第二話 絶対的
今日は疲れた。
人を殺すという行為はそこそこ体力を使う。
ホテルのベットに腰かけ、テレビをつける。
俺が殺したあの男の事をキャスターが語る…
何て名前だったか…もう憶えていない。
とりあえず今日の自分に…そうテレビで言ってたから、マネして…
ビールの栓を開ける。
人を殺すことに俺は抵抗がない…
昔からそうだ…初めて人を殺したのは小学六年生…冬の事だ…
「殺せるもんなら殺してみろ!」
俺をいつもいじめてきた、あの子がそう言った。
俺は言われたとおりにやった。
首を絞めて殺して、雪の中に埋めた。
春まで見つからなかった。
雪におぼれて窒息したと思われて事は済んだ。
何も思わなかった。
ある日、人を殺すと怖いと聞いた。
理由は知らない。
共食いをしたり、縄張りで殺し合う動物たちも、殺した瞬間は、怖いのだろうか?…
(ガチャ!)
誰かがドアを開ける。
拳銃を取り出し警戒する。
ドアの向こうから現れたのは露出度の高い服装の秋山だった。
「じゃじゃーん! デリヘル嬢楓ちゃんでーす!」
「ちっ…」
「ちょっと!舌打ちしないでよ!」
銃をしまい、一息つく。
「何の用だ…」
「明日遊園地行くから泊めてってよ…」
秋山は裏カジノが目的ではない…のか?
「あそこの裏カジノか?」
「違うよぉーただの観光…」
「そうか…」
「お互いそこで、情報交換しましょ?」
「わかった。」
情報交換…何か俺にとって、有益な情報でもつかんだのだろうか?
まぁ…いいか…疲れたから寝よう…
「俺は寝る…邪魔するなよ…」
「はいはーい」
ベットで横になってみるが…
疲れてるが眠いというわけでは、ない。
ただ消耗した分を取り戻さないと…
AM7:33
ゆっくりと目を開ける。
見えるのはホテルの壁と天井…
誰かが俺に抱き着いている…
秋山だ…
「暑苦しいんだが…」
「うーん、むにゃむにゃ」
起こすわけにも行かない。
俺はもう少し…この地獄を味あわないといけない。
俺にとってこの女は邪魔な存在でしかない。
なのに、なぜか殺せない…
「それは、私が死んだから?」
俺の中で誰かがそう言った。
「そうかもな…」
俺はそう呟いた。
――――2014年――――
あの日はいつも通りの日常であった…
薬物の売買を仲間がしている…俺はこの大きな銃を使って護衛している…
「ねぇ…」
「あ?」
話しかけてきたのは同い年ぐらいの少女だった…
「その鉄炮、なんて言うんですか?」
「…AK…」
「私が知っている銃の形とは全然違う…撃てるんですか?」
「そうか…」
俺はこの少女が誰か知らなかったが…
当時の日本は銃なんか使わない。
そんな時に、こんなバカでかい銃なんて見たら驚くはず…
この女もこちら側の人間なのだろう…
「銃って言ったらなんかこう…もっと小さくて刑事さんが持っているような…」
「それは拳銃…これは自動小銃…軍隊が使う銃…」
「マシンガン?」
「アサルトライフル…」
「変な名前ですね! 」
変なのはあんただ。
「性能がいいからみんなが使ってる…」
「あなたもこの銃なら、気に入っているの?」
「今日初めて触れた銃だ…」
「フーン」
―――――――――
「ねぇ!」
瞼をゆっくり開いた。
目の前にいたのは、秋山だ。
「なんだ?」
「かわいい寝顔だったよ! 」
「そうか…」
「釣れないなぁ!」
ゆっくりと、体を起こす…
どうやら、二度寝をしていたらしい…
体を起こして、時間を確認する。
7:55
「ねぇ! 遊園地行くのいつごろ~?」
そういえば、そんな約束をしていた…
違法カジノでも行きたいのだろうか?
あの遊園地には、そんなものがある。
「9:00には、ここを出る。」
「わかった! 九時ね! 」
九時までは、自由にできる…
まずは、シャワーでも浴びよう…
シャワールームに入り、シャワーの栓をひねる。
今浴びている水は、冷たいのか?暖かいのか?
それすら全く分からない。
「冷たっ!」
「…! 何でいるんだ?…」
秋山が後ろにいる。
「背中流そうかなぁって!」
「いらん…」
「なんでよぉ! 」
「邪魔だ。」
「ひどーい!」
そう言って、シャワーの温度を上げる。
冷水だった水がゆっくりとお湯に変わっていく。
湯気が立ち、少しだけ暖かさを感じた…なぜか、懐かしい…
「ねぇ?」
「なんだ?」
「イイことしない?」
「しない…」
「釣れないなぁ!」
俺には性欲と言う物がない。
何故かは自分でも分からない。
ただ、する必要が無いと思うからしないだけだ。
「なぁ…」
「なぁに?」
「お前は、人を殺したことがあるのか?」
「ん~…ないっていたら嘘になる。」
「人を殺すのはとても怖いと聞いた…お前はどうだった。」
「怖かったよ!」
怖い…のか…
「あっちゃんの方が、良く知ってるでしょ?」
「さぁな…」
「あなたのほうが、よくわかってるはずだよ?」
秋山では無い、誰かがささやく。
それはここにいない、誰かの声…