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85 剣の製作依頼

 あれから一週間と少しが経った。

 あと五日ほどで宝寿祭が始まる時期だ。


 街中はすでに宝寿祭の準備がされ始めていて、道の中央に点々とかがり火の準備がされていたり、各家々も飾りつけをしはじめている。

 まだ宝寿祭は五日後だというのに、すでに街中はソワソワした雰囲気だ。

 やはり祭りというのはいいものである。


 ちなみに、宝寿祭の前夜と後夜も祭りに含まれ、前夜祭、後夜祭として祝われる。

 メインは宝寿祭だけど、合計で三日間の祭りとなるのだ。


 この日ばかりは飲食店以外は大体店じまいをしている。

 ――とはいえ、稼ぎ時でもあるので屋台があちこちに出るし、アクセサリーなどの雑貨の露店もたくさん出るのだが。


 当然ながら俺たちもこの宝寿祭のある三日間は冒険者はお休みである。

 俺は前夜祭は実家に顔を出すつもりではあるのだが、以前リリーがフィーネに会いたがっていたのもあって、あれ以来エルナも誘えていないし、せっかくだからメンバー全員を誘ってみた。

 みんな快諾してくれたので前夜祭の昼は一緒に飯を食ってそのあと俺の実家に行き、多分夜は俺の手料理を振る舞うことになるだろう。



 そして、今日はこれからウードの鍛冶場に行くのだ。

 アダマンタイト鉱石がかなり集まったのでウードにミハエルの剣の製作依頼にいく。

 事前にウードにはアダマンタイトの加工が可能か聞いてあるのだが、問題ないとのことだった。


 ただやはり、オリハルコンになると加工は難しいそうだ。

 オリハルコンなどはノームと呼ばれる種族に頼むしかないらしい。

 ――ちなみにこの街にはノーム族はいなくて、ノームはノーム族だけで暮らす鉱山街があるらしく、そこまで行かねばならない。

 まぁ当分先の話ではある。


「おはようございます、父さんいますか?」

「ああ、坊ちゃんか。中にいるよ、入って」

「ありがとうございます」

「ルカ、私とエルナはここで待ってるわね」

「あ、うん。ありがとう」


 俺とミハエルだけが中へと入る。

 さすがにそう広い鍛冶場ではないので全員で入ると邪魔になってしまうのだ。


 中へ入って他の職人さんにペコリと頭を下げつつウードのいる場所へ向かう。

 今日来ることは前日に伝えてあったので、ウードは鍛冶の準備だけして待っていてくれたようだ。


「おはよう、父さん」

「ああ、おはよう」

「おはようございます、おじさん」

「うん、ミハエル君久しぶりだな、おはよう」


 ウードがニコリと笑ってミハエルの肩を叩いた。

 だから怖いんだよ、父さん。

 ミハエルはさすがに慣れたようだけど、エルナはびびりそうだな。


「アダマンタイト鉱石はそこの机の上に全部出しておいてくれ。で、ミハエル君は今使ってる剣を見せてくれるか」

「はい」


 ミハエルが普段使ってる俺が作った剣をウードに手渡した。

 ウードがミハエルの剣を見て何か考え込んでいたが、暫くしてミハエルに声をかけた。


「ちょっと裏手に行こう、あそこで少し剣を振ってみてほしい」


 そうしてミハエルを裏手に連れていった。

 俺もアダマンタイト鉱石を全て出してから様子を見にいく。


 鍛冶場の裏手はちょっとした広場になっていて、丸太の人形などがある。

 冒険者の装備なんかも依頼で作っているのでその為の広場なのだろう。

 そんな広場でミハエルがいつもの武器を振っていた。

 相変わらず見事な演武である。


 ただウードは何やら真剣な目でそれを見ている。

 暫くして、ウードがミハエルの演武を止めて言った。


「ふむ、やはりちょっと手の長さや体格に合ってないな。店にある既存の武器だが、君に合ってるサイズがあるから持ってこよう。それで感想をくれ」

「はい」


 今すごくウードがカッコイイ!

 こんな風に父親ではなく職人としての顔をしているウードを見るのは実質初めてに近い。


 鍛冶場に向かったウードが戻ってくると三本の剣を持っていた。

 それぞれ剣の重心が違うらしく、ミハエルがどれが一番扱いやすいかを聞いている。

 ミハエルはそれぞれの剣を振り、許可をとって丸太人形を切りつけたりして試している。


 俺の作った剣での演武も綺麗だとは思ったが、やはりウードが言ったように長さが合っていなかったのだろう、既存の剣ではあるが、ミハエルの腕の長さや体格に合っているのか、先ほどよりも動きに鋭さと美しさが増している。


 結局ミハエルは二本目の剣が一番扱いやすかったようで、それをウードに伝えている。

 そこからさらに、持ち手の部分の握りやすさや、ここをこうして欲しいなど細かい話へと移行していた。


 十分程して話し合いを終えたようでミハエルとウードが戻ってきた。


「とりあえずそういうことで、また三日後に来てくれ」

「はい、よろしくお願いします」


 どうやら話は終わったようだ。


「じゃあ父さんよろしくね」

「ああ、いい剣作ってみせるから期待してろ」


 ウードがニカリと笑って言った。

 俺も信頼を籠めて笑って頷く。


「うん」


 そこでふとウードが思い出したように言った。


「そういえばルカ、この間、銀細工師のレクラムさんがうちにきて、雫型のアクセサリーについて話があったんだが、お前からの紹介と言ってたが本当か?」

「ああ、うん。父さんに作ってもらった雫型あっただろ? あれをアクセサリーにしてもらったんだ。その時に雫型を作った職人を紹介してくれって言われて」

「なるほどそうだったか」

「一緒に商売はじめるの?」

「いや、俺は依頼されれば作りはするが商売となるとな、拘束される時間が長くなるからやめておいた」

「そっか」

「でもまぁ、あちらはそれでも問題ないらしい。雫型もきちんとそれなりの値段で購入してくれるそうだ」

「せっかくだから父さんも母さん用に作ったら?」


 俺がそう言うと、ウードは眉間に皺をよせた。

 これは恥ずかしい時にするクセだ。

 なるほど、すでに用意しているのか。


「うん、そっか。きっと母さん喜ぶよ」


 そう言うとウードはプイと顔を逸らした。

 そんなウードに俺は苦笑しつつ、お礼と別れを言って鍛冶屋をあとにした。


 ちなみに、アダマンタイトの剣を叩くのに三日かかるそうで、ミハエルは三日後に一度鍛冶場を訪れ、剣を振り、そこから再び微調整をして、五日後には完成の予定だそうだ。

 ちょうど宝寿祭の日となるらしい。


 ミハエルとしては宝寿祭のあとでもいいと伝えたそうだが、そこは職人、やはりやりかけのまま放置するのは嫌なんだそうだ。

 その話しを聞いたフィーネは、いい職人ねと笑って言い、俺はちょっとだけ鼻が高くなる思いだった。

 やはり家族を褒められるのは嬉しいものだ。


 ちなみにアダマンタイト鉱石の数的に、剣を一本打つのがせいぜいだそうで、サブ武器はメインとなる剣が出来たら俺が作ることになった。

 さすがに各種剣をすべて作るだけのアダマンタイト鉱石を集めるとなるとかなり時間もお金もかかってしまうからだ。


 ウードがしっかりと今のミハエルにぴったりの剣を作ってくれるから俺はそれを参考にすればいいだけなので非常に簡単にサブ武器を作ることができる。

 俺もいずれはミスリルの剣をウードに作ってもらいたいものだ。


「とりあえずまた五十五階で狩りでもしようか?」

「そうだな。今回の剣の製作依頼でパーティ資金使っちまったからな」

「はは。気にするなよ。これでミハエルが強くなれば簡単に資金は戻るさ」


 実は全員がCランクになったあたりで、フィーネからの提案でパーティ資金を貯めるようにしたのだ。

 毎回清算時に、端数と、四銀貨を資金として置いとくようにした。

 最近では大銀貨を稼げるようになってきたので、大銀貨以降の端数はパーティ資金としてとってある。

 おかげでかなりの額が貯まっていたので、ミハエルの製作資金はそこから出せたのだ。


 今回はミハエルの剣だったが、そろそろ防具も見直さないといけない。

 とはいえ、俺たち全員軽装備がベストなので、皮系がいいのだが、今のところ一番いい皮でモーナットビーストの皮なのだが、あれはちょっと見た目がよくない。

 そろそろいい皮が出てくれるとありがたくはあるのだが。


 どちらにしろ今はパーティ資金が寂しくなったのでまずは狩りで資金集めだな。

 俺たちは五十五階へと飛び狩りをはじめた。

 ミハエルは相変わらず俺の作った剣のままではあるが、モンスターを倒すのに支障はないらしい。


 アダマンタイト鉱石はもう集め終わったので、これも売れるようになるからかなりの売り上げになるだろう。

 ちなみにここのドロップはアダマンタイト鉱石と、バジリスクの毒袋、スコルピオンの甲殻と毒針、そして土鉱石だ。

 一番安いので毒袋なのだが、それでも銀貨五枚する。


 これまでの五十五階でのアダマンタイト鉱石を含めた予想売上だと、分配は、大体一人頭大銀貨五枚くらいになり、端数は各自で銀貨二枚から三枚は出るはずだ。

 それを貯めれるのでパーティ資金の集まりは早いだろう。


 もちろん、ここ最近はアダマンタイト鉱石をすべて売らなかったので、一人頭大銀貨三枚しかなかった。

 やはりアダマンタイト鉱石の売り上げはかなり大きいと言える。

 とはいえ、これでミハエルが強化されればこの程度はすぐに補えるだろう。


 俺の魔法のコーティングはどうも剣自体の強さで魔刃も変わるようなので、アダマンタイトの剣になれば魔刃もかなり強化されるだろう。

 今はスコルピオンの甲殻を貫けないようだが、アダマンタイトの剣になればきっと貫けるはずだ。


 俺自身もアダマンタイトの武器は触ったこともないから、実に楽しみだ。

 どれほどの変化があるのか。

 鉄の剣とどれだけの違いがあるのか。


 そしてミハエルがそのアダマンタイトの剣を持ったとき、どれだけ強くなるのか。

 ――俺は魔法をバジリスクに撃ちこみながら、少しだけ口角をあげてしまうのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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