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第十一話

 私の部屋も豪華だと思っていたけれど、陛下の部屋はそれ以上だった。

 壁や床は大理石だろうか。白色にこれでもかと散りばめられた金色の装飾がとても映えている。よく見ると金色の装飾は細かいところまでシンメトリーになっている。上を見上げると天井まで金色で縁取られ、フレスコ画の中でうっそり微笑む天使と目が合う。まさに豪華絢爛といった言葉がぴったり当てはまる部屋だなと思う。


 部屋に入ったところで立ったままの私を見て、


「こちらにおいでなさい」


 と、陛下が深紅のビロードの椅子を勧めてくれた。


「急に呼び立てて申し訳なかったね」


「いえ……」


 おずおずと椅子に座ると、つんつるてんの裾が更にもちあがり、少し恥ずかしい。


「なかなか時間がとれなかったのだが、やっとまとまった時間ができたので翠子とゆっくり話がしたくてね」


 やっぱり。私は内心ほっとする。


「あちらに戻ってからの瑠璃と翠子の暮らしを話してはくれないだろうか」


 側室とはいえ、急に妻と娘がいなくなった陛下の気持ちを慮り、出来るだけ詳しく話そう。


「はい。私が物心ついたときは母とふたりきりで……―――」


「―――母には母方の祖父の遺した遺産があったので、お金にはあまり苦労せずに暮らすことができました。ただ、母はひとところに留まることが好きではなかったのか、よく引っ越しをして色んな地域で暮らしていました」


 私は覚えている限り、私がまだ幼い頃の話から最近のことまで順を追って話していく。


 王は興味深そうに時折うなずきながら私の話を聞いていた。


「私が17歳の頃、母に病気が見つかって……」


 母の闘病生活の話は、私も思い出すと辛く、あまり思い出さないようにしていたが、なるべく明るいエピソードを探して伝える。


「母が亡くなったのは……寒い冬の朝でした。最期のときに私が側にいられてよかったです」


 そう、それは本当に良かったと思う。お母さんの最期の言葉もちゃんと聞くことができた。


 ……最期の言葉?


 そういえばなんて言っていたっけ?


 あの日、病院のベッドの上で、もう身体を起こすことはできなかったけれど、目は私のことをしっかり見つめていた。


『―――翠子……こんなにいい子に育ってくれて母さん本当に嬉しいわ。これからも強く生きていってね。それから―――に気をつけて……』


 気をつけて?


 最後の方はほとんど聞き取れなかったけれど、確かに「気をつけて」と言った気がする。でも何に気をつければいいんだろう。


 黙りこんだ私を見て、陛下が口を開く。


「話してくれてありがとう。瑠璃と翠子が幸せに暮らしていたと聞いて安心したよ」


「それでは本当にこの世界でのことは何も聞いていなかったんだね……」


 と、呟いた。


「はい。なので私もこの世界にいた頃のお母さんの話を聞かせてほしいです」


「ふむ……前にも話したが、瑠璃は急にこの世界にやってきたのだ。身元不明の怪しい者がいる、と城下町で捕まってこの城に連れてこられてきた」


「最初こそ得体のしれない危険な人物だと思われていたが、害がないことわかると、瑠璃はその明るさと無邪気さですぐに周りの者と打ち解けた」


 陛下は向かいに座る私を通り越して、遠くを見ながら続ける。


「そうして、この城の王太子と良い仲になった。結婚の話が持ち上がったが、瑠璃の出自がはっきりしないということで、周りの貴族たちの大反対にあった。」


「それから先は前に話した通りだよ」


 そしてお母さんは当時の王太子、つまりジェイド陛下の側室になり、私が産まれた……


「あっ。ここの庭園で、母となにか植物の種を撒いたことはありますか?」


 私は先日庭園で見た白昼夢のような、お母さんと陛下の映像を思い出しながら聞いた。


「種?そんな覚えは……いや、どうだったかな」


 覚えてないことを申し訳なく思ったのか、少し焦っているようにも見える。


「そうですか……」


 あれはただの私の妄想だったのだろうか。

 そうだとしたら私って大分ヤバい奴なんじゃない?


 そんなことを考えていると、陛下が厳しい口調で話を変える。


「庭園といえば、アウリスから聞いたが、危ない目に遭ったんだってね。大丈夫だったかい?」


「あ、はい。驚きましたが、怪我もなかったですし」


「それに大階段から落ちたって聞いたよ。大きな怪我がなくて本当に安心した」


「来て早々いろいろと問題起こしてすみません……」


「いいや、翠子のせいじゃないだろう。気にすることはないよ。それよりも今どこの曲者がそのようなことをしたのか調べさせているんだが……」


 そこで言葉を切って言いよどむ。


「実はアウリスが怪しいのではないかという報告があってね……」


 アウリスが?!


 思ってもみなかった名前に、衝撃をうけて言葉が出てこない。


「私も信じたくはないが……」


 陛下は俯きながら続ける。


「ただ、アウリスは王の座に就くことに拘っているから、王女の権利を持つ君のことを邪魔に思うのも、納得できてしまう……」


「まだ断定はできないので詳しいことは話せないが、アウリスには十分注意をしてほしい」


 あんなに何度も私のことを助けてくれたアウリスが実は私を殺そうとしていたの?


 頭の中が真っ白になってしまいそのあとの陛下の話は全く頭に入ってこず、気づくと私は部屋に戻って来ていた。



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