81 大きな角狼
初めてのダンジョン内での夜営を終えた。
人が来ないのをいいことに、俺はベッドを作ったのだ。
衝立も作って女子との間に仕切りも立てた。
目覚めた俺はぐっと体を伸ばす。
これでもし寝袋なんかで寝ていたらきっと体が痛くて仕方なかったことだろう。
ベッドごとアイテムボックスにしまう。
ミハエルも目を覚ましたようでベッドの中でもぞもぞしている。
衝立に関しては吸収されたりするのかなと思ったが、どうやらセーフゾーンではダンジョンの吸収効果はないようだ。
親切設計なダンジョンである。
アイテムボックスに入れてあった薪を取り出し火をつける。
朝食も普通に出来合いの物を食べるが、スープくらいは暖かい物を飲んでもいいと思うのだ。
薪の上に鍋を設置し、お湯を沸かす。
鍋には刻んだベーコンとキャベツをいれ、コンソメで味付けをする。
最後に塩コショウで味を調えれば完成だ。
そうして煮込んでるうちに全員が起きてきた。
女子組は少し前に起きていたようではあるが。
「あーまさかダンジョンでこんな快適に寝れるとはなぁ」
「はは。人がいないからこそだけどな」
「人がいなくて良かったわ。こんなに快適に過ごせて本当に感謝だわ」
「ですです。地面で寝てたら体中痛かったかもです」
そうして俺は全員にスープをよそって配った。
全員にお礼を言われたが気にしないでくれとだけ返す。
スープと朝食を食べたあと、少し時間を置いてから俺たちはセーフゾーンを出てすぐ近くにある階段へ向かった。
今日は四十八階からスタートだ。
四十八階は四十七階と同じで、階層の広さも同じくらい広い。
そうして最初に出会ったモンスターパーティ。
よく見知ったヘーレギガントが二体、そして角の生えたでっかい狼が一匹。
グロースホルンウルフ、大きな角狼という意味らしい。
本当にでかい。牛くらいの大きさがある。
毛皮は艶のある黒色で、角は額の真ん中から真っ直ぐに生えていて、長さは二十センチほど、そして白銀色をしている。
ただ、その角は雷を纏っているようで、バチバチとスパークしている。
あの角は直接攻撃用ではなく、雷魔法を撃つためのもののようだ。
とりあえずあのグロースホルンウルフはミハエルに任せて、俺たちはヘーレギガントを倒そう。
ルーツをヘーレギガント二体にかけ、速攻で倒す。
ミハエルはすでにグロースホルンウルフと戦闘中だ。
あの大きさなので、そこまで動きは早くはないようだが、ミハエルが近づくと雷を撒き散らしている。
あの角から撃てる魔法の範囲はそう広くないようだ。
しかし雷魔法は基本触れれば麻痺の効果がある。
なのでやはりミハエルも攻めあぐねているようだ。
モーナットビーストの時のように一瞬で詰めて攻撃を繰り出しているが、深く攻撃をする余裕がないらしい。
ミハエルが近づいた瞬間、バチバチと音がして角から雷が放たれる。
ミハエルは素早く避けるが、避ける距離が大きい。
というのも、地面に落ちた雷がまるでヘビのようにしばらくうねうねと四方に広がるのだ。
だから距離を開けないと感電する。
十分ほど戦闘を続けたところで、俺たちもその攻撃に加わることになった。
ミハエルが十分経っても実験ではなく攻めあぐねている場合は俺たちも手だしすることになっているのだ。
まずはフィーネの弓が飛んでいく。
ヒュンと風を切る音がしたかと思えば、グロースホルンウルフの後ろ脚に刺さっている。
しかもちょうど関節だったようで、グロースホルンウルフは左後ろ脚を引きずるようになった。
そして次にミハエルが大きく後退したところでエルナのアクアカッターが飛んだ。
しかしそれは避けられてしまう。
その直後、俺のウインドバレットがグロースホルンウルフの首に二発撃ちこまれた。
それは首を貫通し、グロースホルンウルフは喉と口から血を吐いた。
グロースホルンウルフの意識がミハエルではなくこちらに向いた瞬間、ミハエルの多段踏み込みで雷を纏っていた角が切り落とされる。
グロースホルンウルフは角を切り落とされたあとは、もう魔法を撃つことがなくなった。
なるほど、あの角がないと雷を撃てないわけか。
そうなるとあとは早い。
弱りきっていたグロースホルンウルフは、ミハエルの攻撃によって心臓を貫かれ息絶えた。
グロースホルンウルフが消えたあとには先ほどミハエルが切り飛ばしたのと同じ角が落ちている。
グロースホルンウルフの角、鉄と同等の硬度があり、雷の属性を宿しているらしい。
大体は加工されて槍の穂先になるようだ。
雷属性があるので人気はあるが、削って鉄に混ぜても属性が消えてしまい、また角自体を削り過ぎるとこれまた属性が消えてしまうらしい。
なので、槍以外には加工できないため、それほど高くは売れないようだ。
こうして俺たちはその後もヘーレギガントとグロースホルンウルフのパーティを倒していく。
何度も倒すうちにグロースホルンウルフの倒し方ができてきた。
最初にミハエルが攻撃するのは同じだが、そのすぐあとフィーネが後ろ脚の関節を潰して走れなくし、そこに俺とエルナが魔法を撃ちこむことでグロースホルンウルフの意識を俺たちに向ける。
そうなればミハエルがグロースホルンウルフの角を切り飛ばす。
あとは走れず雷魔法も撃てない大きな狼の対処など簡単なもので、ミハエルの剣で心臓を貫くか、俺とエルナの魔法が脳を破壊して終わりだ。
七パーティほどを倒したところで、グロースホルンウルフから毛皮が出た。
それを持ち上げたミハエルが驚きの声をあげる。
「うわ、これすげぇな。手触りやべぇぞ」
そうして渡された毛皮を持って、俺も驚く。
「おお、すごいな、これは。めちゃくちゃ気持ちいい」
フィーネやエルナも毛皮に触れ、驚きの声をあげる。
「これは……すごいわね」
「わぁ! すごくふわふわでツヤツヤで気持ちいいですね!」
グロースホルンウルフの毛皮は触るとふわふわしていて、それでいてまるでビロードのような手触りをしているのだ。
毛自体が真っ黒のまるでオニキスのような光沢感もあり、実に高級感溢れている。
「うわ、これ一枚で大銀貨二枚するらしい。かなりのレア素材だな」
「お、まじか。おいしい素材だな」
とはいえ、この階層ではグロースホルンウルフは一匹だけなうえに角などもドロップするので中々手に入らないだろう。
そうして俺たちは狩りを続け、四十九階へとたどり着いた。
結局あれから毛皮は出ていない。
四十九階にいたのは、ヘーレギガントが三体、グロースホルンウルフが二匹だった。
さすがにルーツなしで倒すにはミハエルが忙しすぎるので、ヘーレギガント三体とグロースホルンウルフ一匹にルーツをかける。
元気に動くグロースホルンウルフをまず倒し、そして残りのグロースホルンウルフをやってから、ヘーレギガントを倒す。
なんだかんだ言ってもグロースホルンウルフの角から放たれる雷魔法は厄介なのだ。
そうして四十九階で狩りを続けること四時間近く、時刻はもう五時に近い。
ただ最初の方で随分手間取ってしまったので五十階の階段まではまだもう少しある。
とはいえ、あれから段々と効率化され、今では数分で終わるようになっている。
すでにルーツはかけておらず、グロースホルンウルフの角は問題なくなっている。
というのも、なんで俺は今まで使わなかったのか自分でも意味がわからないのだが、サンダーバレットをふと思い出して使ったのだ。
もちろんグロースホルンウルフの角にだ。
俺のサンダーバレットを角にぶつけたところ、あっさりと角が折れた。
それはもう簡単に根元からポッキリと。
アースバレットでもアクアカッターでもびくともしなかったというのに。
当然俺もかなり驚いたが、他のみんなもすごく驚いた。
ミハエルなんかは最初からそれやってくれよって言ってたけど、俺もなんで今まで思いつかなかったのか不思議だったくらいだ。
四大元素魔法以外はできるだけ使わないようにセーブしていたせいで、完全に忘れていたようだ。
そこからはもう楽だった。魔法さえ防げればただの大きい狼だ。
むしろグロースホルンウルフよりもヘーレギガントの方が脅威となる。
エルナもなんとかサンダーバレットを使おうとしていたが、どうにもうまく発動できなかった。
というのも、以前訓練した時に、四大元素や氷はうまく扱えたのだが、それ以外はどうしても発動できなかったのだ。
あれからも時折訓練はしていたが今俺が使ったサンダーバレットではなく、初級のサンダーですら結局一度も成功はしていない。
多分だが知らないからうまく想像できないのだろう。
電気を知らないのだから理解もしにくい。
それでも今は敵が使ってくる。
だからいずれエルナも扱えるようになるはずだ。
実際小さくではあるが雷のスパークが時折迸っているので、感覚は掴んできているのだろう。
とはいえ、バレットにするにはまだまだ時間がかかるな。
まずはサンダーを撃てるようになってからだ。
こうしてなんとか四十九階を通り抜け五十階の階段に辿り着いた。
「お、やっとか。腹減ったな」
ミハエルがお腹をさすりながらそう言う。
それも仕方ないことだ。
今はもう夜の六時を回っているのだから。
いつもならすでに夕食をとっている時間だ。
「そうだな。さっさと転移柱に触って帰ろう。俺も腹減ったし」
「そうね、浄化魔法をかけてもらえたけど、やっぱり早くお風呂にはいりたいわ」
「私は早くご飯食べたいです」
そうして俺たちは五十階にある転移柱に触れると地上へと戻った。
受付で入場タグを返し俺たちはギーレンの宿屋へ向かう。
とにもかくにも夕食だ。特に動き回るミハエルはすでに腹からグーグーと大合唱がおきている。
それにつられて俺の腹も鳴きはじめるし、小さく可愛らしいキュゥという音がフィーネやエルナからもする。
恥ずかしそうに頬を赤くする二人を見てちょっとほっこりしつつ俺たちは宿屋でおいしい料理にありついた。
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