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第八話

 部屋に戻ってふかふかのソファに身を沈める。

 ひとりになると改めて、殺されそうになったという実感が湧いて背筋が寒くなった。


 でも、なんで?


 この世界に来てまだ1週間で、誰かに恨まれるような覚えもない。やっぱりただの偶然だったんじゃないだろうか。でも、壷が落ちてくる前に見た人影。見間違いではないはず。私のことを呼んでいるように見えた。


 もし偶然じゃないとしたら。

 私のことを殺したいと思ってる人がいるってこと?


 そこまで考えて、恐怖よりも何よりも怒りが先に来た。


「―――何でこんなわけのわからない世界で、理由もわからず殺されなきゃならないのよ」


 思わずソファから立ち上がる。

 私が犯人を見つけてやる!


 ひとり意気込んでいると、ドアがノックされる。


「俺だ。庭に行くんだろう」


 アウリスだ。庭園に行く時に部屋に寄るように言われていたが、アウリスのほうから迎えに来てくれたらしい。

 庭園までの道のりを並んで歩いていると、アウリスが話しはじめる。


「……大丈夫か」


「え?」


「だから、さっきの。怖かっただろう」


 どうやら私が怯えてないか心配してくれているらしい。


「最初はちょっとね。今はもう全然平気。それよりも腹が立つの。絶対犯人見つけてやるんだから!」


 両手を握りしめながら宣言すると、アウリスは堪え切れないといった感じで、ぷっと吹き出した。


「お前…強いな。でもあまり無茶はするな。何かあったら俺に相談しろ」


 なんでそこまでしてくれるの?って顔に書いてあったんだろう。


「一応、俺の妹だから」そう付け加える。


 ―――妹。


 お母さんが死んじゃってから、もう家族はいないと思っていたけど、ここにはお父さんもお兄ちゃんもいるんだ。

 そう思うと心が温かくなる。少しは頼ってもいいのかな。


 そんなことを考えながら庭に出ると、私を見てアランが駆け寄ってくる。


「おーい!翠子!遅かったじゃ……」


 言いかけて、途中でハッとした表情をして、深々と頭を下げる。


「これはアウリス王子殿下。大変失礼致しました」


 すごい態度の違いである。


「ごめんね、ちょっといろいろあってアウリスも連れて来ちゃった」


「連れて来ちゃった、ってお前…」


 アウリスに睨まれるが気にしない。


「それで、見せたいものってなに?」


 アランはアウリスがいることで、ちょっとそわそわしながらも私たちを案内してくれた。


「ここだよ!昨日一気に咲いたんだ。あんまり綺麗だから翠子にも見せたくて」


 そこはあまり人が通らない、庭園の奥の方にある一画だった。

 その一画が、空色に染まっている。


「うわぁ…!すごい!」


 近くでよく見ると、青色の可愛らしい小さな花が隙間なく咲いていた。


「見事なものだな」


 アウリスもそう呟く。


 そのとき、頭の後ろがズキンと痛み、思わず地面に膝をついた。


 アウリスとアランの声が遠くなる。


 頭の中に映像が浮かんだ。


 若いお母さんがここで、耕された土の上に種を蒔いている。横にいるのはジェイド陛下だろうか?今とは違って青年なのでよくわからない。ただ黒の長い髪が本当に私によく似ていたので、お父さんだ、と確信する。ふたり共とても幸せそうだ。


「おい!大丈夫か?」


 アウリスの声にふっと意識が引き戻される。


 顔をあげるとアウリスとアランが心配そうにこちらを見ていた。


「少し頭が痛くなっただけ…もう大丈夫!」


「それなら良いが…そろそろ戻るぞ。陛下が帰ってくる頃だ」


 アウリスにそう言われたので素直に従う。


「アラン、すごい素敵だった!ありがとうね」


 改めてアランにお礼を伝えて、城に向かう。




「お前あの庭師と懇意にしてるのか」


 廊下を歩いていると、アウリスが突然そんなことを言い出した。


「へっ?懇意…まぁ最近ちょっと話すようになったの」


 アウリスが黙っているので、ついからかいたくなって、


「もしかしてヤキモチやいてる?」


 と聞くと、「バカか」とそっけなく返される。

 そんな会話をしながら、今回も私の部屋の前まで送ってくれた。


「アウリス、その…今日は本当にいろいろありがとう」


 改めて考えるとアウリスには助けてもらってばかりだ。まぁここに連れて来た張本人だから、少しは気にしてくれているのかもしれない。


「大したことはしていない」


 早口でそう言うと、アウリスはくるっと踵を返して行ってしまった。



 ヘレナは、今日は忙しいようで別のメイドさんが持ってきてくれた夕食をひとりで食べながら考える。

 さっき庭園で頭の中に流れた映像。あれは何だったのだろう。ジェイド陛下とお母さんが出てきたってことは…私の過去の記憶?でもあのお母さんの若さから考えても、まだ私は産まれていないはずだし……


 今度陛下に聞いてみよう。


 そんなことを思いながら、デザートに出された果物を口に放り込んだ。




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