84 地下五十五階
さて、本日からまたダンジョンだ、と思っていたんだが、ギルドマスターが呼んでいるらしい。
朝食後、俺たちは冒険者ギルドへとやってきた。
すでに話があったのか、奥へ行くように促される。
奥へいくと、この間二階に案内してくれた男性職員がまた案内してくれた。
しかし、今回は小部屋ではなくギルドマスターの部屋へ案内のようだ。
ギルドマスターの部屋へ入ると職員の人は頭を下げ部屋を出ていった。
「おう、すまんな。ちょっと座って待ってろ」
「はい」
以前椅子が足りなかったのだが、今回は全員が座れるだけの椅子があった。
全員で座ったところで俺がティーポットを用意して紅茶をついでいく。
もちろんギルドマスターの分もだ。
アイテムボックスの時間停止機能は実に便利だ。
今回は俺が用意したが、フィーネやエルナが用意してくれている時もある。
紅茶のいい香りがしたところで、ギルドマスターが書類にひと段落つけてやってきた。
「お、紅茶か。いいな」
すでにギルドマスターはテーブルに何が出ていても気にしなくなったようだ。
「俺の好みの紅茶ですけどね。それでよければ」
「ああ、問題ない。いい香りだ」
ギルドマスターが紅茶の香りを楽しんだあと、ゴクリと一口飲んでほっと一息ついた。
「さて、今日呼んだのは、Bランク試験のパーティについてだ。久しぶりのBランク試験ってことで知り合いの貴族が随分張り切ってくれてな。宝寿祭の一ヶ月後に開くことになった。問題ないか?」
当然この、問題ないか? は日程についてではなく、準備は問題ないか? である。
ギルドマスターが俺たち全員を見回して言う。
俺たちはそれぞれ頷いた。
「よし、貴族の家は首都にあるから宝寿祭の一週間後に移動を開始するからな」
「はい」
「それでおまえらちゃんと正装は用意してるな?」
「はい、エルナと私は用意できています」
「俺とミハエルも問題ありません」
「おお、優秀だな。まぁお前らはあくまでも冒険者だからな、軽い正装でかまわん。貴族みたいにビラビラした格好はめんどくさいからな。ただ、さすがに貴族の来るパーティだから、帯剣はできん。でも何があるかわからんから、アイテムボックスに短剣でいいからいれとけ。いいな?」
「はい」
「とはいえ、お前らは致死ダメージ軽減魔法かかってるだろ? 俺もかけてもらってるが」
「ええ、全員かかってます。俺が解かない限りはそのままですよ」
「よし、それでいい。まぁまずないと思うが、過去にBランクにあがる冒険者を暗殺しようとした者もいる。警戒はしとくに越したことはない。まぁパーティで襲われたわけじゃないがな」
フィーネがギルドマスターの言葉に疑問を投げかけた。
「冒険者をですか?」
「ああ、まぁあれは稀な例だけどな。自分の囲いに頷かなかった冒険者を暗殺しようとしたんだよ」
そう言ってギルドマスターが少し苦笑した。
「その当時は貴族自身の私兵だったから当然失敗に終わったがな。世の中には闇ギルドっつーもんがある。そこは暗殺から誘拐からなんでもするギルドだ。冒険者崩れなんかも所属してたりするが、プロもいる。さすがにプロ相手だとBランクといえども危険はある。まぁお前らは問題なさそうだがな」
また定番だが闇ギルドか。
正直死ぬまで関わりたくはないものだ。
ギルドマスターが一息ついたところで俺は少し気になっていたことを聞いた。
「ちょっと話は変わりますが、少しいいですか?」
「なんだ?」
「Aランクパーティのシュラハトをご存知ですか?」
俺がそう言うや、ギルドマスターの眉間に皺がよった。
「知ってるが、何があった?」
「いえ、まだ何もないんです。そのパーティとダンジョンの受付で会った時に、シュラハトのリーダーであるレオンが俺に視線を向けたんです。その目が探るような試すような視線だったので気になりまして。すぐに視線ははずされましたけどね」
俺の言葉にギルドマスターは顎に手を置くと少し考えるように黙った。
少しして、何かを確認するように聞いてきた。
「お前にだけか?」
「はい、俺にだけでした」
「そうか」
「ギルドマスター、何か知ってますか?」
「うーん……、別におまえの何かを知ってるとかじゃなく、多分だがあいつの本能だ。あいつは自分より強い相手に対して強く反応するんだよ。野生の獣みたいなやつだ。多分だが、ルカを気にしたということは薄っすらだが、お前が強いのを見抜いたのかもしれんな」
「え、でも俺は魔法くらいですよ? 剣の腕はからっきしですよ」
「あいつの勘は鋭いからな、魔法だろうが剣の腕だろうが強いやつに反応する。まぁ、すぐに視線はずしたんならそこまで気にしてるわけでもなさそうだが……。問題はあいつは強いやつに挑むのが好きなんだよ。もしかしたらルカに試合を持ち掛けてくるかもしれんな……」
それは困る。俺の全力でないとレオンには勝てないだろうし、俺は全力を出せない。
俺が困っているとミハエルが言った。
「いざとなれば、ルカに身体強化なり色々かけてもらって俺が相手しますよ」
「ふむ、まぁあいつの性格からしてルカじゃなければやらねぇとか言いそうだが、身体強化かけたミハエルなら興味持つかもしれんな。あれをかけたミハエルは今ならAランク相当あるだろう」
「そうっすね。悔しいけど、あいつはつえーから。でもいずれ俺の素の実力であいつをねじ伏せてやりますよ」
「ははは! そうだな、ミハエルならいずれレオンも倒せるだろう。というか、お前たちならいずれSランクにもなれるはずだ。期待してるぞ」
「頑張ります。Sランクになったらアイテムボックスで眠ってるシュタルクドラッヘの清算しましょうか、ギルドマスター」
「ははは、そういやそうだな。もう随分前に感じるな。さて、話が随分それたが、宝寿祭の一週間後にパーティだからな、準備を怠るなよ」
「はい」
こうして俺たちはギルドマスターの執務室をあとにした。
「じゃあダンジョン行こうか」
「そうね、今日は五十五階からね」
「そうだな、普通だといいんだけど」
「お前が気を失った時にちょっと確認しといたけど、普通だったから安心しろ」
そう言ってミハエルが苦笑した。
「仕方ないじゃないか……。あれはダメなんだよ……」
「クスクス。私が正気でいられたのはルカが暴走していたからよ。だから大丈夫よ」
「ですです。私もルカさんが暴走してなかったら発狂してたかもしれないです」
そんなことを話ながら俺たちはダンジョンに向かった。
俺としては五十五階からは普通だと聞いて本当に安堵しているところだ。
そうして五十五階へ飛んだところで俺はまたギルドマスターにミスリル武器を持っていないか聞くのを忘れたことを思い出した。
まぁまた今度聞けばいいかと思いつつ五十五階を進み始めた。
ミニマップで見る限り、五十五階は普通の洞窟のようで枝道などは多いが階段まではそんなに遠回りしなくてもいいようなのでほっと一安心である。
とはいえ、やはりここからはダンジョン内に泊まることは増えそうだ。
たまの休みに屋台広場で色々買ったり自分で作ったりで料理なんかは色々アイテムボックスにあるので問題はないのだが、やはり薄暗い洞窟にずっといるのは気分のいいものではない。
「お、五十五階で最初のモンスターパーティだな。ここを真っ直ぐ行けばぶつかる」
「おう」
こうして五十五階で最初に出会ったモンスターパーティ。
そこにいたのはバジリスクとスコルピオンだった。
バジリスクは足が六本生えた全長一メートルほどのトカゲで、表皮の色はこげ茶色をしていて、酸を含む猛毒を吐き出してくる攻撃をしてくるらしい。
あとは噛みつき攻撃で、口内には小さい牙がびっしり生えている。
前世でよく見た設定の、石化の能力はないらしい。
そしてスコルピン、こちらも体長一メートルほどで尻尾まで含むと一メートル五十センチはあるかもしれない。
尻尾の先から猛毒の針を飛ばしてきて、大きなハサミで掴み攻撃をしてくる。
あのハサミで挟まれたら腕や足くらいなら簡単に切断できそうだ。
どちらも遠距離攻撃をしてくるのだが、バジリスクが二匹、スコルピオンが一匹いる。
まずはスコルピオンをミハエルに任せ、バジリスクはこちらで始末することにした。
最初にフィーネがバジリスク二匹に矢を撃ちこむ。
一匹は目に刺さり、もう一匹は胴体に刺さったようだ。
バジリスクはフィーネを睨みつけバタバタとこちらに走ってくる。
そこでルーツをかけ、俺とエルナとフィーネで魔法と矢を撃ちこんでいく。
バジリスクが酸を含む毒を吐き飛ばしてくるが、距離が足らず俺たちには届かない。
しかし酸が入っているので地面に落ちるとシュウシュウと音をたてて毒と共に煙があがる。
毒も深いダメージを食らわないとはいえ、ダメージがないわけではないので、俺はバジリスクが飛ばしてきた酸を含む毒が地面に着弾すると同時に氷結槍で毒を凍らせて無効化していく。
そうして俺たちがバジリスクを相手している間、ミハエルはスコルピオンと戦っていた。
スコルピオンは尻尾から毒針を次々と飛ばしているが、ミハエルは器用に剣ではじくか避けている。
とはいえ、巨大な挟みと毒針のせいで中々近づくことができないようだ。
暫くして、ある程度動きを把握したのかミハエルが攻撃に移ったようだ。
やはり一番邪魔なのは毒針攻撃だったようで、スコルピオンの体の回転が遅いのを利用して尻尾へ強い一撃を加え、尻尾の先の節部分を切り飛ばしている。
尻尾の毒針攻撃さえなくなればあとは簡単だったようで、スコルピオンの背に飛び乗ると、そこから背中の甲羅を何度か刺していた。
しかし随分甲羅が硬いようで、今度は節部分から斜めに剣を刺している。
それがちょうど頭部の部分だったようで、スコルピオンはボフンと音を立てて消えた。
「中々に硬ぇな、あのスコルピオン」
「いい加減武器もいいのにしないとかなぁ」
「そういや、これ、ルカに作ってもらったやつずっと使ってたな」
「ああ。どこかでミスリルかアダマンタイト集めでもするか?」
「それもいいかもしれないわね。唯一の前衛であるミハエルの武器が弱いのは問題があるでしょうし」
「そうだな、ちょうどこの階でもアダマンタイトが出るのはわかったし、ミハエルの武器用に集めようか」
「まぁ、俺としちゃ、やりようなだけだから別にこれでもかまわねぇけどな」
そう言って苦笑するミハエル。
「そうなんだけどな、でもやっぱいい武器を使うべきだと思う。そうすればミハエルはもっと強くなるだろ」
「まぁ、いい武器があれば戦闘は楽っつーか幅が増えるかもな」
「だろ? じゃあしばらくここの階でアダマンタイト集めようか」
「そうね、いいと思うわ」
アダマンタイト鉱石だけを集めるならば、本当なら五十階から五十二階の黒いアイツのところが効率はいいのだとは思う。
あそこはアダマンタイト鉱石か風鉱石しか出なかったから。
でもあそこで狩りをすると俺の精神が持たないので多少ドロップ率は下がってもこの階の方がいいのだ。
それにアダマンタイト鉱石以外のドロップが多い方が資金稼ぎにもなる。
当然ながら、アダマンタイト鉱石についてはミハエルの強化のためで、それはパーティの強化となるので、これは投資だからお金をとることはない。
それについては他のメンバーに関しても同じだ。
宝箱から出たものや、装備品の更新や強化に関する物についてはお金はとらない。
俺みたいなミスリルを個人的にアクセにするためなんかにはきちんとお金を払うけど。
「よし、それじゃしばらくはこの階層で資金稼ぎと、アダマンタイト鉱石集めしようか」
「おう、すまねぇな」
「ははは。ミハエルが強くなれば狩りもはかどるからな。いいんだよ」
「そうね」
「ですです!」
そうして狩りを開始した。
ミハエルの武器を作るにはかなりの個数を集めなくてはいけないだろうが、一、二週間も狩ればメイン武器くらいは作れるだろう。
ウードはミスリルの加工もできるようだし、アダマンタイトも可能だろうか?
今度聞いてみておこう。
こうして俺たちはダンジョンの先へ進む前にミハエルの武器の材料集めをするために狩りを開始した。
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