93 ギルドからの呼び出し
翌日、残り三分の一の行程を終えて、六十階に昼前についた俺たちは転移柱に触れると地上へと戻った。
受付で入場タグを受け取っていると、タグを渡してくれていた大人しそうな顔をしているのに筋肉モリモリな男性職員から声がかかった。
「あなたたちイストワールですよね?」
そう聞かれたので、俺が返事をした。
「はい、そうですが」
「ギルドマスターからの伝言がありまして、ダンジョンから出たらすぐに来るようにというお話です」
「はい。ありがとうございます。すぐに向かいます」
「よろしくおねがいします」
ダンジョン管理所から出たところでミハエルから声がかかる。
「なんだろうな? 呼び出しって」
「なんだろうな、明日が出発なのにギリギリまで戻ってきてないせいか?」
「あ、明日か。気にしてなかったわ」
「まぁ多少時間配分をミスはしたんだが……」
「でも、呼び出すほどのことかしら?」
フィーネの疑問の声に、俺もそうなんだよな、と思う。
「そうなんだよな。となるとやっぱり……何か問題があったか?」
「そのあたりかもしれないわね」
「まじかよ。ただでさえ貴族のパーティで面倒なのになぁ」
「そうだな。ちょっと気を引き締めないといけないかもな」
そうして俺たちはギルドへと向かう。
ギルドの扉を開けて中へ入ると、受付にいた女性職員に奥へ行くように促され、奥へ行くと別の職員さんに案内をされた。
どうも今回もギルドマスターの部屋へ行くことになるようだ。
ギルドマスターの部屋へ案内され職員の人が出ていったのを確認してから、俺はティーセットを出して紅茶を配膳した。
ギルドマスターの分をついで机に置いたところでギルドマスターが書類の山が積まれた机から立ち上がり、首を回しながらやってきた。
「おう、呼び出して悪いな」
そう言って席につくと、紅茶のカップを持ち上げ香りを楽しんでから一口飲んで息をついた。
「なんかもう慣れたけど、お前ほんとさらっと紅茶とか飲み物出すな」
「何も飲み物がないと一息つけませんから」
「そうだけどな。まぁいい。俺としてはありがたい」
そうしてギルドマスターが再度紅茶を飲んだところで俺は声をかけた。
「それでギルドマスター、今回俺たちを呼び出したのは?」
「ああ、それなんだが……ん? その嬢ちゃんの服、ローブか? そんなの作ったのか? また変わったデザインだな」
ギルドマスターがエルナの服装をみてそう言った。
「ああ、いえ、それは作ったのではなく、宝箱から出たんです。お洒落なデザインですよね」
「ほう、すごいもんだな。何階で出たんだ?」
「五十九階ですよ」
「ほう、五十九階……は? 五十九階!?」
「ええ、五十九階ですが……」
ギルドマスターがこれでもかと目を見開き、口をぱくぱくさせている。
しばらくして、ギルドマスターが大きく息を吐いて呆れた顔になった。
「最近お前らのドロップ品の確認してなかったが、まさか五十九階まで行ってるとはな……」
「何かまずかったですか?」
「いや、恐ろしく攻略速度が速いくらいで問題はない。とはいえ、お前ら一応まだCランクなのになぁ。Bランク相当の階層クリアするとはな。六十階からはAランク相当だぞ」
ギルドマスターの言葉にむしろ俺が驚く。
「それは、驚きです」
「俺が驚きだわ。それより、五十九階で出たってことは何か特殊な装備か?」
「ええ、特別な付与がされていましたよ」
そう言って俺はギルドマスターに付与されていた内容を話した。
「ほお、そりゃえげつない性能だな。普通はお前みたいに鑑定がないからわからんだろうが、もし分かっていて売るとなれば国宝もんになりそうだな」
「そんなにですか」
「そんなにだ。まぁ普通はわからんからな、売ったところで五十九階の宝箱から出たという程度の値段で買われるだろうよ」
「そうですか、なら今後出る特別な付与がされた装備品は売らずに置いときますよ」
「それがいいだろうな。さて、話が逸れたな、戻すぞ」
「はい」
「今日お前らを呼び出したのは三週間後の試験パーティの話だ」
そう言ってギルドマスターが話し始めた。
話をまとめると、要するに俺たちが試験として参加する貴族パーティに、なぜか『シュラハト』のメンバーも参加する、ということだった。
「どういうことですか? なぜ『シュラハト』が?」
「わからん。分かっているのは、大物貴族からの紹介だから、参加が決まったということだけだ」
「それは要するに、『シュラハト』が大物貴族に頼んで、今回のパーティに参加した、ってことですか?」
「多分そうだろうな。目的はお前だろうが……。しかしなぁ、なぜそこまでするのかがわからんのだ。大物貴族に頼んだということは借りができたはずだ。貴族なんぞに借りを作ってまでなぜお前の出る試験のパーティに参加する?」
「なぜでしょうね……。俺にもまったく分かりません」
レオンの独断なのか、メンバーと相談して決めたのか、それは不明ではあるが、何よりも彼の目的がわからない。
貴族のパーティで、しかも大物貴族からの紹介であれば、大物貴族の顔に泥を塗るような真似もできないし、ギルドマスターが言うように貴族に借りを作っていることになる。
それに、彼らがパーティに参加するとなると、注目はほぼ彼らに集まることになり、俺たちに群がる予定の貴族はほとんど彼らのもとに向かうことになるだろう。
俺たちが貴族と繋がりを持ちたい場合はかなりの嫌がらせになりはするが、むしろ俺たちにとっては鬱陶しい貴族が近寄って来ないのは実にありがたい話でもある。
貴族とほぼ会話せずに試験をクリアできるならその方がありがたいのだ。
何せ俺は知られてはいけない秘密があるし、そもそも日本人の時の無難な会話術は危険極まりなく、フィーネとエルナは元貴族であるということを知られるのは困るのだ。
だから、彼ら『シュラハト』に貴族が群がるというのはとてもありがたい。
そもそも、レオンくらいなら少し調べれば俺たちが目立とうとしていないというのは分かるはずなのだ。
本当にレオンの目的が分からない。何がしたいのだろうか。
レオンの性格からして嫌がらせをするようなタイプでもないし、ああいう男は真っ直ぐぶつかってくるようなタイプのはずだ。
とはいえ、Aランクになるほどの男、それなりに計算もできるのだろうから、十分気を付けるに越したことはない。
「だからまぁ、十分気をつけろよ。レオンはそういう嫌なことをするやつじゃないが、警戒するに越したことはない。俺から直接レオンを呼び出して話っていうのは俺がお前らにやたら肩入れしてるっていうのが分かるとよくないからな」
「そうですね。何かあるのかもと思われかねませんね」
「そういうこった」
「どちらにしろ十分注意します」
「そうしてくれ。あと明日は昼過ぎにはここに来いよ。馬車の手配はしてある」
「はい、わかりました」
そうして俺たちはギルドをあとにした。
レオンの目的は不明ではあるが、彼らが貴族たちの注意を引きつけてくれるならそれに乗っかって俺たちは大人しくしているだけだ。
「あのクソ野郎、何考えてんだろうな」
ミハエルが不機嫌そうにそう呟く。
「何だろうな、レオンが何考えてるのか俺にもさっぱりだ」
「でも何かしら、とてもすごく単純な理由のような気もするわ」
フィーネがそう言った。
理由も目的も分からないが、フィーネが言うように案外とても単純な理由なのかもしれない。
どちらにしろ三週間後、俺たちは貴族の屋敷で開かれるパーティに参加するしかないのだ。
ずっと気にしていても仕方ないので、とりあえず俺は家族に一ヶ月ちょっと帰って来れないことを伝えておくとしよう。
カールとリリーに一ヶ月と少し会えないのかと思うと寂しいものである。
お読みいただきありがとうございます。
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修正
ダンジョンの入場タグを『受け取り』と途中からずっと勘違いしておりました。
これまでの内容で受け取りと書いていた部分をすべて『渡し』に修正しました。
一応修正しましたが、まだあったぞ!と発見された場合は誤字報告して頂けますと助かります。




