事のはじまり
初めて作品を描いてみました。冬休みに全部書き切ってしまう予定で頑張ります。
『それでは協議会の皆々様、これより魔術師セウス・ローレンの今後の処分を決定いたします。』
『セウス・ローレンの罪状につきましては、禁術の使用及びヴィンセント伯爵令嬢殺害の── 』
一人の少年は冷たい床に座りながら、何処か他人事のようにそれを聞いていた。ホールには声高に文を読む司会役の男と少年、そしてそれを囲むように配置された椅子に静かに鎮座する老人達だけしかいなかった。
『たった今をもって、セウス・ローレンの魔術師の資格剥奪後、融解による処刑が決定いたしました』
少年は真面目に生きてきたつもりだった。しかし、想像よりも現実は厳しく、複雑に水面下で絡み合っていた。
「おい、ダラダラしてんじゃねぇぞ、セウス!」
「すいません、今、召喚します!」
今日はギルドが街を守る防衛任務の日だ。街を魔物から守るため、国家に所属するギルドが月一で選ばれて近くの市町村を見張らなくてはならない。国からの命令であるため逆らうことはできないが、それ相応の給与が出るわけでも無いので任務を嫌がるギルドも多い。しかし、ここで戦績を挙げれば国家直属の魔術師になれるチャンスも巡ってくるため、躍起になる人間も少なくない。そしてそれはセウスの上司も例外ではなかった。
「クソ…使えねぇヤツ連れてきちまったな」
「ラルフ隊長!村の入り口にアンデットが軍団で押し寄せてます。すぐ他のギルドにも応援を出すべきです!!」
「うるせえ!弱音吐くくらいならもっとマシな精霊一匹でも召喚しろ役立たず!!」
街は日暮れ前までの様子とは変貌していた。逃げ遅れた住民の悲鳴と魔物の死骸やら建物の瓦礫のせいで、さっきまで賑わっていた面影はひとつも残っていない。今まで魔物がこの街を襲った前歴が全く無かったため、ラルフの判断によりギルドからは少人数しか出動しなかった。
──僕と隊長含めてたった8人…多分これじゃ朝まで街は持たない…
「おい役立たず、俺は応援を呼ぶからお前はこの街の屋敷に迎え。領主とその娘がいるはずだ」
その時、突然ラルフ隊長がセウスに向き合い低く言った。領主というと、確かこの街に住む伯爵のことだ。うちのギルドに多額の支援をしてくれているパトロンでもある。
「森に一番近い場所にある屋敷だ。もしかしたら被害がここより大きいかもしらんがな」
「だ、だとしたら…もう、手遅れの可能性もあるんじゃ…」
かれこれセウス達がモンスターと戦い初めて一時間は経っている。なぜここで急に屋敷を気にするのかセウスにはわからなかった。
「一応ここの領主様は魔術に少しは精通してるらしくてな。屋敷に多少の結界の類いは施されているらしいぞ」
「わかりました。…ただそれ、もしかして…、僕一人で行くんですか…?」
「俺が今手を離せるとでも思ってんのか?」セウスを睨みながら隊長が顎髭を撫でた。ラルフがいつもイラついた時に決まってやる動作だ。「それともお前、こんな時にまで怠けようとしてんじゃねぇだろうな」
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街からかなり離れた場所に屋敷は建っていた。そこそこ大きな街並みからわかるように、そこの領主ともなれば豪華な暮らしをしているに決まっている。現に大きな塀と結界に囲われ、そこから覗ける庭園と後ろにそびえる真っ白な屋敷壁には傷一つとしてついてはいなかった。しかし、屋敷は不気味なほど静まり返っていた。
──よかった…もうみんな避難してたみたいだ…
セウスは門の前で安堵のため息をついた。街は小型のモンスターが大勢襲って半壊状態だったため、もしかしたら屋敷の人間もすでにやられているのかと思ったからだ。どうやら屋敷の人間はほとんど別の村かこの街の地下に逃げ込んだらしい。
──念のため逃げ遅れた人がいないか確認しないと……
セウスは強い戸惑いを覚えていた。この街でモンスターの目撃通報があったのは街の中心地である。通常モンスターが生息するのは森や山などの自然形成された場所であり、人里に降りてくるのは珍しい。そしてその場合、一番最初に被害を及ぼすのは森に近いこの屋敷であるはずだ。いくら結界が強くても通報が全くないのはおかしい。
「えっ?」
周辺を見渡していたセウスは間の抜けた声を上げた。突然さっきまで屋敷を包んでいたはずの結界がガラスのように砕けて散ってしまった。
「は?どうして勝手に…」
砕けた結界のカケラが夜空を舞い、屋敷の重たい門の扉が音を立てて開き始める。セウスの目の前に美しい庭園が広がった。月夜に照らされた花々と真ん中に設置された美しい噴水、そして地べたには純白のドレスを着た血まみれの少女が転がっていた。