プロローグ
暗い夜道、あかりの着いた窓から聞こえる楽しげな家族の声は、私の帰る家じゃない。
私の母は病で私が小学3年生の時にこの世を去った。
父は母が居なくなってから抜け殻のようになってしまい、私が中学に入るのと同時に病で亡くなった。
そんな身寄りのない私は叔母の家で暮らすことになり、毎日召使いのようにこき使われてはや5年、私は高校2年生になった。
家族がいた頃は幸せだった。
温かいご飯とふかふかの布団。
両親からもらった沢山の愛情。
両親の遺産は全部叔母に奪われてしまった。
もう私に残ったものは、父が母の形見だと言って肌身離さず持ち歩いていた翡翠の指輪と両親の記憶だけ。
もう霞んでしまってガラクタだと思われても仕方ない見た目だった為、叔母には奪われずに指輪だけは私の元に残った。
叔母家族に召使いのようにこき使われる日々、頑張って勉強して入った高校では貧乏人扱いされて虐められる日々。
「お父さんお母さん……ごめん……私、お父さんとお母さんとの最後の約束守れそうにない……」
廃ビルの屋上、ここだけは私の味方でいてくれた。
静かで誰からも何も言われない私だけの秘密の場所。
あの家で野垂れ死ぬくらいなら、ここで最期を迎えたい。
「今そっちに行くね、お母さん…お父さん…うっ…」
この世界に味方なんて居ない、来世ではせめて幸せに暮らしたいな。
込み上げる涙を必死に抑えて私は廃ビルの屋上から飛び降りた。
あぁ、これが走馬灯か。
面白くて強かった母。気弱だけど誰よりも優しかった父。
幼い頃からの記憶が時が止まったかのように流れてくる。
そこで母に言い聞かせられてきた言葉を思い出した。
『辛くなったら直ぐに誰かに助けを求めなさい。』
あ、なんで忘れてたんだろう。今頃思い出しても無駄なのに…
そっか、助けてくれる人が誰もいな買ったから忘れてたのか。
ドンッという大きな音と共に体に鈍い痛みが走る。
意識が段々と薄れてくる。
あ、私死ぬんだ……。
痛いな……心も体もボロボロだ。
「誰か…助けて……」
自分で命を絶とうとしたのにも関わらず、無意識のうちに私は助けを求めていた。
「私を呼んだのは君か?」
掠れていく視界の隅で私を呼ぶ男がいた。