【エッセイ1話完結】四半世紀に渡る夢
僕は病室でその光景を見ていた。
その光景を見て、感情がほとんど働かないはずなのに、なぜか涙が出てきた。
2016年。
断薬中の俺は様々な感情に襲われていた。
体の調子は絶好調!?
いや絶不調!?
よくわからない状態だったが、一つ分かっていたことは、
俺が大ファンだった広島東洋カープがぶっちぎりで単独首位にいて絶好調であったということだ。
25年ぶりの優勝へカープがつき進んでいる。
でも、俺の感情は嬉しいはずがその半面何か悲しい感情が。
25年かかった優勝。
もうすぐ手が届く。
でも夢を叶えたら、それが現実になったら、夢を追い続ける自分たちを失う。
失いたくない感情。
でも優勝したい。
妄想で俺がいろいろ思っている。
カープ優勝。嬉しい。
カープ負けた。黒田が負けた。よしよし、なんか安心。
こんな感情はなかったはず。
負けてよしよしなんて感情はなかったはず。
なぜこんな感情が出てくるのだろうか?
きっと親ごころ何だと思う。
カープは俺の妄想イメージでは母親的イメージ。
決してFAに頼らない人材育成で自前の選手を叩き上げ育てて戦うチーム。
カープは母親。選手は息子たち。
そんな息子が親離れしようとしている。
行かないで。息子よ。優勝しないで。息子よ。
でも優勝してほしい。
そういった矛盾の感情があるなか、ついにその瞬間を迎えた。
だが、俺は、断薬中でまともにカープの単独首位という情報を信じてなどいなかった。
嘘だ。
きっと嘘に違いない。
そんな感情の中、病室でついにカープの優勝の瞬間を目の当たりにする。
抑えの中崎が亀井を打ち取るショートゴロ。
ショート田中がボールをさばき、ゲームセット。
四半世紀に渡る夢が叶う瞬間だった。
思えば99年。
達川政権時代からカープを応援していたと思う。
長い事カープを応援していたが15年連続Bクラス。
2013年まで、Aクラスの扉は開くことなく、もがき苦しんでいた。
俺が好きだったカープが優勝した。
嬉しい気持ちと何かいい表せない喪失感。
俺は弱かったからカープが好きだったのか?
違うのか?
今弱いチーム中日を応援しませんか? 妄想の中の俺が何か言っている。
中日は長らく強かったが、これからは中日が暗黒時代到来なんだよワトソン君。
また妄想の声が聞こえる。
どうしよう。
ワトソンのやろー、中日ファンに移行しやがった。
カープ裏切って、中日ファンになりやがった。
妄想で友達の声が聞こえる。
あたりめーじゃねぇか、カープなんて応援出来るか!?
ソフトバンクと巨人が手を組めばもっと強いチームになる。一緒にカープを倒そう。
いろんな声が聞こえる。
あれ。
俺。
好きだったチーム。
ずっと好きだったチームいったいどこ?
カープだ。
優勝してもカープだ。
きっと次生まれてきてもカープファンで生まれてくるだろう。
いろんな事があった。
新井が抜け、黒田が抜け、15年もBクラスで、25年の歳月をへて、ようやくたどり着いた。
新井と黒田が再びチームに戻り、ついに果たした25年ぶりの歓喜の瞬間。
俺は泣いていた。
病室の中で泣いていた。
感情があまり動かないのに泣いていた。
心底きっとおれの魂は真っ赤なカープ坊やなんだろう。
これからもずっと、赤い男として、熱い男として、カープを応援し続けるだろう。
頑張れカープ。
以上 四半世紀に渡る夢