96 Bランク試験当日(前編)
翌朝、目の覚めた俺はベッドから下りてそのまま洗面所へと向かった。
顔を洗い身だしなみを整えて、服を着替えてからソファーに移動して腰掛ける。
ミハエルはまだ寝ているようだ。
ソファーに座りながら窓から外を眺めてぼーっとしているとドアをノックする音が聞こえた。
なんだろうと思ってドア越しに声をかけると、どうやらフィーネたちのようだ。
ドアを開けて声をかける。
「おはよう、どうした?」
「おはよう、ルカ。朝食部屋で食べるでしょ?一緒にどうかと思って」
「ああ。うん、一緒に食べようか。まだミハエルが寝てるからちょっと起こしてくる。待っててくれるか?」
「あら、ごめんなさい」
「はは、いいさ。ミハエルが遅いんだよ」
一旦扉を閉めてからミハエルを起こしにいく。
「ミハエル、起きろよ。フィーネたちが一緒に朝食食べようってきてるんだよ」
俺の声に布団の中からくぐもった返事がくる。
「あー……わかった……」
目を覚ましたミハエルが洗面所にいったので、俺は再びドアをあけ、二人を招き入れた。
「すまないな、待たせて」
「いいえ、突然きてごめんなさい」
「ごめんなさいです」
「いや、問題ないさ」
二人がソファーに座ったところで洗面所から着替えたミハエルがやってきた。
「おう、おはよう」
「おはようございます!」
「おはよう」
こうして四人揃ったところで今日のことについて話しつつ朝食を食べた。
「しかしあの野郎の考えがわからねぇな」
ミハエルが俺が作ってあったサンドイッチをかじりながらそう言った。
あの野郎っていうのはレオンのことだろう。
「そうだなぁ。目的がわからないよな」
「そうね、ルカが目当てとしても、わざわざ貴族に借りを作ってまで試験パーティに潜り込む理由って何かしら」
「そこなんだよなぁ」
俺たちのメリットといえば、俺たちに群がる貴族がレオンたちのパーティに向かうということくらいだ。
デメリットはレオンが俺たち目的でパーティにきたというのが漏れることだろう。
とはいえ、レオンがどう言ってこのパーティに潜り込んだのかはさっぱりなので結局今のところは俺たちにとってはメリットしかない。
ただ一ついえるのは、貴族たちの前で、俺に対して断れない試合を申し込むことだろう。
これに関してはあり得るので少し警戒しているところだ。
とはいえ、結局のところは想像しかできないのではあるが、レオンの目的を考えながら警戒はしておくのは悪くない。
「ああ、そうだ。みんなこれを持っておいてくれ」
俺はそう言うと作っておいたアダマンタイトの短剣を差し出した。
「エルナは扱いになれてないかもしれないが、持っておくに越したことはないから」
「ありがとうございます!」
「ありがとう、ルカ」
「お、アダマンタイトの短剣か。剣でありゃ短剣だろうと俺にとっては問題ねぇな」
「ああ、だから基本的にはミハエルがエルナを守ってくれよ」
「おう」
「お、お願いします」
恥ずかしそうに頭を下げたエルナにミハエルは二ッと笑って言った。
「おう、任せとけ」
その後、昼食も一緒にとったあと、準備のために俺たちは解散することになった。
「じゃあ、あとでね」
「ああ、またあとで」
フィーネたちが部屋を出たあと、少しまったり過ごしてから、ギルドマスターとの約束の時間が近づいてきたので、俺はミハエルと自分の衣装を出した。
俺の衣装は普通の黒いタキシードだ。
襟に金の刺繍が入っており、胸元には銀細工の鎖と飾りつきだ。
白いシャツ、黒いベスト、金のアスコットタイとまぁまぁ無難だと思う。
――ちなみにこれはかつてアニメで見たカッコイイ正装ではあるのだが、もちろんこちらの世界の正装もちゃんと調べてあるのでそこまで変でもないはずだ。
そしてミハエルの衣装。
真っ白のタキシードだ。
襟には銀の刺繍が入っていて、胸元には俺と同じ銀細工の鎖と飾りがついている。
白いシャツと薄いグレーのベスト、銀のアスコットタイと王子様スタイルである。
自身の衣装を見たミハエルは目を見開いて口をパクパクさせている。
「ほら、早く着替えろよ」
「いや、おい、お前、ちょっと……これは……」
「なんだよ、俺に全部任せるって言っただろ」
「そうだけど……これは、なくねぇ……?」
「カッコイイじゃん。俺と対になるようにしたんだぞ」
「ええー……」
「ほら、早く早く」
俺が急かすとミハエルは諦めたように着替えをはじめた。
なんだかちょっと可哀そうになってきた。
「そんなに嫌なら俺と同じ黒にするか? でも多分黒よりは白の方がミハエルには似合うとは思うけどな」
実際本当に似合うとは思うのだ。
ミハエル自身体格もいいし、背も十三歳にしては高いしな。
ミハエルは俺の方をチラリと見て、もう一度自分の衣装を見てから一つ息をついて言った。
「いや、いい。頼んだのは俺だしな。まさか真っ白なのを用意されるとは思わなかったけど、俺に似合わねぇもんをルカが用意するとは思わねぇし、これでいい」
何その信頼! カッコイイ! 女だったら惚れてる場面だな!
まぁ実際似合わないものを用意しようとは微塵も思ってはいなかった。
――ただ、似合う中で少し恥ずかしくなるのを選んだだけで。すまんな、ミハエル。
そうしてお互い着替え終えて見比べてみた。
やはりミハエルはとてもよく似合っていると思う。
真っ黒の髪が白いタキシードにとても映えていて、メリハリがついている。
これが黒いタキシードだと合わないことはないが、今一つだったと思う。
「へー、ルカの金髪と黒いタキシードが結構合ってるな」
「そうか? ミハエルもやっぱその白いタキシード似合ってるよ。黒い髪とメリハリがついていいな」
そうして俺たちは軽く髪の毛も整えてから廊下に出た。
そこでしばらく待っていると、奥の部屋から可愛いらしい二人がでてきた。
「お待たせしたかしら?」
「すみませんです。時間がかかってしまいました」
フィーネとエルナの声に、俺たちは首を振った。
「いや、今出てきたところだ。待ってないよ」
「ああ、さっき出てきたところだ」
俺もミハエルも少し視線をさまよわせる。
「そう、なら良かったわ」
そう言って笑うフィーネは髪の毛を高い位置で縛っている。
ポニーテールというやつだな。
だから、耳元は完全に出ていて、プレゼントしたミスリルのピアスがゆらゆらと揺れている。
エルナは髪を上部だけまとめていて下は流している。
それでも耳は見えているのだが、そこにはやはり、ミスリルのイヤリングがつけられていた。
ちなみに俺は二人の衣装を見てもそこまで動揺していない、はずだ。
というのも二人に作ってほしいとお願いされたので俺が作ったからだ。
――まぁ俺から作ろうかなんて言えないので遠まわしに作ろうかと言ったらフィーネが意を汲んでくれて申し出てくれたというわけではあるのだが。
フィーネはタキシードだが、俺の提案で下はなんと言ったか、ワイドパンツだったか? ああいうタイプにしてあるので女性らしさもあるタキシードになっている。
――タキシードと言っても男と同じではなく女性用にはしてあるけども。例えばシャツの胸元がフリルになっていたり、だ。
俺と同じ黒いタキシードだが、ジャケットの胸元には白い花のコサージュをつけていて、首元には赤いドレープ状のネクタイをしている。
このネクタイは胸元の膨らみをあまり目立たなくさせる目的と、女性らしさを残すためだ。
エルナはドレスだけど、肌を出さないように仕上げている。
肌を出すといらぬ男が寄って来る可能性もあるからだ。
基本的には首元までしっかりあるドレスで、袖も肘まであり、袖の先は重ねたレースでプリーツのようになっている。
ベースは青いAラインドレスなのだが、スカート部分の横から後ろをレースと白い生地でドレープ状にしてある。
ウエスト部分は白いリボンで、リボンには青色の細かな模様入りだ。
まぁ、これも以前俺が友達に借りて読んだ漫画で見たドレスなのではあるが。
フィーネに聞いたところ、あまり見たことのないタイプではあるが、変ではなく、とても可愛いと言ってもらえたのできっと大丈夫なはずだ。
何よりエルナがとても嬉しそうにしていたので良かったと思う。
前世の俺の記憶も意外なものが意外なところで役に立っているな。
佐藤、お前に読めと言われて読んだ漫画が役に立ったぞ。お前は変なやつだったが、ありがとう!
そんなことを考えていると、フィーネとエルナからお褒めの言葉がかかった。
「ルカもミハエルもとても似合っていて素敵ね」
「ですです!お二人ともすっごくカッコイイです!」
「あーうん、ありがとう。二人もとても可愛いし素敵だよ」
「おう、フィーネはあれだよな、カッコイイし可愛いってやつだな。エルナも、可愛いらしいぜ」
フィーネは笑みを浮かべてお礼を言っていたが、エルナはミハエルに可愛いと言われて頬を赤くしていた。
こうして準備の出来た俺たちは宿の一階へと下りる。
一階にはすでにギルドマスターが待っていた。
ギルドマスターは普通に黒いタキシードだったが、やはりこう、なんだか威厳があるというか。
年齢による渋みや重みがあってカッコイイな。
「おう、来たか。ほう、よく似合ってるじゃないか。まるでどこぞの王子様みたいだな、お前ら。うん、嬢ちゃんたちもよく似合ってて可愛いぞ」
ギルドマスターの言葉に俺は疑問を抱く。
確かにミハエルは王子様みたいだし、フィーネたちも可愛い。
そこはいい、しかしどういうことだ、『お前ら』って!
俺は普通のはずだ、無難な黒いタキシードだし。
そりゃ多少男の子だもの、カッコイイ方がいいからミハエルと対にはしたけども。
俺は王子様ルックじゃないはずだ。
そんな不満を抱えていると、ギルドマスターから移動を促された。
「とりあえずは、このまま馬車で貴族の館へ向かうぞ」
「はい」
そうして宿屋から出ると、宿屋の前には貴族が乗りそうな馬車が用意されていた。
その馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車が進み始める。
ギルドマスターは馬車の中で、貴族の屋敷についたあとのことを説明しはじめた。
「パーティ自体は夕方からだが、雰囲気に慣れておくために早めにあちらへ向かってる。ついたら一旦客室に行くが、そのあと少しだけ会場と庭を見にいくからな」
「はい」
「ただすでにそこから試験が始まってると思えよ。案内の時に今日パーティを開催してくれてる貴族がくっついてくる。俺の知り合いではあるが、友人ではないからな。メリットがあるから付き合ってる相手だ。気を抜くなよ」
「はい」
馬車で進むことしばし、観光中に見た、貴族街への門が見えてきた。
御者が何かを見せ、門が開かれる。
門を抜けた先はさっきまでの雑多な雰囲気とはガラリと変わった。
洗練されたというか、金持ちの家が並んでいる感じだ。
落ち着いた雰囲気の家もあれば、ゴテゴテした派手な家もある。
奥へ向かうほどに家というか庭と屋敷がでかくなっていくな。
もしかしたら門から離れるほどに貴族の位が高くなっていくのかもしれない。
そんな貴族街を少し進むと、今日の試験パーティがあるキール子爵の屋敷へと到着した。
それなりに俺から見れば立派な庭園のある屋敷だ。
そのまま玄関前まで馬車が進み、俺たちはそこで馬車から降りた。
そこからメイドさんに案内されて客室へと向かう。
本物のメイドさんである。
俺は心の中でちょっぴり感動した。
客室に案内されたあと、しばらく待機していると、今回の試験パーティを開いてくれたキール子爵がやってきた。
「やあ、オルフ殿。今回はよろしく頼むよ」
「これはキール子爵殿。今回は開催して頂きありがとうございます。彼らが今回の試験を受ける『イストワール』というパーティです」
キール子爵の視線が俺たちに向く。
代表して俺が挨拶をする。
「初めまして、キール子爵様。私がこの『イストワール』のパーティーリーダーの、ルカ・ローレンツと申します。この度は私たちの試験のためにパーティを開いて頂き感謝します」
まぁ、感謝しますと言ってるが、実際キール子爵にメリットがあるからこそ開いてくれているというのはあるのだ。
――ちなみにBランクは貴族の位でいえば、キール子爵と同じ、子爵クラスである。とは言っても実際に爵位があるわけではないので、同等だが貴族と同じことができるわけではない。
「ああ、まだ若いのにBランク試験を受けれるなんてすごいね、君たちは。『イストワール』か、覚えておくよ。それじゃあ、貴族の屋敷なんて初めてだろうしね、案内しようか」
キール子爵は笑みを浮かべて案内を申し出た。
ギルドマスターと一緒に俺たちはキール子爵にアレコレと案内してもらった。
会場は中々に派手な飾りつけがされていた。
キール子爵によると、これほど派手にする予定はなかったが、Aランクパーティである『シュラハト』が急遽参加することになった為に招待した貴族以外の別の貴族の参加が増えて、飾りつけなどを豪華にしたのだそうだ。
いつもと違う感じにはなるが、『シュラハト』がいることで却って君たちは貴族に関しては楽になるかもね、とキール子爵は笑っていた。
そうなればこちらとしてもありがたいのではあるが。
しかし少し言い回しが気になる。
貴族に関しては、ということは他にも何かあるのだろうか……?
そんな疑問を抱きつつも、庭園や会場の案内をしてもらったあと、時間まで客室で待機することとなった。
さてさて、今回の試験パーティどうなることやら。
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