第四話・長門の気持ち
このくらいのペースで更新できればいいですかね;
三人が甲板に出ると心地よい潮風が吹いていた
初めに口を開いたのは長門だった
「斎藤少佐。それで私にお話とは?」
「はい。山本長官と長門は連合艦隊旗艦の件、ご存じでしょうか?」
「うむ、話は聞いておる。大和が就役したら旗艦をこの長門から大和に移譲するということだったな」
「はい。私は長官からお聞きしました」
山本長官に続いて長門も、旗艦の話は知っているようだった
「そうですか。それを大和に話したら長門のことや他の艦艇のことを心配していました」
「心配・・ですか?」
「連合艦隊旗艦という大役に就役したばかりの自分がなってもいいのか、これでは長門をはじめとした連合艦隊各艦に申し訳ない・・・というのが大和の気持ちです」
「・・・・・」
「あははははは。大和はなんとも仲間思いのいい子ではないか、なあ長門」
まさに呆れたと言わんばかりの表情の長門とそんな長門とは裏腹に笑い声をあげる山本長官の二人である
「仲間思いなのは結構なことですが・・・このわずかなお話で、大和とは人が好過ぎる印象を受けます」
大和への率直な感想を言った長門。その言葉には一抹の不安が感じられた
連合艦隊全艦隊の頂点に立つこの役目をそのような状態でこなせるはずがない、長門は心中で強くそう思ってしまった
「山本長官のおっしゃる通りいい子ですよ、大和は。とても世界最大の戦艦とは思えない程に」
斎藤少佐の言葉は大和を理解しきっている重みが感じられた
それに続いて長門は斎藤少佐に聞いた
「斎藤少佐、この後は呉に?」
「はい。大和の就役を見届けるまでが特務技官である私の仕事です」
「では大和に。私や他の艦のことは気にすることはない。あなたはあなたの役目を全うすることに全力を注ぎなさい。なによりあなたには連合艦隊全艦がついているということを忘れず、頼ってくれていいと伝えてください」
連合艦隊旗艦という役目をこなすだけはある。そして大和を支えることが旗艦を譲る自分が次にすべきことなのだと、長門の言葉にはそれだけの重みがあった
「必ず一言一句間違えずに伝えます」
しばらく三人は長門の甲板で談笑して、山本長官が斎藤少佐に言った
「ところで少佐。君は艦政本部の所属かな?」
不意に山本長官が斎藤少佐の所属を聞き、少佐はすぐに答えた
「はっ、艦政本部・第四部は造船部の所属になります。大和建造に伴い艦政本部から呉鎮守府に出向という形になっています」
「ふむ。少佐は艦隊勤務に就くのはいやかね?」
それを聞いた山本長官は予想もつかないようなことを言った。
「艦隊勤務ですか?しかし、私は艦隊勤務の経験がほとんどありません」
「経験などこれからいくらでも積めるじゃないか。私は君が気に入ったよ。君さえよければ連合艦隊司令部に来ないか?」
山本長官の申し出に斎藤少佐は心底驚いてしまった。連合艦隊司令部とは海軍の実質的な前線司令部である。参謀出身の人間ならば必ず所属したいと願う部署の一つである。
「私を連合艦隊司令部にですか?しかし、私は一技術将校に過ぎませんし、あるのは造船関係の知識だけです。とてもお役に立てられるかどうか」
「大和建造に携わっていたのだ、十分優秀だと私は思うがね。それに造船の知識とは船をよく知っているということだろう。長門はどう思う?」
「はっ。斎藤少佐は技術将校としてとても優秀な御方だと思います。何より司令部には艦のことを理解している人間を少しでも多く、据えるべきかと」
これには艦をただの兵器としてではなく、海軍の、そして日本の一部と見てほしいという長門の気持ちがこめられていた
「長門もこう言っとることだ。すぐに返事をしてくれとは言わんから、ゆっくり考えてみてくれ」
「はっ・・御厚意に感謝します。長官」
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