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7.もう一人の同行者

 部屋を出た輪廻達はステラの先導で月明かりだけが唯一の光源の暗い廊下を進んでいた。

「城の中はだいたい見て回ったが、地下牢なんてなかったはずだがな」

「表向きは存在しない場所ですから。知っているのは城の上層部の一部と兵士の一部くらいです」

「お前はどちらでもないだろう?」

「副業で暗殺者をしていますので。王国お抱えの諜報暗殺機関。私はそこに所属しています。なので、裏事情には少し詳しいです」

「ほう」

「それが処刑を逃れるために選んだ道です。そういう組織ともなれば訳ありの者も少なくないので。それに、あの男を殺すための技術も磨けました」

 簡単そうに語るステラだが、それが生半可な道のりでなかった事は容易に想像が付く。今まで持っていた物全てを捨て、血反吐を吐く努力をして今ここにいるのだ。ただ一つの願いのために。

「着きました」

 立ち止まったのは何もない廊下の真ん中。

「ここか?」

「この下に空間があるよ」

 そう言ってクロは何もない壁に視線向ける。

「地下へ続く階段は隠されているので」

 ステラは近くに置いてあったツボを手前に引き、その横に掛かっていた絵画を持ち上げてそこにあった水晶に触れる。すると、クロの見ていた壁の一部が音もなく開き、そこから地下へと続く階段が現れた。

「ここは訳ありの重要人物や公に出来ない人物を捕らえておくための場所です。あとは拷問や尋問にも使いますね。現在ここに捕らえられているのは一人だけです」

「それがロベリア・カーディナリスか」

 暗い階段の先に目を凝らせば頑丈そうな鉄製の扉が見える。

「扉の先には監視の兵がいると思います」

「クロ」

「監視は一人だけだよ」

 ならば問題ないと輪廻は躊躇いなく階段を下っていく。

「鍵はかかっていないか」

 ドアノブを握り、鍵がかかっていない事を確認した輪廻は迷いなく押し開く。その瞬間、剣を振り上げた影が飛び掛かってくる。

「くっ!何者だ!」

「答える義務はない」

 振り下ろされた剣を片手で受け止め、空いた左手で飛び掛かってきた兵士の顔を鷲掴みにする。

「眠れ」

「うっ……」

 その手から漏れ出た黒い霧を吸い込んだ兵士は呻き声をあげてその場に崩れ落ちる。

「いきなり攻撃してくるなんてビックリだね」

「驚く事などない。扉を開ける前に合言葉でも決めていたのだろう。それもなくいきなり扉を開ければ攻撃してくるのも当然だ」

「分かっていたのに開けたのですか?」

「来ると分かっていればどうとでも対処出来る」

 倒れている兵士を置き去りに、左右に牢屋が並ぶ部屋を奥に感じる人の気配に向かって進む。

「ほう」

「ね、面白いでしょ」

「ああ」

 一番奥の牢屋にいたのは無骨な首輪を嵌めて白衣を着た輪廻と歳の変わらない一人の少女。背を向けているせいではっきりと顔は見えないが、時折見える横顔は整い、この世界に来てから初めて見る眼鏡を掛けている。だが、その美貌も手入れのされていないボサボサの金髪が台無しにしている。

 しかし、少女の異常性は身だしなみに一切気を配っていない事でも、輪廻達に全く気付いていない事でもない。

 壁や床全てを埋め尽くす程に書かれた文字。それが今もなお増え続けていく。

「ロベリア・カーディナリスは魔法理論や魔法薬、錬金術といった魔法学の研究者です。斬新な論文の発表などもそうですが、魔導具や魔法薬の開発も行なっていて現在王国で出回っている魔導具の約半分は彼女が開発した物です。彼女一人によって王国の魔法技術は二十年は進んだと言われています」

「そんな奴がどうして捕まっている」

「罪人を使った違法な人体実験です。それが発覚して捕まる事となりました」

「なるほどな」

「おや?食事の時間にはまだ早いと思うけどねぇ」

 一段落ついたのか何かを書いていた手を止め、輪廻達の方を振り向いた。

「あいにくと食事を持ってきた訳ではない」

 振り向いたロベリアは口許に笑みを浮かべ、牢屋に捕まっているとは思えない程好奇心に溢れた瞳を爛々と輝かせている。

「そうなのかい?まあ、こんな薄汚い所だけどゆっくりしていくといいよ。あいにくとお茶は出せないけどねぇ」

 まるで自分の部屋であるかのようにくつろぐロベリア。彼女にとっては己の研究こそが全てであり、場所などという物は些細な事なのだろう。

「そういえば、名乗っていなかったねぇ。初めまして。僕はロベリア・カーディナリス。いや、捕まった時に勘当されたから今はただのロベリアだよ」

 勘当されたという話すらも他人事のように語る姿には悲哀の感情はまるで感じられない。

「単刀直入に言う。ロベリア、俺達について来る気はあるか?」

「ふふ、男の人から誘いを受けるのは初めての経験だねぇ。でも、残念だけど断らせてもらうよ。僕は今の状況に不満はないからねぇ」

「処刑されるかもしれないこの状況がか?」

「それはないよ」

 輪廻の問いにロベリアは確信を持って答える。

「僕が処刑される事はありえないさ。僕が何故捕まったかは聞いているかい?」

「ああ」

「それなら君も分かっているだろう?この国では罪人とはいえ無闇に死に至らしめれば罪になる。だから僕はこうして捕まっている訳だけど、そんな事で僕を殺すのは国にとって大きな損失なのさ。この国の王はそれが分からない人じゃないよ」

「だろうな」

 直接国王と会っていない輪廻だが、伝え聞く噂だけでも優れた人格者だと分かる。だが、優れた人格者が優れた王とは限らない。王には清濁併せ呑む器が必要なのだ。そして、この国の王にはその器がある。

 ステラの話ではロベリアはいくつもの功績を挙げた研究者だという。なのに、これまで捕まったという話は全く聞かなかった。それは、国王がいずれロベリアを復帰させる時のために公表しなかったからだと予想が付く。それをロベリア自身も理解しているのだ。

「だから僕は残るよ。慌てて出る理由もないからねぇ。もっとも、君が僕の興味を引くだけの何かを持っているなら別だけど」

「……そういえば、まだ名乗っていなかったな」

「うん?」

 突然のセリフにロベリアは首を傾げる。

「竜胆輪廻だ」

「リンドウリンネ?なんだか聞き馴染みのない響きだねぇ……。一つ聞いていいかな?」

「なんだ?」

「名前はどっちなのかな?」

「輪廻の方だ」

「ふふ、ふふふ、そういう事かい。なるほど、なるほどねぇ」

 そう答えた瞬間、ロベリアはさらに口の端を吊り上げ、楽しげに笑い出した。

「こんな手土産を持参してくれるとはねぇ。君、異世界人だね?」

「そういう事になるな」

「興味深いねぇ。勇者召喚が行われたとは聞いていたけど、君がそうなのかい?」

「残念だが、俺じゃない。俺と一緒に召喚された奴がいる。そいつが勇者だ」

「ほほう。()()()()を召喚する勇者召喚で別の人間までもが召喚されるなんてねぇ。ますます興味が出てきたよ。なら、君は何者だい?」

「魔王だ」

「あはははは!!そうか、魔王か!」

 冷たい地下牢の中に似つかわしくない笑い声が響き渡る。

「僕は今まで神なんて信じていなかったんだけどねぇ!今なら神に感謝してもいい気分だよ!」

 一頻(ひとしき)り笑ったロベリアは口許に隠し切れない笑みを浮かべたまま、好奇心に染まった瞳を輪廻に向ける。

「さっきの言葉は撤回するよ。こんな興味深い対象を前にこんな所に引きこもっている訳にはいかないからねぇ」

「クロ」

「はいはーい、お安いご用だよ!」

 クロが笑顔で手を挙げ、その手を軽く振ると一瞬にして鉄格子が切断され、ガシャンガシャンと音を響かせて倒れる。さらに、ロベリアの首に嵌められていた首輪もゴトリと音を立てて落下する。

「おや、首輪も取ってくれたのかい?窮屈だし、魔力を封じられるしで鬱陶しかったから助かるよ。ところで、今のはどうやったんだい?」

「クロは時空精霊だからこれくらい簡単だよ!」

「ほほう!精霊の中でも特に珍しい時空精霊とはねぇ!魔王と精霊に出会えるなんて今日は人生最高の日だねぇ!ちなみに、そっちのメイド服の子は何かないのかい?」

「残念ながらご期待には応えられません。どこにでもいるメイド兼暗殺者ですので」

「普通だねぇ」

「はい、普通です」

「お喋りはそこまでだ。そろそろ城を出るぞ」

「あ、それならその前に僕の研究室に寄ってもらっていいかな。色々持って行きたいし」

 想定外の同行者が増えた事ですぐにでも城を出たい輪廻だったが、ロベリアの研究室ともなれば今後役に立つ物もあるかと提案を受け入れる。

「その前に」

 地下牢を出るというところで輪廻は倒れたまま放置していた兵士に近付き、その傍にしゃがんで頭に触れた。

「何をしているのですか?」

「記憶の改竄。大した意味はないと思うが時間稼ぎくらいにはなるだろ」

「記憶の改竄ですか?記憶に干渉する魔法など聞いた事がありませんが。あったとしても禁術に分類されそうです」

「禁書庫とかいう部屋にあった本に載っていた」

「ああ、あそこかい。僕もよく行ったよ。あの程度の鍵じゃあるのもないのも変わらないからねぇ」

「そうだな」

「……そうですか」

「終わった。初めて試したが問題なく出来たな」

 兵士の頭から手を離し、立ち上がる。

「行くぞ」

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