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8.残された者

 ダンジョンに行った翌日。陸斗は騎士団長であるグレンと共に国王の執務室に報告にやって来ていた。

「初めてのダンジョンはどうだった、リクト」

「はい。少し緊張しましたけど、メリダ達にも助けられてなんとかやれました」

「そうか。グレンから見てはどうだった?」

「才能もセンスも抜群ですね。本人は謙遜していますが、メリダ達の助けがなくとも問題なかったでしょう」

「ほう、お前がそこまで言うとはな」

 長い付き合いである親友の絶賛にランセント王国国王グラウス・エル・ランセントは感心した様子で顎髭を撫でる。

 と、その時、扉が激しくノックされ、勢いよく開け放って一人の兵士が駆け込んできた。

「何事だ!ここは陛下の執務室だぞ!」

「失礼しました!ですが、大至急お伝えしたい事が!」

「何があった」

「地下牢にて捕らえていた例の者が姿を消しました!」

「なんだと!?」

 兵士の報告に驚きをあらわにするグラウスとグレンとは対照的に、陸斗は何が起きているのか分からず首を傾げた。

「えっと、一体何があったんですか?」

「……機密事項ではあるが、この際仕方ないか」

 陸斗に一度視線を向け、わずかに迷った様子を見せたグレンであったが、ここで隠しても仕方ないと説明した。

「地下牢には罪を犯したある者が捕らえられていたのだ。国の行く末を左右しかねない程の者がな」

「そんな人がいなくなったんですか!?」

 そこでようやく陸斗も事の重大性を理解し、慌てて報告に来た兵士に視線を向ける。

「魔力封じの首輪もしていたはずだ。それに、監視の者はどうしたのだ」

「それが、監視の交代に行った兵士が昨晩監視をしていた兵士が倒れているのを発見。その時にはすでに影も形もなく、切断された鉄格子と首輪が落ちているだけでした」

「切断だと?そう簡単に切れるものではないはずだが……。監視していた兵士は?」

「眠らされていただけで命に別状はありません。ですが、何も覚えていないと」

「状況から見て誰かが連れ去ったという事でしょうか?」

「そう考えるほかあるまい」

 こんな事なら処刑しておくべきだったと今さらながらに後悔が湧いてくる。捕らえていたロベリアは確かに王国に大きな利益をもたらし得る存在だった。だが、もしその頭脳が他国に渡るような事があれがそれは王国にとって大きな打撃となってしまう。

「それから……」

「まだ何かあるのか?」

 兵士は一度陸斗に視線を向け、どこか話しづらそうに報告を続ける。

「城から消えた者が他にもいまして、それが勇者様のご友人である……」

「まさか、輪廻が!?」

「はい……。それと、その専属だったメイドもまた一緒に姿を消しています」

「無関係、とは言えないか」

「リクトよ。私はお主の友人をよく知らぬ。お主から見てその男はこんな事を仕出かす男か?」

 グラウスの問いに陸斗は迷いながらも口を開く。

「正直やってもおかしくはないと思います」

「……そうか」

 グラウスは眉根を寄せ、背もたれに体を預けて天井を仰ぐ。

「もう一つ報告したい事が」

「まだあるのか……」

「例の人物の研究室を確認したところ、中の物も全て消えていました」

「全てだと?どういう意味だ?」

「そのままの意味です。薬草や素材から始まり、器具や研究資料まで全てがなくなっていました」

「そう簡単に持ち出せる量ではなかったはずだが……。一体どうなっている」

 続けざまにもたらされる報告にグラウスとグレンは痛む頭を押さえた。

「捜索隊は?」

「すでに出していますが、それらしき情報はまだ。王都の外に出た形跡がない事からまだ王都内にいるのではないかと考えているのですが」

「分かった。そのまま捜索を続けてくれ」

「はっ!」

 グラウスの言葉に兵士は敬礼し、踵を返して執務室を出ていった。

「その……輪廻がすみません」

 大事になっている事件に自分の幼馴染みが関わっているかもしれないと言われ、陸斗はいたたまれない気持ちで頭を下げた。

「まだそうと決まった訳ではないがな。それにしても、一体どこで知ったのか。あの者の存在は極一部の者しか知らないはずだが」

「それなのですが、リンネ殿に付いていたメイドはフリージア家の……」

「なるほど。あの者なら暗部にも詳しい。知っていてもおかしくはないか。そこから漏れたと考えるのが妥当か。だとしたら、その目的は……」

「ハイドラ・ブランドンの首ですか」

「ブランドン領までの街道に検問を張り、ブランドン公爵にも護衛の兵士を向かわせよう。正直、望みは薄いが唯一の手掛かりだ」

「えっと」

「む、すまぬな」

 二人の会話の内容がよく分からなかった陸斗が立ち尽くしていると、それに気付いたグラウスが視線を向けた。

「王国の恥部に関わる事でな。あまり話せないのだ」

「ああ、いえ、大丈夫です」

「それより、リクトは彼の行きそうな場所に心当たりはないか?」

「うーん、すみません。僕も昨日久しぶりに顔を合わせたくらいで最近はあまり会っていないんです」

「召喚された時の一件で孤立していましたから。そのうえ、召喚されてからほとんど書庫にこもっていましたので。まともに関わりがあったのは例のメイドくらいでしょう」

「今にして思えば輪廻はそういう状況を意図的に作っていたのかもしれません。最初からその人を連れ出す事を考えていたとは思いませんけど、その方が城を出ていきやすいとは考えていたかもしれん。こんな時、天里がいてくれたら……」

 と、陸斗の口から無意識にここにはいないもう一人の幼馴染みの名前が漏れる。

「そのテンリとは?」

「えっと、輪廻と同じ幼馴染みです。輪廻が数少ない心を許していた相手でもあります」

「なるほど。しかし、ここにいない人物の話をしても意味がないな。とりあえず、リクトはいつも通り訓練に戻ってくれ」

「……分かりました」

 気になりはするが、ここに残ったところで出来る事はない。冷静にそう判断し、二人に頭を下げて執務室を後にした。

(まったく、今はどこで何をしているんだか)

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