第二話
(なんでこんなことに…)
ファストフード店の小さなテーブルで美形さん(変態)と向かい合わせに座りながら途方に暮れていると彼が静かに口を開いた。
「俺はアウリス。お前の母親が亡くなったことを知った父が、どうしてもお前に会いたいと言うので、ずっと探していたんだ。全然見つからないと思ったらまさか本当に異世界にいたなんてな…お前を探しだすのは骨が折れたぞ…」
最後のほうはため息混じりに呟く。私はと言えば口をぽかんと開けたまま、
「はぁ…」
なんて間抜けな返事しかできない。アウリス?父?この人が私の兄だとするなら「父」って私のお父さんってこと?でもお母さんはそんなこと一言も…というか異世界って言った?
ぐるぐると混乱している私をよそにアウリスは立ち上がって私の腕を掴む。
「そういうわけだ。急な話ですまないとは思うが、一緒に来て父に会ってほしい」
「ちょっと待ってください!そんな勝手に…頭が追いつきません。まず、私が妹だって…なんでそんなことわかるんですか」
「あぁ、それは…これだ」
そう言いながら彼は私の胸元に手を伸ばした。
「なっ…」
思わず身を引いたがアウリスは構わず手を伸ばし、私のネックレスに触れた。
「これは父がお前の母親に贈ったものだ。恐らく裏側に…ほら、うちの紋章が彫ってあるだろう。俺も同じものを身に着けている。見るか?」
そう言いながら立ったままシャツのボタンを外しだしたので慌てて、
「いえっ!結構です!話はわかりましたので!とりあえず座ってください!」
思わずそう言ってしまった。ひとつ首元のボタンを外しただけなのに、色気のようなものがぶわっと漂う。ふとアウリスに向けられる周りの女性客の熱い視線に気づき、何故か私が赤面してしまう。
「正直、イマイチ納得できませんけど…とりあえずあなたのお父さんに会えばいいんですよね。あっでもっ、私パスポート持ってなくて…」
「パスポート?何だそれは。とにかく来てくれるんだな。礼を言う」
そう言うと先ほど開けたシャツの首元からお揃いのネックレスを取り出し、スッと席を立って私の腕を引いて立ち上がらせた。そのまま反対の手を腰に回し引き寄せられる。
「ひゃあ!」
つい情けない声が出る。文句のひとつも言ってやろうともう一度口を開きかけたとき、私の翡翠のネックレスがアウリスのネックレスに反応して光り出した。
「えっ…?!」
「しっかり掴まってろ」
ふいに胃が引っ張られるような、身体が宙に浮く感覚がして思わずアウリスの背中に腕を回す。ほんの一瞬、目をつむっただけなのに、次に目を開けると、なんだかやたらと広く豪華な部屋の真ん中に、ふたりで立っていた。
今のなに?どうやったの?それより、ここは何処?
聞きたいことは色々あったが、口がぱくぱく動くだけで言葉が出てこない。
「もう夜も遅い。父に会ってもらうのは明日にするからお前も今日は休め。この部屋はお前のために用意した部屋だ。自由に使ってくれて構わない」
それだけ一気に言うとアウリスはそのまま部屋を出て行ってしまった。
どこからどこまでが現実?
思わず力が抜けてその場にぺたんと座り込んだが、豪華な部屋は絨毯までふかふかだな…と私は変なところに感心していた。