ゴンちゃん♡
(3/8)
(荒れ地にて)
シャア シャア 魔牛は 後ろ足で砂をかく
ゴンはさっと舞い上がり、魔牛の額を蹴っ飛ばす。
コキっ 魔牛は首をひねられて昇天。
「ちがう ちがう 抱き着いて相撲をとるんじゃよ」コンラッド
「相撲?」ゴン
「ほんとにたくましくなったね」
二人の様子を見ていたスカイが声をかけた。
「それって いいこと?悪いこと?」ゴンがスカイにのもとへと ゆっくりと歩きながら尋ねた。
「もちろん よいことさ。
『少し会わないでいるうちに大きくなったなぁ』と 喜びに満ちた誉め言葉だよ」スカイ
「よかったぁ。 最近 大きくなったんだから力の使い方に気をつけろとかばっかり言われて、僕めげてたんだ」ゴン
「あはは 僕も 同じ事を さんざん言われて育ったよ」スカイ
「ほんとう?」ゴンは嬉しそうにスカイに駆け寄って、スカイにぶつかる寸前に急ブレーキをかけようとして、地面に大きな溝をつくり、それでも止まれなくてスカイが張った障壁に勢いよくぶつかって、ゴンという衝撃音とともにぶっ倒れ、地響きをたてた。
「だいじょうぶか?」ボロンのくぐもった声が聞こえる
「まだ だめだ」コンラッド
ボロンは 昨夜スカイから手渡された避難袋の中にもぐりこんだまま、
ゴンの爪が作った地裂の中に転がり込み、さらにその上に土がどんどん崩れ落ちている真っ最中である。
ゴンが勢いよく倒れた衝撃で あたりには砂埃が立ち込めていた。
コンラッドは砂埃の外に立って、ゴンをさっと自分の側に引き寄せ、ゴンの健康チェックだ。
「ふむ 骨折はないようだな。
しかし 爪がはがれかけておる。
スカイ すまんが消毒してやってくれ」
「頭がガンガンする」ゴン
「障壁にぶつかり あの勢いで倒れたのだから仕方がない」コンラッド
「いたいよ~」大粒の涙を浮かべるゴン
「じっと休んで 痛みが治まるのを待つより仕方がないな」
コンラッドがゴンに寄り添う。
一方 スカイはボロンの入った避難袋を地割れの中から引っ張り出して、
ゴンの目の前に移動してきた。
「うぉ」ボロンは袋から首を突き出した。
「何が起きた?」
「どうして袋に入っているの?」ゴン
「あの砂煙は」と言ってスカイが指さした。
ゴンは横目で納まりつつある砂煙を見た。
「君が 勢いよく倒れたことによって巻き上がった砂」とスカイ
「ボロンはね、君が急ブレーキをかけたときにできた溝にハマっていたのを 僕がひきあげてきた。
あの溝は 急にできた深い地割れだったから、今現在その穴めがけて周囲の土が流れ込んでいる真っ最中。
僕が引っ張り出さなければ ボロンは今頃生き埋めだね」
スカイは ゴンのつま先を洗浄・消毒しながら答えた。
「実はゆうべ、スカイからこの避難袋をもらったんだ。
緊急時に 僕が逃げ込めるように。
まさか すぐに利用する羽目になるとは思わなかったけど」ボロン
「そんな まさか」ゴン
「ミューズが 今のできごとを録画しておるから、お前の痛みがおさまってから ゆっくりと確かめるとよい。」
コンラッドが優しくゴンに話しかけた。
「でも 僕は なににぶつかったの? どうして?」ゴン
「君が止まり切れなくて僕にぶつかったら 僕の体がつぶれるから、僕の体に当たる寸前に発動した僕の防御障壁にぶつかったんだよ。
一応 君の体に回復不可能なダメージを与えないようにクッション性の高い物を発動させたんだけどね」スカイ
「あー疲れた。僕も一休みしたい」
スカイは額の汗をぬぐって、座り込んだ。
「飲み物は 冷たいの暖かいのどっちがいい?」ボロン
「冷たいジュース希望」スカイ
「脳震盪を起こしたゴンには ぬるめの茶が良いのではないか?
わしには熱い紅茶をくれ」コンラッド
ボロンは 常時携帯しているマジックバックからめいめいに望みの物を渡した。
砂煙がおさまると、ミューズが高所からゆっくりと降りて来た。
「撮影終了。僕にもスカイが今飲んでいるのと同じものを頂戴」
「どうぞ」ボロン
ミューズは嬉しそうにごくごく飲んだ。
「程よく冷えた フレッシュメロンジュースは本当においしいねぇ。
甘露甘露」
「わしは 魔牛を保管してくる」コンラッドは 先ほどゴンが倒した魔牛を収納しに行った。
「家畜たちの餌と水はたりてるから 今夜はこの近くでキャンプしようか」
ミューズは ゴンの体の上にテントを建ててやった。
「ゴン 頭痛やめまいは どんな具合?
体もまだ 傷むのか?」ボロンは心配そうにゴンを覗き込んだ。
「さっきより だいぶましになったけど、まだ痛い
こんなに痛くなったの 生まれて初めて
「そうか 今は ゆっくりと休んだ方がいいよ」ボロン
ゴン以外の者が昼食をとっている横で体を休めていたゴンが尋ねた。
「スカイは どうしてよけなかったの?
君なら 僕にこんな痛い思いをさせずに よけられたんじゃないの?」
「君は ブレーキをかけようと爪を地面にたてていただろう。」スカイ
「うん」ゴン
「でも 君は止まれなかった。むしろ爪がはがれそうだった。
僕が 君を避けていたら、君は止まることなくすべりつづけて 爪がはがれて傷口に土や黴菌がめり込んだり、
体が変な倒れ方をして骨折したり腱が切れたりの重傷を負う危険が高かった。
だから ほどほどの障壁を張って君を止めたんだ。
君がケガをしない倒れ方をするように。
だって 障壁にぶつかって君の体が壊れてもこまるからね」スカイ
「えっ そうなの?」ゴン
「ああ」スカイ
「それって すごくむつかしい調整だろ」ミューズ
「ああ。
一応 ごんの成長ぶりについては 昨夜のうちにいろいろ聞いてたから
必要になりそうな魔法の調整方法については 考えていたけど
まさか早速使うことになるとは思わなかったよ」スカイ
「そっかー。ごめん。
スカイが わざと僕に痛い思いをさせ罰を加えようとしてたのかと思っちゃった。」
ゴンが小さな声で言った。
「僕は そんな人でなしではないよ!」スカイ
「ごめんなさい」ゴン
スカイはゴンの横に座りに行った。
そしてゴンの頭をなでながら言った。
「君が赤ん坊の間は 君がつらい思いをしないように、僕たち大人は全力で君を守ってきたよ。
でも 子育てっていうのは、子供の成長に合わせて、少しづつ守る度合いを緩めていくことでもあるんだ。
だって 君だって自分の力でいろいろなことをやってみたい、いろんなことを自分でできるようになりたいんだろ?」
「うん」
「君が 自分の力で何かをやろうと思えば、できるようになるまでの練習中に失敗することも増えるだろ?」
ちょっぴり悲し気に「うん」
「その時 側について 失敗を反省する手伝いがあると、君は助かるだろ?」
「うん。コンラッドがいつもいろいろ言ってくれるから、僕は次に何をどうするか、次の試し方を考えたり、練習方法がわかる」ゴン
「でも あーやれ こうやれってばっかり言われるのはいやなんだろ?」スカイ
「あは 命令されてばかりではつまらないね」ゴン
「『危ないから ダメダメ』とばかり言われるのも嫌なんだろ?」スカイ
「だって 何もできないのはつまらないよ」ゴン
「だから 僕たちだって、君がいろいろ試すのを見守って、君がひどいけがをしない程度に手伝うんだよ。
君としたら いつもコンラッドが君に張り付いて、君が走り出そうとするたびに君を押さえつけるのと、君が自分の気持ちと考えに従って走って 止まれなくてぶつかって痛い思いをしても、それのどこを修正すればいいのか確かめて 次は上手に走ったり止まったりできるようになるのと どっちがいい?」スカイ
「痛いのは嫌だけど 自分でいろいろ試して工夫するのは好きだよ」ゴン
「じゃあ 痛くない程度にいろいろお試ししてみて」スカイ
「それでも 痛い思いをしたらどうするの?」ゴン
「自分の生き方を決めるんだよ。
ひどいけがをしないための注意事項ってのを先人から学んで
その枠の中で生活するのが 基本だよ。
そして 痛い思いをしたくない人のための注意事項ってのも わりと多くの大人の間で共有されている。
その一方で 何かを極めたいと思うエキスパートってのは、回復不能な損傷を負うリスクを理解して 事故防止のための注意事項を守りつつ
高いスキルを取得する過程で 痛い思いをするのは仕方のないことだと覚悟して 技の高度化・完成を目指してく人達なんだ。
技の完成っていうのは 逆に言えば成功確率と失敗した時のリスクを計算することでもある」ボロン
不思議そうな顔をして考え込んだ後、ゴンはボロンに尋ねた。
「ボロンは どっちのタイプなの?」
「俺は 子供のころは なんでもいろいろ挑戦して
でも 痛い思いばかりするのも嫌だから ほどほどに頑張ったり
でも 枠の中で生きるのもつまらないから、安全マージンを取りつつ挑戦したり、
時には賭けに出たりの繰り返しかな?
痛い思いってのは 肉体的につらいだけでなく、心の問題、人付き合いの苦しさにも当てはまることだからね」ボロン
「ふーん」ゴン
「どっちみち 親とか先輩から いろいろ忠告してもらえるのは子供のうちだけだから。」ボロン
「大人の世界って 忠告するふりして人を陥れる悪意満載だからね」スカイ
「でも スカイもボロンも、君には正直だし
僕やコンラッドだって 君のことを大切にして一生懸命・一所懸命 君の成長を応援していることだけは 疑わないでほしいな」ミューズ
「ここには お前に悪意を持つものなどおらん。
わしもスカイもボロンもミューズも いつだってお前に対しては好意しか抱いておらんぞ」コンラッド
「スカイは ここから出て人間の世界に行っちゃっても やっぱり僕のことを大切に思っているの?」ゴン
「もちろんだよ。
人間の立場で君に交渉しないといけないときには、ちゃんと国王の顔をして君にそう言うよ。
そうじゃないときは いつだって 僕はドラゴンクランの仲間として君に接しているよ。
今も これからも」スカイ
「そっかー。よかった」ゴン
「ねえ 今夜は君の フワフワモフモフを味わいながら 君といっしょに寝たいなぁ」スカイ
「わーい! 変身してよかった。
変身してはダメってことは覚えたけど
もう変身しちゃったんだから フワモフのいい所を認めて欲しかったんだ♡」ゴン
というわけで その日の夜は ゴンに抱き着いてスカイはゴンといしょに眠りについたそうな。
それを眺めてコンラッドがつぶやいた。
「やっぱり スカイが子供の時に ぬいぐるみの一つも買い与えたほうがよかったのかの?」
「大人になって 初めて人間の社会でぬいぐるみを見たときは ほんとに驚いたね。」ミューズ
「君たちの誕生日はいつだい?
君たちの誕生日プレゼントに ぬいぐるみを用意するよ」ボロン
「誕生日がいつかはわからないけど・・プレゼントがもらえる日が周期的に巡ってくるというのは憧れるなぁ」ミューズ
「そういえば エルフって 卒業祝いや就職祝いがないの?」ボロン
「学校ないし 僕自由業だから就職ないし」ミューズ
「あ そうか。自由に見えて 祝い事の記念日が自動的に発生しない生き方もあるんだ。」ボロン
「そいうこと」ミューズ
「クラン仲間としての対応も考える必要があるね。
今の君の為にも 将来のゴンの為にも」ボロン
「わしも ぬいぐるみが欲しい。そういう経験も面白そうだ!」コンラッド
コンラッドのジョークに乗って ミューズが笑いながらフェンリルに抱き着いた。
「君が欲しいぬいぐるみのモデルは どんな形?」