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88 宝寿祭(後編)

 朝食をとり終えた俺たちは街中へと繰り出した。


 道の真ん中には点々とかがり火が焚かれ、街の家々は華やかな飾りつけがされている。

 あちこちに屋台や露店があり、大勢の人が楽し気に会話しながら歩いている。


 俺たちもそんな街のざわめきに溶け込むように繰り出した。

 露店や出店を冷やかしながら街を巡る。

 時折意味がわからない物を売ってる店で足を止めては店主に尋ねたり、面白ければ買ってみたりした。


 普段こだわることもない皿などを見て、和風っぽいなと思ったのを購入してしまったり、野営の時使えそうだなと鍋などを無駄に買ってしまったりと、何かと祭りでは金がでていく。

 冒険者になる前は自分の稼ぎなどなかったので、こうして宝寿祭で買い物をしたことがなかったが、金があればあるでつい財布の紐が緩んでしまう。


 いずれ使うと、無駄な物なんてないと思い込んではいるが、明らかに皿も買いすぎだし、鍋なんて持ってるしで無駄な買い物をしている。

 さすがに自重しようと少し決意する。


 ミハエルはなんだかよくわからない物を数個買っていたが、それが何かと聞いても、『わかんねぇ』としか言わなかった。

 なんとなく目についた、見た目が面白い程度で買ったらしい。


 フィーネとエルナは女の子らしく、可愛い小物などを買っていたが、フィーネは苦無のようなナイフを購入したりしていた。

 苦無のようなナイフは使い捨てにするらしい。

 安かったので買ったそうだ。

 なんだか、可愛い物を買うだけじゃないところがフィーネらしいというか。


 そうこうしているうちに昼になったので、適当に買い食いすることにした。

 というか開いてる食堂なんかは混んでてとてもじゃないが入れないからだ。

 祭りの日は屋台広場以外でもあちこちで屋台が出ているので、俺たちは適当に覗き見しながら食べたいものを買っていった。


 まぁ大体が食べ歩きを前提とした物を売っているので、行儀がいいとは言えないが、俺たちは食べながら歩き、あれこれと見たり買ったりとした。

 おいしかったのは何点か買ってアイテムボックスにいれたりもしてある。


 そうこうして歩き回っているとチラホラと酔っ払いを見かけるようになってきた。

 まだ陽気な感じであるが、そろそろ質の悪い酔っ払いも出てきそうである。


 そうして一応周りに気を付けつつも祭りというイベントを楽しむ。

 そう娯楽が多いわけではない世界なので、やはりこういったイベントとなるとみんなが全力で楽しんでいるので前世とは雰囲気というか、他人との温度差というのが少ない。

 前世では娯楽が豊富にあったので、イベントでも他人との温度差がそれなりにあったけど、今はみんなが似たり寄ったりな温度だ。

 ――時にハメをはずしすぎる輩もいるが、それは前世でもあったことなので置いておく。


 また適当な露店を覗いていると、ふと視線を感じて俺はそちらを見た。

 たまたまなのだろうが……、こちらへ少し口角をあげてやってきたのはレオンだった。


「よー、偶然だなぁ」

「どうも」


 普通に挨拶をしたつもりだったのだが、レオンが苦笑して言った。


「そう嫌そうな顔すんなよ」

「む……」


 どうやら顔に出てしまっていたようだ。

 すでに俺の隣にはミハエルが立っているが、レオンはミハエルを見ることもなく言った。


「まぁ別になんかするわけじゃねぇよ。たまたまあいつらと街に出たらお前が見えたからな、挨拶しにきただけだ」

「そうでしたか。祭りの日ですからね」


 暗に祭りの日だから余計なことするなよと含んで言う。


「そーだな。祭りだからな。んじゃ、俺はこれから酒飲みにいくから、またな、ルカ」


 そう言ってレオンは片手をあげて、彼の仲間の元へ向かった。

 彼の仲間は何か不思議そうに俺たちの方を見ていたので、レオンは彼らには何も言っていないのだろう。

 ――ただ、彼の仲間のうち、魔法使いぽい人が俺とエルナを見て少し驚いた顔をしていたのがちょっと気になり、コッソリと彼を鑑定してみた。


 なるほど、彼もパッシブ持ちであった。

 彼の能力は、魔力感知・中で、相手を見ると漠然とだが魔力量を感知できるらしい。

 彼が驚いたということはなんとなく俺たちの魔力量を感じたのかもしれない。


 俺たちは本来なら爆散して死んでるはずの魔力量を保持してる。

 ただ、無限収納の箱がありそこに放り込んでいるのだが、それも魔力の箱であるし、俺たちの体は常に魔力を作り続けているのでそのあたりを感じたのかもしれない。

 ――しかしまぁ、自分で作っておいてなんだが、一体どこに収納されているのやら。


 そこで俺はそういえばレオンの鑑定をしていないなとふと思った。

 次に会う機会があればしてもいいかもしれないが、できればあまり会いたくはないものだ。


 そうして俺たちは再び街を歩きはじめた。

 途中で休憩しつつまた露店巡りをしていると、マルセルとその彼女に出会った。


「あ、ルカ! ミハエル! それにフィーネちゃんとエルナちゃんも!」


 マルセルが彼女と仲良さげに手を繋いでニコニコしながら手を振っている。

 マルセルの彼女は大人しそうなおっとり系の女の子でちょっとぽやっとした感じの子だった。

 髪は色の薄いブロンドで、目の色はグレーだ。


 俺自身はマルセルの彼女に会うのは初めてとなる。

 ただ、ミハエルはもちろんだが、エルナも面識があるようだ。

 フィーネは初めてらしい。


 しばらくマルセルとその彼女と挨拶を交わしたりしつつ過ごした。

 中々にぽやっとした感じの子ではあったが、マルセルに向ける目はとても優しく慈しみに溢れているように感じた。

 なんとなく、父親でもないのに俺は安心してしまった。


「それじゃあ、またね! 宝寿祭楽しんでね!」

「マルセルもな」


 そうして俺たちはマルセルたちと別れ、再び歩き始めた。

 時刻はいつのまにか夕方近くになっている。

 時間が経つのが実に早く感じる。


 夕食をどうするかと話していると、フィーネから提案があった。


「何か買って、どこかで落ち着いて食事してはどうかしら?」


 確かに、ずっと歩き回っていたし、昼も歩きながらすませたので、食堂は混んでるだろうが、せめてどこかで座って食べたいものだ。


「そうだな。屋台広場方面に向かってみるか? あそこなら結構広いから落ち着ける場所もあるかも」

「おう」

「そうね、いいんじゃないかしら」

「はいです」




 屋台広場につくと、人は確かに多いのだが、屋台の数が少し減っているのと、屋台広場以外にも屋台が出ていることで比較的座れそうなところがあった。

 道中で買った物もあるし、屋台広場で買ったものもありで、俺たちは適当なスペースに座った。

 当然地べたなので、俺がアイテムボックスから適当な大きさの布を出して広げ地面に敷いた。

 ――もちろん、魔法の袋から出したように見せているけど。


「ありがとう、ルカ」

「ありがとうございます!」


 俺たち男は別に地べたでも構いはしないのだが、さすがに私服のフィーネたちに地べたに座らせるのはよろしくない。

 ――冒険者の恰好であれば俺も気にはしないけども。


 敷き布の上にそれぞれ腰掛けて、会話しつつ食事をとる。

 比較的隅っこを陣取ったので、周りの視線もほとんどない。

 食事を終えたあと、それぞれ飲み物をとりだして飲みつつも今日買ったアレコレや、マルセルとその彼女について話したりした。


 そうして会話がひと段落し、フィーネがエルナと俺の妹と弟について話していた時にミハエルに視線を送り、自身の耳を軽く触った。

 ミハエルが小さく頷いたので、ミハエルに通話魔法を繋げる。


 通話魔法がつながったときの独特なザザっという音がした。


『そろそろ渡すって話だろ?』


 繋がった途端ミハエルがそう言った。


『ああ、そろそろいいかなと思ってな。ただ問題はどう言って渡すかなんだが……』

『そりゃお前……、パーティリーダーであるルカから言うべきだろ』

『なんでだよ!』

『だって日頃の感謝を籠めたプレゼントだろ、パーティメンバーとして』

『そうだけど……ぐぬぬ』

『諦めてくれ、パーティリーダー』

『今すぐミハエルがリーダーになってくれてもいいんだぞ』

『諦めろ、以前全員一致でルカがリーダーってなっただろ』

『ぐぬ……はぁ、仕方ない。俺から言うけど、ミハエルも言えよ』

『わかってるよ』


 通話魔法を切った俺は周りが少し薄暗いことに感謝する。

 ――暗ければ、俺の頬が赤くなっているのも分かりづらいだろうから。


「フィーネ、エルナ、ちょっといいか?」


 俺の声にフィーネとエルナがこちらを振り向き首を傾げる。


「何かしら?」

「何でしょう?」


「まぁ、その、今日はほら、宝寿祭だろ」

「ええ、お祭りはやっぱり楽しいわよね」

「うんうん。華やかでわーって感じで楽しいです」

「そうだな、まぁ、その、日頃の感謝というか、これからもよろしくというか……」


 そこで俺は一旦言葉を区切ってから、一気に言うことにした。


「――俺たちからプレゼントがあるんだが、渡してもかまわないか?」


 俺の言葉にミハエルは頷き、フィーネとエルナは驚いた顔をする。


「え? 私たちに?」

「ああ。いいかな?」


 フィーネは途端、花が咲きほころぶような笑みを浮かべた。


「嬉しいわ、ありがとう。ぜひ受け取らせてもらうわ」

「私も嬉しいです!」


 フィーネの笑みに一瞬見惚れてしまうが、喜んでもらえたことに純粋に嬉しくなる。

 そうして、俺とミハエルはそれぞれプレゼントを取り出し、二人に渡した。


「開けてもいいかしら?」

「開けてもいいです?」


 フィーネとエルナがそれぞれに言葉を発した。

 俺もミハエルも頷く。


「ああ、どうぞ」

「おう、いいぜ」


 二人が綺麗な小箱の蓋をあけ、中を見た。


「わぁ……素敵!」

「……綺麗ね」


 エルナもフィーネも小箱からアクセサリーを取り出し眺めた。

 ミスリルの雫はかがり火の揺らめく炎に照らされ輝いていた。


 フィーネがエルナに声をかけた。


「せっかくだから、つけさせてもらいましょう? エルナ」

「あ、うん!」


 そうして二人はそれぞれつけていたアクセサリーをはずすと、ミスリルの雫をつけた。

 ミスリルの雫は揺れるようになっているので、彼女たちの耳元でミスリルの雫はゆらゆらと揺らめている。

 炎に照らされ、オレンジと、ミスリル自体が淡く青緑色に光っていて不思議な色合いとなっている。


 フィーネもエルナも金色の髪と、緑色の瞳によく似合っていると思う。

 二人とも満面の笑みを浮かべ、俺とミハエルに礼を言った。


「ありがとう、ルカ、ミハエル。すごく綺麗で可愛いわ。大切にするわね」

「ありがとうございます! ミハエルさん、ルカさん! すごく可愛くて綺麗でとっても嬉しいです! 大事にします!」

「ああ、喜んでもらえて良かった。二人ともとても似合っているよ」

「おう、よく似合ってんぞ」



 なんとか、酔っ払いなどの輩に絡まれることもなく、無事に宿まで帰り着くことができた。

 二人がとても喜んでくれたので良かったとすごく思う。

 なんだか少しだけ距離が縮まったような、そんな気分になる。


 明日の後夜祭は各自自由行動である。

 俺は少し魔法開発をしたあとは適当に街をぶらつくかダンジョンで軽く狩りでもする予定だ。

 まぁ、街をぶらつくとレオンに会う可能性もあるので、ダンジョンに行ってもいいかもしれないが。


 そんなことを考えつつ、一日を終えるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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