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怠惰な彼に一握りの奇跡を  作者: とんぼとまと
第一章 嵐の夜の孤独な悪魔
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【5.5】折れた木剣

Rev.0 長文を分割しています

 マクベスの合図と共に、各々が木剣を振るい、打ち合いを始める。


 もちろんであるが、皆がエドワードを見つめた、彼の圧勝を信じて。 だが彼等の、その二人の動きがおかしい事に、訓練場はざわつき始めるのだった。


 あまりにも普通に、二人は淡々と示し合わせた様に剣を動かし、お互いに同じような動作を繰り返している。


 ユウが剣を払い、すぐさま反撃に転じると、今度はエドワードが剣を払う。 まるで事前に練習したかの様な二人の動きは、劇の一幕にも見えてしまう。 端から見れば、エドワードがユウの動きに合わせて剣をふるっている様に見えたのだろう。


「エドワードは何やってるんだ?」

「ほら、相手が弱すぎて困ってるんだろう」

「エドワード様、頑張れ!」

「おい平民、真面目にやれよ。 ふざけんなよ、エドワードを馬鹿にしてるのか!」


 だが、周りの喧噪を一喝するように、エドワードが叫んだ!


「邪魔をするな!」


 金髪が野次を入れた瞬間だった、エドワードの声が訓練場に響き渡る。 鬼気迫るエドワードの態度に、練習場が一瞬にして凍りついた。 


 そして、その二人の奇妙な立ち回りは、他の七組みの試合が終わっても続くのだった。


 エドワードの剣は先の練習にも増して鋭く、早く、正確にユウを捉えている。 一方のユウは、優しく、ゆっくりと、だが雑に剣を振るっている様にしか見えない。


「おい、ロキ。 なんなんだ、これは?」

「レックス、うん、そうだよね、やっとユウがやる気を出してくれたんだ。 僕は、僕は嬉しくて、うぅっ……」


 二人を見守っていたロキが、思わずこぼれそうになった涙を拭っていた。


「急に泣き出すなよ……。 違う、そうじゃない。 ユウだ、あいつは何でエドワードよりも強いんだ?」

「えっ、何を言ってるの? エドワードが上手くユウに合わせて動いているんでしょ。 きっと騎士団長が来ているから、ユウにも花を持たせてくれたんじゃ……」


「お前は何を見てるんだ、エドワードは本気だ。 それも寸止めなんて生優しいものじゃない、完全にユウを倒す勢いで挑んでるんだぞ」

「そんな……。 どうして……」


 一方そんな試合の様子を見ていたハオは、痺れを切らしてマクベスに近づいて行った。 そして、二人を固唾をのんで見守っていたマクベスに、後ろから声をかけたのだった。


「マクベスさん、あの二人は?」

「ハオ君、いえ失礼しました、ハオ騎士団長。 申し訳ありません、つい試合に見入っておりまして」


「昔の様に話してもらってかまいませんよ。、マクベスさん。 今なら生徒へ私達の声は届かないでしょう。 それで、エドワード君と対峙しているのは……」


「はい、彼が推薦状を出して入学させた生徒です」


 マクベスはユウを見つめ、グッと握りこぶしに力を入れている。 ハオは彼の表情から、まるでユウに対する憧れとも思える情念を、その時に感じた。


「なるほど、彼がマクベスさんの肝煎りでしたか。 確かに彼は慣れすぎている、エドワード君との経験の差が大きい事は、間違いないでしょうね」


「エンテ騎士団長、彼が訓練で多少やる気を見せたのが、入学以来、今日が初めてです……。 そして確信しました、間違いなく彼は五年前の少年です」


「マクベスさん……。 私には、にわかには信じられませんよ……。 まだ子供ではないですか?」


 妄信的にユウを見つめているマクベスに対して、ハオは眉間に皺を寄せた。 そして、たしなめる様に言い返すのだが、それでも彼は引き下がらない。


「そうでしょう、最初は私も自分の目を疑いましたから……。 彼がどうして本来の実力を発揮しないのか分かりませんでした、最初は怪我や病気を疑いましたが。 ただ今日の彼を見て、それも杞憂だったと思っています」


 そしてマクベスはハオに向き直ると、神妙な面持ちで静かに申し入れた。


「どうか、少し見守る時間を頂けませんでしょうか、もし王国に危害を及ぼす様な事があれば私が命に代えても止めて見せます。 それまでは、どうかご内密にして頂きたい」


「出来ませんよ、マクベスさん。 彼が帝国の間者である可能性も、現時点で否定出来ません。 こちらでも調査は行います。 もし、あなた一人で抱えられない問題があったら、隠さずに教えて下さい。 あなたも、彼も出来るだけ悪い様にはしませんので」


「そうですか……。 分かりました、エンテ騎士団長。 どうか、彼をよろしくお願いします」


 そんな二人の意味深な会話に、誰も気がつくこともなかったが。 そろそろ、会話が終わろうとしている頃、ユウとエドワードの試合も決着がつく頃であった。


「エドワード、使えよ」


 ユウはエドワードを見つめて、一言そう伝える。 くっと何かを堪えた様にエドワードは表情を固くして、そして木剣を持つ両手に力を込めた。


「力よ、我が身と剣に集まれ!」


 エドワードが一言紡ぐと、小さな円が、鮮やかな魔方陣が彼の足下に描かれていく。 そして、淡く彼の全身と剣が光っていくのだ。 その時、周りに居た生徒達は、もう彼を止められなかった。


 それは身体と武器を強化する魔法、もう練習試合で収まる状況ではないことは明らかであった。 深刻そうな表情をしたエドワードを見て、それでもユウは、ふと笑っている。


 すぐさま、エドワードは走り出した。 彼の渾身の力を込めて、まるで先ほどと同じ様に上段からユウに斬りかかった。 それは彼の実力であれば、当たれば致命傷すら免れない一撃だった。


 だが、ユウは臆せずにエドワードへ肉薄し、半身を(ひるがえ)しながらも、強化された剣を(さば)いていく。


 たった一瞬の邂逅、それは目にも止まらぬ一撃、いや極めて正確にユウの急所を狙った連撃だった。 その恐るべきエドワードの剣は、ユウの持っていた木剣を半分の長さまで切断していた。 


 皆が息をのんだ、それ程までにエドワードの剣技は鬼気迫るものであった。 それでも、ユウは表情を崩さずに、まだ余裕を見せていた。


「はぁ、はぁ……。 ユウ君、まったく君も大概だよ」


 そうエドワードはユウに話しかけるものの、肩で息をして、その表情に余裕がまったく無い。


 さっきまでの二人のやり取りは、端から見れば茶番を演じている様にしか見えない、そんなものだった。 だが先ほどの一撃、全力でぶつかっていくエドワードを見て、気が付いていなかった生徒達も段々と理解し始めていた。 


 これは何かがおかしい、エドワードが対峙している彼が何かしたのだろうか。 いつも練習をサボっていた彼が、明らかに異常な動きをしている、その事実に全員が固唾をのんで見守っていた。


 さらにエドワードは全力でユウの急所を突こうとするも、紙一重で交わされ続ける。 そしてユウの木剣はいつ反撃に転じるのか分からない。 そんな極度の緊張から、エドワードの疲労はついに限界まで達していた。


「エドワード、そろそろ予鈴が鳴る頃だろう。 次のタイミングで打ち込んで来い、一回だけだ、本気で返してやる」


 ユウの言葉にエドワードはブルッと震えた、そして、少し息を整えて黙って頷く。 次の瞬間、ユウは剣を宙に放り投げて、落ちてくる剣を逆手(さかて)に持ち直した。


 それは明らかに作られた、ユウの最大の隙だった。 そして、示し合わせたかの様にエドワードは渾身の力を込めて一歩踏み出すと、一撃必殺の強烈な突きをユウの心臓に向かって繰り出したのだった。


 二人の様子を近くで見ていたレックスとシンイは、エドワードの並々ならぬ気配に、とっさに止めようと動いた。 だが、その剣筋は気が付いてから間に合う様な生易しいものではなかった。 その瞬間、ロキは両手で顔を隠して、ユウに突き刺さろうとしている剣から目を離してしまった。


 そして、エドワードの剣がユウの心臓を捉える寸前、ユウは瞬く間に上体を逸らした。 その瞬間に、エドワードの視界からユウは完全に消えた、消えたように見えていた。 だが、ユウは下から僅かに振り上げた木剣でエドワードの強烈な一撃を弾き飛ばしたのだ。


 魔法で強化されたエドワードの木剣、そして、半分になったユウの木剣がぶつかり合う。 ドンと鈍い音を鳴らし合うと、そのまま、二つの剣が空に舞って練習場の上を飛んで行った。


 二つの剣が地面に叩き付けられるまで、エドワードは時間が止まった様に感じていた。 極限まで高まった集中力と緊張感が、それを酷く長く感じさせたのだろう。 そして、間合いを詰めたユウは、左手をそっとエドワードの首筋に当てて小さくつぶやく。


「もう少し肩の力を抜けよ……」


カラン、カランと木剣が地面に叩き付けられると、すぐさま、マクベスが間髪入れずに試合を止める。


「そこまで、両者引き分けとする!」


 しばらくの沈黙の後に、呆然としながら見守っていた生徒達がザワつき出す。 だが、その声をかき消すかのように、キーン・コーンと予鈴が授業の終了を告げるのだった。


「はぁ、疲れた……。 それ片付けとけよ」


 ユウは後ろで呼んでいるロキやレックスの声を無視して、そのまま一人訓練場を出て行く。 そのまま騎士学校を出ると、大通りの石畳をトコトコと一人歩いて行くのだった。


エドワードは彼の後ろ姿を見つめながら、彼との実力差に打ちのめされていた。 だが、目指す目標がこんなに高く、こんなに身近にいたことに、内心では喜んでいた。


「なぁ、ロキ。 あいつは、何者なんだよ?」

「知らないよ……。 僕だって、あんなユウは……」


 レックスはロキにそう聞いた。 だが、その時のロキは沈痛な表情を浮かべており、彼もそれ以上は話を続けることができなかった。

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