン
スカイと清明は顔を見合わせ、結婚やお見合いに関する悩みは もっと人間二人で話し合おうとの思いを込めて 肩をたたきあった。
「ああ そういえば スカイ王様
ひと昔前にはやった 事実婚なんてものもを国王として認めたらだめだよ。
婚姻に至る事前の話しあいや、親族間の調整を無視して 一緒にくっついただけの輩が
いざ別れるときに慰謝料だの 同居相手の親族からの相続権など主張するのは
ズルすぎ、卑怯だよ。
セックスしようとしまいと ただの同居はただの同居、一家ではない。
一家と言うのは、あくまでも運命共同体としての責務と共同を伴うからこそ、相続も発生するんだ。
その基本をないがしろにすれば、結局 声の大きい人・暴力的に人を支配する輩だけがのさばる社会になるからね。
結婚しようとしまいと男女の人としての価値は同等、
結婚後は 配偶者がそれぞれ相手に対して責任をもって共同作業と共同生活を営む
その考えを貫くためには、一家を構えること(=結婚)の意味・責任も明確にしないとだめだ。
便宜上一緒に暮らすだけの関係は ただそれだけ。
それでもお互いがお互いに対して誠意と愛情があれば、それは当事者間で共有して大切にしていけばいい、
そこを徹底すれば、「個人の権利を守る」と言う枠組みの中で、同居している人たちの問題も解決できるはずだよ。
相手が所属する社会や家族の存在を踏みにじって、ある人と同居はしたい・相手の家の財産は使いたいと主張する「事実婚カップル」なんて強盗・ゆすりと同じだということは、社会の長たる国王にはしっかりと認識し続けていただきたいね、
愛人だの同性婚だの重婚・多夫多妻などと、欲望のままにふるまうことを正当化する為のラベルを乱発するだけの人間社会とは、完全に手を切る・同じ世界で暮らせない、これは ドワーフギルドの絶対方針でもあり、ドワーフ社会の総意でもあるから。」ボロン
「げっ それを ここで持ち出すの?
それでなくても 同じ趣旨の文書を、国王就任式で ドワーフギルドから突き付けられて、対応に苦慮してたのに」
スカイ
「だって 僕は ドワーフであり ギルド員でもあるのだから
君と 末長く付き合っていきたいと思えば、ここんところはしっかりとしておいてほしいことだもの」ボロン
「でも それって 種族間干渉じゃないのか?」スカイ
「干渉じゃないよ。
ただ 僕たちは 付き合っていく上での基本的最低条件を明示しただけ。
昔のように ドワーフと人間達とで完全に分離した生活に戻るのか、それとも 近年のように協力関係を続けていくのかは、毎年国王が変わるたびに 人間社会のありようを確認してから決める、それだけのことだよ。
基本の確認をなまって、腐敗を続ける相手との付きあいに慣れあっていると、
ドワーフ社会まで人間社会の巻き添え食って崩壊するっていう意見を支持するに足るだけの知見を
僕は これまでの人生で持つに至ったよ、人間社会と関わった他のドワーフ達と同様に」ボロン
「『共同には制約』が伴うのは、夫婦も種族間も同じか・・
さすが 家族主義のドワーフ文化だ。」スカイ
「平和共存を維持するためには まっとうな家族関係から!だよ」ボロン
「まったく それでよく 恋愛結婚がベースのドワーフ社会が形成できるねぇ。
羨ましいよ」スカイ
「そろそろ 体力的ピークが過ぎたと感じ始めた私としては
長命種の方々の 独身時代の長さがうらやましいですよ」清明
「婚姻と体力は関係ないだろ?
余命と言う点に関しては、子供が成人した時の自分の年齢を考えると、
子作りの時期については いろいろ思う点もあるけど」スカイ
「若い時ってのは、今はちょっと無理して何かを始めても
そのうち自分の体力と技能が増して楽にできるようになるって 物事を楽観的に考えられるでしょ
でも 歳をとってくると、今無理なことは このまま続けるもっと無理になるから何とかしなくちゃって 思うじゃないですか。
もっと 歳をとると、これから体力的にできることは減ってくるから、
今から 今やっていることを精選して打ち込む対象を決めなくてはって思うらしいし」清明
「あっ そうか、そこまで考えなかったな」スカイ
「僕たちは 学校を卒業する前に そういうことを考えて人生を決めろって教えられたけど」ボロン
「僕なんか 遊びたい盛りのころから そういうお説教は耳だこだったねぇ。
せっかくの人生訓話も あまりにも幼いころから聞かされると 人生を楽しむ前に終わっちゃいそう」ミューズ
「アハハ 人生訓って 学ぶのが早すぎても遅すぎても いろいろ不都合があるんだな」ボロン
「そう思うわ。でも 知らないよりはましだと思うけど
そう思えるようになるまでは 大変だったんだよ~」ミューズ
「ミューズ、来年は 君にも ぬいぐるみを進呈しようか?」ボロン
「どうせなら うーんと豪華なドレスがいいなぁ。
変身って、つかの間 別の人生を歩んでいるような錯覚ができて楽しいじゃない♪」ミューズ
「君の人生の一部を 王妃として使ってくれたら、その間は 王妃として使える範囲の予算で
目いっぱい着飾ることができるよ」スカイ
「残念ながら 僕の人生は それだけでは収まらないものなんだけど」ミューズは笑ってこたえた。
そこに ひょこっと姿を現したコンラッドが言った。
「噂によると トリックスターは 女に化けて どこかの国を滅ほしたことがあるらしいぞ。」
「やだな 昔のことじゃない。
単に僕の美貌に目がくらんだ男達に ふざけるなって思い知らせただけのことだし。」ミューズ
「トリックスターだったころは 悪女にも勇者にもなって いろいろな人生を生きた方なのでしょうか?」清明はミューズに尋ねた。
「さすが清明、察しがいいね」そういってミューズは微笑んで見せた。
「だけど 僕も そろそろ 家族と一緒に落ち着きたいよ。
それが 今も昔も変わらぬ僕の夢さ」ミューズ
笹の葉と一緒に、短冊もまた 夜風にふかれて ゆらゆらと揺れた。