86 アダマンタイトの剣と前夜祭
剣の製作依頼をして三日後、今日はミハエルの剣の出来を見にいく日だ。
さすがに朝一で行くのもなんなので、今日は昼までゆっくりしてから向かうことにした。
「さて、それじゃそろそろ行こうか」
「今回は私たちもお邪魔していいかしら?」
「ああ、今日はきっと鍛冶場の裏庭で剣を振って微調整だと思うし、大丈夫だと思う」
「アダマンタイトの剣なんて初めて見るので楽しみです!」
「そうね、私も初めてだから楽しみだわ」
そう言って笑い合う二人を見て俺もミハエルも笑みを浮かべた。
鍛冶場についた俺たちは軽く声をかけてから中へ入った。
ウードはすでに待っていてそのまま裏庭へと向かう。
「じゃあミハエル君、これを振ってみてくれ。持ち手は既存のもので申し訳ないが、微調整が終わったらきちんと作り直すから」
「はい、ありがとうございます」
アダマンタイトの剣を鞘から抜いたミハエルは一度それを高く持ち上げた。
アダマンタイトの剣は炎の色というのだろうか、オレンジと赤が混じり合ったような不思議な色合いをしている。
「まぁ、綺麗ね」
「ほんとだ、すごく綺麗だね、お姉ちゃん」
俺は声こそ出さなかったが、その美しさに驚いていた。
――ちなみにアダマンタイトは余らないそうだ。これからの微調整で使い切るらしい。それでも結構ギリギリだそうなので剣一本作るのにどれだけ必要かがわかるというものだ。
ミハエル用に何個か丸太人形が用意され、流れるように切り、踊るように突き刺し、あらゆる形で剣を振るう。
撫でるように切りつけただけで丸太はスルリと切られ、突き刺したりも抵抗なく刺さっている。
切れ味は鉄なんかと比べるまでもないようだ。
というか、俺の作った鉄の剣にコーティングを施した剣よりも切れ味は鋭いかもしれない。
これほどならコーティングなしでもスコルピオンの甲羅を簡単に突き刺せるだろう。
この剣にコーティングと切れ味アップをかけたらどれほどになるのか。
しかし実にミハエルに馴染んでいるようでまるで手の延長のように滑らかに動かしている。
しばらくしてミハエルが演武を終えた。
ウードとしてはやはり微調整が必要だと考えているようだ。
ミハエルと細かい打ち合わせをしている。
結局一時間ほどウードがあれこれ指示してミハエルが剣を振るったりで打ち合わせは続き、無事に終わったようだった。
完成は本来二日後の宝寿祭本番の日だったのだが、今回の微調整なら今日中に終わるとのことで明日朝一に最終調整ということになった。
この日も俺たちはダンジョンに向かったがさすがに六十階に向かうには時間がなさすぎるので、ここ最近と同じく、五十五階でのんびりと狩りを続けた。
そして翌日の朝。
フィーネとエルナは昼まで少し出かけるとのことで、俺は特に予定もないのでミハエルにくっついてウードの鍛冶場へと向かった。
鍛冶場には人の姿はほとんどない。
いるのはウードだけだった。
「すみません、おじさん。前夜祭の日まで」
ミハエルがそう言うとウードはニカッと笑った。
「気にしないでくれ。これが俺の仕事だ。最後まできちんとやりきれて俺は満足だよ」
こうして最終調整がはじまった。
ミハエルが頼んだ持ち手は少し特殊にできているらしい。
鍔や柄は普通だが、柄頭の部分が五センチくらいあり、独鈷と言っただろうか? 映画などに出てくる両端が尖っている独特な武器、あのような感じになっている。
どうやらその部分も戦闘で使うらしい。
確かに接近戦になった時もあれなら攻撃手段となる。
とはいえ、俺には真似できそうにもないので俺は普通の剣にしておこう。
暫くしてミハエルの剣が完成したらしい。
今はミハエルが動きと使い勝手を確認するために裏庭で剣を振っている。
ウードも俺のそばでそれを見ていたので少し話しかけてみた。
「父さん、この間も言ったけど、今日昼過ぎに家にみんなで行くね」
「ああ、まさか我が家に女の子が来るなんてなぁ」
「違うからね、そういうのじゃないからね」
「ははは。わかってる、わかってる。まぁまだ若いからな」
わかっているのかいないのか。
ウードの言葉に若干の不安を覚えつつも、俺は会話を続けた。
「ねぇ父さん、そういえば母さんへの宝寿祭にプレゼント何にしたの?」
そう聞くと眉間にぐっと皺を寄せていた。
恥ずかしいらしい。
それでもウードは教えてくれた。
「……レクラムさんのところでな、まぁ、その、髪飾りをな……」
「そっか。俺も用意したよ、母さんに。父さんと被ってたらどうしようかと思ったけど」
「何用意したんだ?」
「ネックレス。父さんに雫型作ってもらったときに、ひとつだけ丸いの作ってもらっただろ?あれは母さん用だったんだ」
「そうだったか。きっとマリーは喜ぶぞ」
そう言ってウードは笑って俺の頭を撫でた。
相変わらず怖い顔である。
少ししてミハエルが剣を鞘に納めてやってきた。
「ありがとうございました。完璧です」
「そうか。良かったよ。不具合や気になる点が出たらもってくるといい」
「はい」
ミハエルは大事そうに帯剣ベルトにアダマンタイトの剣を装着した。
柄頭にも皮の鞘のようなものがついている。
街中ではやはり尖っているものなので危険だからだろう。
――ちなみに鞘内部にも薄くしたアダマンタイトが貼り付けられているらしい。鞘自体は鉄と皮で出来ているのだが、そのままだとアダマンタイトの剣が簡単に鞘を切り裂いてしまうためだそうだ。
「じゃあ、父さんまたあとで」
「ああ、またあとでな」
こうして俺とミハエルは鍛冶場をあとにした。
ウードは片付けてから家に戻るらしい。
「そういや、コーティングとか切れ味アップかけてても、鞘なんともなかったよな?」
「ああ、そういえば。汚れ防止だからかな? コーティング魔法作ったときにモンスターを切ったときにつく汚れを弾くことを考えてたからかもな」
「ふーん、そんなもんか。じゃあこれも大丈夫だよな?」
少し不安そうに聞くミハエルに、あとでサブ武器を作って試そうという話になった。
まぁ最近はそのサブ武器もほとんど使ってはいないのだが、ないよりはいい。
この後、ミハエルのアダマンタイトの剣を少し持たせてもらったが随分と重かった。
どうやら鉄よりもアダマンタイトは重たいらしい。
逆にミスリルなんかは軽いそうだが。
「結構重量はあるけど、慣れれば問題はないぞ。というかむしろこのくらい重い方が俺は扱いやすいな」
どうやらミハエルにとってはある程度重さのある剣の方が扱いやすいようだ。
逆に俺なんかは軽い方がやはり扱いやすい。
こうしてアダマンタイトの剣を受け取り、俺たちは一旦宿屋へと戻った。
宿屋へ戻るとすでにフィーネたちは帰ってきていたようで、昼まで宿屋の裏庭でミハエルの剣を見たりして時間を過ごした。
昼食をとった俺たちは俺の実家へ行くために移動をはじめる。
「お友達の家にいくのは初めてです!」
エルナが楽しそうにそう言った。
「弟も妹も、いい子だから仲良くしてあげてくれ」
「はいです」
ウードの顔が怖いことも一応伝えておいたが、はてさて、エルナがどれほどを想像しているか。
ワイワイと会話しつつ、俺の家へとついた。
まずは俺が家へと入り声をかける。
「ただいま」
事前に伝えてはあったので、マリーもウードもいる。
天使なリリーとカールは奥の部屋で遊んでいるらしい。
「おかえり、ルカ」
そうして俺は全員を家の中へと招いた。
「ミハエルとフィーネは知ってると思うけど、エルナは今日初めてだね。こちらがフィーネの妹でエルナ。で、俺の母さんと父さん」
「初めまして、俺はルカの父親だ。よろしくな」
「初めまして、エルナちゃん。よろしくね」
ウードたちが挨拶したところでエルナが顔を見て挨拶しようとしたところで、ウードをみた。
「ぴ」
エルナが鳴いて固まった。
うん、やはりそうなるよな。
父さん笑顔だもの。
そんなエルナをフォローするようにフィーネがエルナの背に手を当てて言った。
「お久しぶりです。以前はお世話になりました」
フィーネがそう言ったところでエルナも再起動したようで慌てて頭を下げた。
「は、初めまして、よろしくお願いします!」
そこからはエルナも幼子なわけではないので、問題なく過ごすことができていた。
とはいえ、急に話しかけられると鳴いてたけど。
カールとリリーを紹介した時は、カールがまた素で『可愛いですね!』と天然を発揮していたが、まだ七歳の子供相手なのでエルナも笑って礼を言っていた。
カールのあれは純粋な誉め言葉なので他意はないのだが、今はいいが将来が心配なお兄ちゃんである。
リリーはフィーネとエルナに遊んでもらって大変満足そうにしていた。
エルナも妹ができたみたいで嬉しいと言い、フィーネはフィーネで懐いてくるリリーが可愛かったようだ。
もちろん俺は顔には出さないがジェラシーを覚えた!
カールはお兄ちゃんのハグを見事に躱してミハエルに剣を教わっていた。
カールもやはり男の子で、剣などに興味があるようだ。
俺が作った木剣で軽い打ち合いをしているのを俺は羨ましいという目で見ていた。
まぁそのあと俺にもお願いしてきたので軽く相手をしたら、輝くような笑顔で『兄ちゃん強いね!』と言われ俺はご満悦だったりする。
そのあとなぜか俺とミハエルの木剣での打ち合いになり、俺はミハエルにボロ負けしてへこむわけだが……。
どう頑張ってもミハエルに剣で勝つのは無理だと再認識させられただけであった。
魔法ありでも微妙な気はするのが辛いところである。
広範囲殲滅魔法でも使えればあるいは!
――なんてできるはずもないのだが。
しばらくそうやって楽しく過ごしたあとは俺が全員分の夕飯を作った。
以前も作ったことがあるが、ミハエルが一番気に入っていたがみんな好きだったし、家族もみんな好きなので、具だくさんの豚汁を作った。
相変わらず好評だったので嬉しい限りである。
その後、帰る前にマリーにミスリルのネックレスをプレゼントした。
かなり喜んでくれたので、よかったと思う。
俺としては、実に楽しい一時を過ごすことができた。
明日は宝寿祭本番だ。
フィーネたちとは一緒に街を巡る約束はしてある。
問題はプレゼントを渡すタイミングだ。
一応夕飯のあとに渡すつもりではあるのだが……。
まぁそれもタイミングによるかもしれない。
そうして一日を終えた。
お読みいただきありがとうございます。
評価ブクマをして頂けますと喜びます。




