狩場と牧場・ゴンの庭
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ゴンの生活ぶりを語る前に 龍の草原について補足説明を入れておく。
ゴンちゃんにとって世界は竜の山の回りに広がる草原・境川・森林・熱い川・荒れ地・内輪山・ジャングル・外輪山と、その地下からなりたっている。
それゆえ 外輪山から内側の地上部分を「龍の庭」と呼ぶこともあった。
もちろん知識としては、外輪山の外に 人族が住む国があり、その国は 竜の山を囲む街道沿いに広がっていることは知っている。
そして スカイやボロン達が その人族の町や村から来たことも。
人間達にとっては、外輪山そのものが「龍の山」であった。
ボロンのように 龍の山について古文書を徹底的に調べた人は、外輪山の中のジャングルの奥に龍の山があり、その山の中の洞窟に龍が住んでいるかもしれないと考えていた。
実際には ジャングルの奥にある山だと思われていたものは内輪山であった。
つまり 龍の庭の中では 外輪山が一番高く その次が内輪山である。
国王スカイとその側近のごく一部は、龍の山にドラゴンが住んでいることを知っているが、
今はまだ ゴンの存在そのものが極秘事項である。
幼龍が自分で身を守り、人族とも渡り合っていくほどの知恵がつくまでは
ゴンの存在を伏せておくというのが、コンラッドを筆頭とするドラゴン・クランの総意であった。
国王スカイとしても、ドラゴンの存在が人々に知られると、それを政治利用しようとする有象無象が湧いて出て、手がつけられなくなると困るので、極力ゴンの存在もその実態もクラン外の者には知られないようにしたいと考えていた。
「なんといっても 僕はまだ新米国王だからね。
今はまだ 自分の権力基盤を固めることに専念したいよ。
もちろん クランメンバーとして ゴンの生活と成長に必要なことには手を貸すけど。
それに ドラゴンと共存できる社会っていうのは、ドラゴンクランみたいに人族が他種族と平和的に友好的に協力できる社会だと思うから、
でも今はまだ 人間とドワーフとの間でも人間側に分け隔て感を持つ人がいる状況だから、
もっともっと人間の心の垣根を取り除かないとね。
人間は ドワーフギルドに対しても 人間側にとって都合よく使える存在か否かと言う基準でしか考えない人が多い状況なんだから。」とはスカイの弁
それゆえ ゴンは 空を飛ぶときは 必ず内輪山よりも低い位置で飛ぶことと義務付けられていた。
つまり 龍の山の周囲に住む王国の住民達から その姿を目撃されないように。
龍の草原は 大雑把にいうと、龍の山を中心に北東部分に、館や小屋があり、田畑や牧場など開拓地が広がっている。
そして竜の山より西側半分が、魔獣の居住区である。
クランメンバーは境川を渡って、森林地帯で、キノコ狩りをしたり、樹液や果実を集めたりと森の恵みを頂いている。
境川を渡る時には、徒歩あるいはダーさんに乗って浮橋を渡る。
この浮橋という特殊加工した板が宙に浮かんで川の両岸をつなぐのである。
浮橋は いつもはクランメンバー共有の空間倉庫に収納されている。
必要な時に 必要になった場所で、スカイ・コンラッド・ミューズと言う魔法の使えるメンバーが浮橋を取り出し 川に渡す。
ゴンもいずれは この空間倉庫から共有物を取り出すことができるほどに成長するであろう。
ゴンは幼い頃、この浮橋を作るのに必要な「浮揚の花の花粉」を集めに クランメンバーといっしょにジャングルまで行った。
ゴン達が ジャングルまで遠征したのは この時だけである。
最近のゴンは 龍の草原の東半分の上空を飛んだり 西側の地面を走って遊んでいた。
まだまだ 幼児さんなので、大人と一緒に過ごすことが多く、最近 ようやく龍の草原で一人で遊ぶようになったばかりである。
というかつい最近まで ゴンはどこに行くにも何をするにも、ボロンがいっしょであった。
そして 空を飛んだり 魔法が関係するときだけミューズやコンラッドもゴンに付き添っていた。
ゴンがボロンと離れて行動するのは、狩と食事の時だけであった。
生まれたてのゴンのために ボロンはスープを作ったり乳を搾ったりして食べ物をゴンの口まで運び、ゴンの離乳食(肉のすりつぶし)を作って アーンと口をあけたゴンに食べせていたのもボロンであった。
だが ゴンの歯が生えそろってからは、コンラッドがゴンに狩をして獲物を食べることを教えた。
だから 今では お祝いの時やゴンがボロンに甘えたい気分の時に
人族の食べ物をボロンからアーンしてもらうのは ゴンにとっては特別な出来事・至福の時で、
普段は1日1回 荒れ地に飛んで行ってコンラッドといっしょに食事をしていた。
たとえストックしている肉を取り出して食べるだけでも、
生肉にかぶりつき 生き血をすする姿は、人族にとって刺激が強すぎたから。
やはりドラゴンや神獣にとっては ホカホカとした獲物の肉と血がなによりの御馳走なのである。
ドラゴンや神獣にとって 魔力成分の多い魔獣は必要不可欠なものであった。
特に幼龍の成長には魔獣の肝臓がかかせない。
それゆえ ドラゴンクランが発足したばかりのころ、スカイとコンラッドは、王国の外の世界まで遠征して 多くの魔獣を捕獲してきて、龍の草原の西側に放牧した。
といっても 当時は龍の草原そのものが荒れていたので、一度にそれほど多くの魔獣を養うことができなかったので コンラッドはたびたび国外まで獲物を求めて遠征していた。
というのも 魔獣と言っても草食動物ばかりであったから。
ミューズがクランの仲間になってから、彼の生育魔法と魔力のおかげで龍の草原全体が豊かな牧草地や田畑となった。
そこで人族の食糧となる家畜も、神獣達の食糧となる魔獣も新たに仕入れて繁殖させることが可能になった。
龍の草原の西側に住む魔獣たちは、ミューズの足止め魔法のおかげで、東側まで来ることはない。
元が野生の魔獣なので、龍の草原に来てからも 自然繁殖・野生の暮らしである。
獣たちは もともと強敵の気配には敏感である。
だって 食べられたくないのは 生物に共通する感覚だから。
それゆえ ゴンの狩の稽古も ドラゴンや神獣のお食事も 龍の草原の端を流れる川と、森林との間にある荒れ地で行なっていた。
神獣フェンリルであるコンラッドは、遠くから獲物を瞬間移動させることができた。
それゆえ 自分が食べる分もゴンの狩の稽古に使う魔獣も、遠くからひょいと荒れ地に移動させていた。
龍の草原で暮らす魔獣たちにとっては 突然仲間が消えてもその理由はわからない。
一方 ゴンは荒れ地で ドタバタとコンラッドが用意した狩の獲物(魔獣)を追いかけまわして 狩の練習&お食事。
荒れ地は もともと石しかない荒れ果てた土地だったが、ミューズの生育魔法の影響で 少しづつ草が生え始めた。
そこで 自然環境の中で隠れている獲物を見つけて仕留める練習ができるようにと
コンラッドは小型の魔獣をわざと、多めに荒れ地に運んで ゴンに狩と食事をさせた。
ゴンはもともと 必要な分だけ食べて、食べる分だけ狩をするようにと教えられて育っていたので、目の前に魔獣たちが居ても 空腹でない限りは手を出さない。
それゆえ 荒れ地でも 少しづつ魔ウサギなど小型の魔獣が自然繁殖してきている。
龍の草原の魔獣たちは 食住に恵まれた環境の中で生活しているうちに、どちらかと言うとおっとりした性格になってしまったのだが、荒れ地で繁殖している魔獣は、もともとがドラゴンの食べ残しであり、食住においても厳しい環境で生活しているので、警戒心が非常に強い。
コンラッドが 荒れ地に住む魔獣の繁殖ぶりを見極めては、時々 ゴンに自分で餌を見つけて狩をせよと課題を科す日もあるので、荒れ地に住む魔獣にとっては、ドラゴンの襲撃にさらされることは 日常の一部であったのだ。
一方 龍の草原に居るときは殺気を出さないようにとゴンは気を使っていたので
草原にいる魔獣も家畜たちも ふだんは ドラゴンの存在を全く気にしていなかった。
家畜たちは 種類ごとに 柵で囲まれた放牧場と牧場付属の家畜小屋で生活をしていた。
ボロンとミューズが手分けして 毎日家畜たちを見回りその世話をしていた。
ダーさんのように 家畜から進化?してコミュニケーション能力を身に着けクランメンバーになった動物もいた。
ボロン達からすると 家畜が進化してコミュニケートする間柄になると、食料にできなくなるので、龍の庭にあふれる魔力成分の影響が 家畜たちに及ばないようにと最近は気を付けている。
といっても そのメカニズムがよくわからないので どこに気をつければいいのか よくわからないのであるが。
「だってさぁ 家畜の世話をするときに無言を貫くのって むつかしいよ」ボロン
「やっぱり 家畜と言えども親愛の情が湧くし、歌いかけたくなるよね」ミューズ
「そうそう、元気か?とか 具合が悪そうなときはいたわりの言葉をかけたいじゃないか。
働かせた後はねぎらいたいしさぁ」ボロン
ちなみに 人族の食肉確保のために家畜をさばくのもゴンが荒れ地で行っている。
肉は人用。血はドラゴンと神獣ののどを潤している。
おかげで ゴンは年齢の割には 獲物の解体と有効活用のための分別・保存の能力を養うことができた。
ゴンは非常食として自分専用の収納空間に解体した肉類を常備している。
こうした空間収納に関する技もコンラッドがゴンに教えている。
(鳥の羽をきれいに抜いて 鶏肉を上手に食べることのできるドラゴンと言うのは非常に珍しい)とは古のドラゴンの生き方を知るコンラッドの、口には出せない感想であった。
一方ゴンが 鶏肉を生食したあとの感想は
「鶏の肉って ほんとにちょっぴりしかないから、ボロンにお料理してもらって あーんって味見させてもらう方が楽しいな♬」であった。
ちなみに鳥の血抜きは 物理ではなく魔法処理で 瞬間的に神獣達の胃袋に収めている。なにしろ ドラゴンにとっては 小さすぎるのである鶏は。
(小さな獲物を栄養源として無駄なく吸収することを覚えて置けば、大型の獲物が不足した時に生き延びることに役立つかもしれぬ)
コンラッドは ゴンにいろいろな食べ方を伝授しながら 食料不足に悩んだ古の龍のことを思い出しながら心の中で考えた。
※全体の公開日時設定を終えたあとで、このページを挿入した関係で、本日17時に もう1話公開します。今日だけ変則的な公開となってすみません。