王子誕生
(3/5)
王妃が双子を宿していることは、国王夫妻と医師・助産婦のみが抱える秘密であった。
というのも 双子が二人とも男児であった場合どうするかで夫婦の意見がわかれていたからであった。
国王は いささか迷信深くて、双子の男子は世継ぎ争いの元となりやすく縁起が悪いから、一人を追放しようという考え、
王妃は、国法に従って、最初に出て来た子を第一子として世継ぎとして育て、次に出て来た子には弟としてのわきまえを教えながら育てればよいという考えであった。
「しかし 双子の区別がつかないほどそっくりであっては困る」国王
「育つ過程で個性に違いが生まれますから、問題ありません」王妃
「・・産まれた子を見て考えよう」国王
「法に従って王太子を定めるのが私たちの役目です」王妃
一応新生児用品は、男女どちらかわからないからと言う口実で、男児用女児用の2セット用意してあった。
これも 「男は青 女はピンク」と主張する国王と
「ベビー用品に男女の区別は必要ありません。色だってとりどりにすればいいのです」という王妃で見解の相違はあったが。
・・
さて 王妃は無事に二人の王子を産んだ。
第一子は 大空のように広い心で民をいつくしむようにとの願いを込めてスカイと名付けられた。
第二子は ウィリアム(この国で好まれる一般的な名前)と名付けられた。
乳幼児死亡率は高いから、当面 双子が生まれたことは伏せようと、国王は押し通した。
王妃は 二人の赤子の世話と安全を 二人ともに確保するためには、最初から双子だと公表しないと危ないと反対したのだが、国王は、出産後の疲れと授乳の疲れで王妃が弱っているところにつけこんで うやむや・ごにょごにょ戦法で押し切ってしまった。
ごにょごにょ戦法と言うのは 明言を避け、質問には ずれた話題を持ち出すなどしててごまかす手口である。
そうこうするうちに、妻と夜の時間をもてなくなった国王が気晴らしに城下町の飲み屋にお忍びで出かけて 子供の流行り病を拾ってきた。
それこそ酔った勢いで、飲み屋帰りの汚れた服と手足のまま新生児室に乱入し、赤子のぽっぺをつつき手足を握り・・二人の赤子は流行り病で高熱を出してしまった。
幸いにもスカイは後遺症もなく回復したが、ウィリアムには障害が残った。
自力で動くことがなくなり、周囲からの刺激に反応しなくなったのである。
自力では乳も吸えぬウィリアムを生かそうと王妃は必死になった。
結婚当時よりも15キロもやせてしまった王妃を見て、国王は赤子の一人を外に出そうと言った。
このままでは 王妃も二人の王子も3人とも死んでしまうと心配して。
王妃は泣く泣く 元気な方の赤ん坊スカイの養育をほかの者にゆだねることにした。
「この子は 丈夫で利発なこどもです。きっと 立派な皇太子に育つでしょう」と言って。
国王は 自分が息子たちに流行り病をうつしてしまった弱みがあるので妻に逆らえなかった。
王妃は 自分のつてを使って、神獣にスカイをゆだねることにした。
王妃に呼び出されてフェンリルは言った。
「わしは雄だ。乳はだせん」
「哺乳瓶やおむつや・・必要なモノはすべてこちらで用意します。
神獣の力でこの子を守り、神獣の能力でこの子を保育し
神獣の知恵で この子が将来立派な国王になるように教育してください」
王妃はひざまずき フェンリルの足にしがみついて頼んだ。
王妃にしがみつかれたフェンリルは しばらく鼻先を天に向けて考え込んだが
「わしの知恵だけでは 子供に人付き合いを教えることはできぬ。
人付き合いの力は 人の輪の中でそだってこそ初めて身に付き育つもの
そこは お前たち親が責任をもって教育せよ」と言った。
こうして 生まれてまだ半年もたたぬうちに スカイはコンラッドの養子となった。
※ 土日休日は 朝8時 夜8時の2回投稿
月~金は 朝7時の1回投稿です