序章
あれから日本は変わっていった。
民間人がギャングから自分を守るため銃を持った。
娯楽が増えた。
腐った人間が増えた。
俺は既に腐敗している。
復讐のために腐り落ちたんだ。
2015年 冬 回想
「リオ! ここか?」
土砂降りの豪雨の中、大きな叫び声が雨音をかき消す。
15歳くらいの少年が大きな拳銃を持ち、
廃墟の中に入り込む。
普通は危険だと止められるかもしれない。
しかし、恋人に危機が迫っている中、彼を止めることは出来ない。
失踪カラ六時間
少年は拳銃を構え慎重に進んでいく。
二階の一つの部屋に入ったとき男は絶望的な光景を見る。
それは複数の男たちと、手足を縛られた一糸まとわぬ恋人の姿。
少年は我を忘れた。
「くそがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ふと我に返ったのは、銃声と大きな自分の声を聴いてから、
気が付けば、恋人を強姦していた男たちは撃ち殺されていた。
「リオ!」
慌てて恋人の元に、駆け寄り状態を見る。
恋人は優しい笑みを浮かべ何かを呟き、手の中で事切れた。
「そっ、そん…」
「はいざんねーん!」
誰かが肩を叩いた。
「君のおかげでねー、いい小遣い稼ぎになったよ!」
その声に、反撃する気力も出ない。
「ありがとねー! ね も と 君」
同年 年末
「そんなはずはないです!」
「うーん とりあえず君さ? 一回病院に行ったら?」
「俺は正常です! 捜査を始めてください!」
警察はあの一件を煙たがった。
恋人は侮辱され、ネットタトゥーをつけられ、息絶えた。
警察はそんな彼女の存在を無かったことにした。
2026年 梅雨
ピンポーン!
民家のチャイムが鳴る。
家主は、客人を出迎えに玄関へ向かった。
「はい?」
ドアを開けるとそこには、黒いフードを深くかぶった男が立っていた。
家主は少し驚き、
「どちら様ですか?」
と問いかけた。
すると男はゆっくりとフードを取り、顔を見せる。
「覚えてないのか?」
「さぁ?どちら様ですか?」
家主はその顔に覚えはなかった。男は続けて何かを言い出す。
「2015年 12月30日…警察署で会ったのを覚えてないか?」
「ん?あ、あぁ!」
家主は、すべてを思い出して、腰を抜かす。
「お前たちが消したんだ。」
「あぁ! あんたあんときの! 」
「そうだ。 思い出したか?」
「あ、あぁ! あの時はすまなかった! 」
「その言い方だと、アイツは存在したってことだよな?」
「ああいた! いたとも! 彼女は存在したし! あの事件もあった!」
「そうか…」
男はすこし俯き舌打ちをすると、家主の胸倉をつかみ持ち上げた。
「じゃあ!じゃあ何で捜査せんかったんや! 」
「ご、ごめんなさいぃ!」
「のぉ? お前でひって老けたな?」
眼は吊り上がり、大きく開いた瞳孔は狼のようでもある。
口角は不気味に吊り上がり怒りとも笑いとも思える、狂気的表情をしていた。
「娘がいるらしいな? 孫はもういるんか?」
「あぁ! いる! だから見逃してくれ!」
「殺すなんて生ぬるい。お前も地獄へ落ちろ!」
そう言い残して、家主を放り投げる。
家の中で様々な悲鳴が聞こえた。
家主 山崎 旬 65歳
妻をステーキナイフで指を一本一本斬り落とされ、スプーンで眼球をえぐられ殺される。
その後、実家に帰省していた娘は、ナイフで子宮を取り出され、当時二歳の孫娘ののどに、下着と共に詰め込まれていた。
生き残ったのは家主だけだった。
「やぁ! アース君! 今は、メトロかな?」
「お久しぶりですね マーキュ…」
公園のベンチで二人の男が出会い、話しを始める。
「お前は…まだ復讐劇の最中だったか?」
「あぁ そうだ。」
「…そっか、あの日はすまなかった。 お前の気持ち、わかってやれなくて…」
「最初から俺は、誰にも理解されなかった。」
マーキュが夜空を見上げた。
「アンタは今何してる?」
メトロがマーキュに問いかけた。
「あの集団を再建する。」
「サニーの糸はもう切れたはずだろう。」
「隠し子がいたんだ。」
「!」
「お前にも協力してほしい。」
メトロは少し俯き考えた。
ネックレスを軽く握って。
「わかった…ほやけど、そこまで協力的にはできないぞ」
「ありがとう メトロ…」
マーキュのその言葉を最後にその場を去っていく。