第一話 地下の英雄
マーキュから連絡を受けた。
隠し子が、堕落 したらしい。
俺は内心うれしかった。
アイツやボスがいなくなってから、歯止めがなくなった。
もしかしたら、歯止めになってくれるのかもしれない…
今日も、報復の日々は続いている。
斎藤 真紀
奴からあの組織の情報を得ようか…
そう考え、斎藤の調査を始めた。
東京都内 在住 独身
日本最大の犯罪組織 赤酒商会の会員
毎週水曜日に新宿の喫茶店でコーヒーを飲む。
時間帯は夕方。
そのあとは違法の風俗店に入っている。
年は47
身長は168㎝
体重は計れなかった。
奴の行動パターンから計画を立て、次の水曜に尋問を決行することにした。
―その日の夜。 月曜日―
その日は都内のホテルに泊まった。
ある人物と合流するためだ。
道中、近くのコンビニで売っていたウイスキーを紙コップに注いだ。
「お待たせ!」
「別に待ってはない。」
「釣れないなぁ~ あっちゃん!」
入ってきたのは、秋山 楓
20歳
現在東京大学所属の女性。
なぜか俺にまとわりついてくる人物だ。
裏カジノや密売店なんかに出入りしているため、
裏社会の知識はそこそこあるようだ。
色々と自分の手助けをしている。
俺にとっては、そこまでうれしくもないが…
「なんのようだ?」
俺は用件を聞いた。
彼女はが耳元でささやいた。
「今晩、どう?」
「用がそれだけなら拒否する。」
「もちろんそれだけじゃないわ!」
秋山が、そういうと上着を脱ぎベットに放り投げる。
「ライトニングが一人の少女を追い始めたの」
少し興味深い内容に、思わず秋山の顔を見てしまった。
ライトニングと言うのは、赤酒商会の傘下…というより子分に近い。
もともと赤酒商会の一員たちが独立したものだ。
都内のギャングの中では、最も強い組織である。
そんな彼らが、銀行強盗などの目的以外で動き始めた。
「なぜ、追い掛け始めたんだ?」
ウイスキーを少し口に含む。
「SSよ!」
「ソーラーシステム」
「そう、あなたが元居た組織…お家かしら?」
「もうなくなった…」
「追われているのは、今のボスよ。」
その言葉を聞いて驚く。
ライトニングが追いかける少女とは、マーキュが言っていた。
ボスの隠し子だった。
「何とかして、阻止しないといけないってことか…」
「ねぇ あっちゃん?」
「なんだ?」
「私ぃ〜あのぉ〜遊園地に行きたいなぁ?」
遊園地って言ってもおそらく…裏カジノか何かの事だろう……
「わかった…今度連れていくよ…」
「いつ?」
「今度の木曜日…」
「あはは! いいね! ありがとう!」
そういうと、彼女は下着を脱ぎ捨て胸を体に押し付ける。
「お礼にいいこと、させてあ・げ・る♪」
「断る…酒を注ぐだけでいい…」
―水曜日―
俺は、愛銃に9mmの弾を詰め込む…
腰に下げ、コートで隠す。
一般人が持てるのは、大体リボルバー…例外でグロック…
俺の使うオートマチックは違法改造銃だ。
喫茶店前のベンチで新聞を読みながら、アイツを待つ。
新聞には、最近ライトニングと思われる集団が銀行強盗をしたという記事が目立っている。
「新聞なんて読めるんだね!」
誰かが話しかける。
「しっかも紙の新聞なんて今時ねぇ~」
「またアンタか…何の用だ?」
秋山だった。
「ゼミ終わって暇だったんだー!」
「そうか 俺は忙しいんださっさと帰れ。」
「釣れないなぁ!」
今この状況でこいつがいると邪魔になる…
「腹が減ってないか?」
「なぜバレた…!?」
何のことかわからないが…邪魔者が消えるなら…
財布から数千円を取り出した。
「これでハンバーガーでも買ってきてくれ」
「え! ほんと! 待っててー」
ハンバーガー屋はここからかなり離れているし、
アイツは徒歩だ。
三十分は帰ってこない…
そんなことをしていたら、ターゲット…斎藤の姿が見える。
俺は静かに斎藤の後を追い、
予定通りに喫茶店へ…
中はとても静かで落ち着いている。
客は20人ほど…フードを深くかぶり、
ソファー席でメニューを見ている斎藤の元へと向かう。
何も言わず斎藤の前に座る。
斎藤が変な目で見てきた。
無理もない…
「アンタに用があって…ここに来た。」
「は?」
「赤酒商会 文京班 班長…斎藤…だろ?」
その言葉を聞いて、男はその場を立ち去ろうとテーブルの上に手を置く。
「逃がすか…」
テーブルに置かれている、爪楊枝をつかんで、斎藤の指に思いっきり差し込んだ。
テーブルまで食い込んだつまようじは、斎藤の手の自由を奪った。
「うっ!」
斎藤が痛みで声が出る。
「大声を出したら、殺す…席に着け」
斎藤は、涙目で席に着いた。
手先が震えている。
赤酒商会と言っても…この程度か…
「俺は、お前にいくつか質問する。
もちろん拒否権はある。」
「おっ、俺は何も答えー」
もう一本…今度は、斎藤の右小指に爪楊枝を差し込む。
「わかった! わかった!」
「質問1 お前らの家族は、東京に何人いる。」
「……200人…」
「なるほど…いい子だ。」
そういうと、俺は爪楊枝を右中指に差し込む。
「回答が遅かったから…刺させてもらった…」
大人げなく、涙を流し始めた斎藤を見ながら…
「質問2 お前らの得物は、なんだ…」
「ガバメント!MP40…UZIに、G3だ!」
「いい子だ…今回は、刺さないで置いてやる…」
「最後の質問…赤酒の本部は、どこ?」
「し、知らない…」
爪楊枝を、斎藤の薬指に
「ほんとだ!知らないんだ!」
今度は、人差し指。
「許してくれ! ホントに知らないんだ!」
俺は、この男が言った言葉が本当であることを悟って…胸倉をつかみ持ち上げる。
「あっそ」
そう言って俺は、斎藤を店の窓ガラスに、投げつけた。
店の注目が集まる中…ガラスが割れる音と、斎藤の声にならない断末魔が、店の前に響く。
俺は、ゆっくり店の外へと出ると…痛みで苦しむ斎藤に、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべて、
持っていた拳銃を取り出し、頭に二発くれてやった。
俺に、笑顔は似合わない…奴にとって俺の笑顔と銃口は恐怖でしかないだろう…
当たりの人々が騒ぎ出し、警察を呼び始める中…何事もなかったように、俺はその場を去っていく…
皆の注目は、被害者である斎藤…俺のことを見る人がいたとしても、追いかけたりするやつなんて居ない。