80 初めてのダンジョン内での夜営
「さて、今日からは五十階目指していこうか」
俺の声に皆が頷く。
まぁ昨日すでに話し合って決めたことではあるのだけど。
適当な会話をしつつ俺たちはダンジョン管理所へと入った。
俺たちの前にパーティがいたようで受付に人がいた。
全員二十代後半くらいだろうか、男性五人のパーティのようだ。
重装備を着た大剣持ち、鈍器と盾持ち、槍持ちの前衛ぽい人が三人、軽装で背中に弓を背負った物理遠距離が一人、ローブを着て大きな盾と杖を持った魔法使いですって感じの人が一人。
そんな五人パーティが受付を終えてダンジョンに行くのを待っていたら、そのうちの一人、大剣を背負った男がこちらをチラリと見た。
だけど、フィーネやエルナや、ミハエルではなく、なぜか男は俺に視線を向けた。
なんだろう、なんというか、試すような、探るような、そんな視線。
すぐに男は視線をはずしたが、なんだか少し気になった。
彼らがダンジョンに入っていったのを見送ってから俺たちも受付へ行く。
入場タグを受け取った俺は気になって受付のおじさんに少し聞いてみた。
「さっきの五人組って誰かわかりますか?」
「ん?ああ、あいつらか。あいつらはAランクパーティのシュラハトだよ。二日くらい前にシュルプに着いて、今日からオリハルコン集めだとよ。結構有名なパーティだぞ?」
「あの、大剣を持ってた方は?」
「んー、別に教えてもいいんだが、なぜだ?」
「あ、いえ、深い意味はないんです。彼が俺を見ていたので少し気になって」
「なるほど、あいつがねぇ……。まぁいいだろう、あいつはレオンって言ってシュラハトのパーティリーダーだよ」
Aランクパーティ『シュラハト』のパーティリーダー、レオンか。
一応覚えておこう。
お礼を言った俺はミハエルたちに声をかけてダンジョンへと向かった。
そんな俺たちを見送った受付の男性はぽつりとつぶやいた。
「レオンがねぇ……まぁ何もないと思うが……」
そんな彼の言葉は誰にも聞かれることなく霧散していった。
ダンジョンに入ったところでミハエルが話かけてきた。
「なんかあったのか?さっきのパーティのこと聞いてたみたいだけど」
「いや、深い理由はないんだが、大剣持ってた男いたろ?」
「ああ、あいつか。強いな、あいつ。勝てる気がしねぇな」
ミハエルがハッキリと強いと認め、勝てる気がしないと言うことに俺は心底驚いた。
「驚いたな、ミハエルがそう言うなんて」
「悔しいけどな、全員強いが俺が勝てないと思ったのはその大剣の男だけだ。で、そいつがどうした?」
「ああ。いや、ダンジョンに彼らが向かう時にその大剣持った男が『俺』を見てたんだよ。なんていうか、探るような試すような視線でさ、ちょっと気になってな」
「ほう……」
「まぁ、だからちょっとパーティ名と名前を憶えておこうかと思ってな」
「そうか」
そうして俺たちは四十五階へと飛ぶ。
ミハエルはなんだか少し考え込んでるようで気になった俺は声をかける。
「ミハエル、何考えてる?」
「んー、大したことじゃねぇよ」
そう言うミハエルを俺はじっとみる。
ミハエルは諦めたように溜め息をついて、少し不機嫌な顔になる。
「ルカを見てたっていうから気になったけど、もしあいつが襲ってきたら俺にはルカを守る力がねぇと思ってちょっと悔しかったんだよ」
そう言うミハエルに俺は思わず笑みを浮かべてしまう。
「はは。そうか。でもミハエル、俺は守られるばかりは嫌だって前に言っただろ? 仮に彼がなんらかの理由で俺を襲ったとして、ミハエル一人で対応できなくても、俺もフィーネもエルナもいるだろ。一人で頑張らなくていいんだぞ」
「ふふ、そうね。ミハエル一人じゃないわ、私たちだってルカを守るために動くわ」
「はいです。ミハエルさん一人じゃないです」
俺たちの言葉を聞いたミハエルはバツの悪い顔をした。
「そう、だな。すまねぇ」
そんなミハエルの肩を俺は叩く。
「俺らは仲間だろ、ミハエル。一緒に成長していこうぜ」
「おう。そうだな。ま、しばらくはあいつに俺の上の席は譲ってやるよ。いずれ俺が奪うけどな」
そう言ってミハエルはニヤリと笑った。
俺もフィーネもエルナも笑みを浮かべる。
「そうだな。俺たちはもっと上に。もっと先へ行こう」
「おう」
「そうね」
「頑張ります!」
こうして俺たちは再び絆を強くして四十六階へと向かった。
レオンのことが気にならないわけではないが、別に何かされたわけでもない。
警戒はしておくに越したことはないが、そこまで気にするべきことでもない。
そう考えながら階段を下りていると、そこに広がる光景に驚いた。
目の前に広がっているのは先ほどまでとは違って天井が高く、横幅のある洞窟だった。
先ほどまではせいぜい高さは三メートル、横幅は四、五メートルだったが、今は高さは六メートルほどで横幅は七、八メートルほどだろうか?
「随分洞窟内が広くなってんな」
「そうね」
「ああ、確かに。多分ここの階層の敵はでかいモンスターなんだろうな」
「あーなるほどな。でかい敵か」
洞窟内が広くなっているというのもあるが、ミニマップを見る限り、全体の広さもかなり広くなっている。
この広さだとこの階層を抜けるだけで数時間かかりそうだ。
「今回はもしかしたらダンジョン内で夜を過ごすことになるかもしれないな」
「分かったわ。ちゃんと準備はしてあるから大丈夫よ」
「俺も前のCランク試験のいれっぱなしだから問題ねーぞ」
「私も大丈夫です」
全員問題ないようだ。
お互いに今後の確認を終えた俺たちは足を進めた。
しばらく歩いたところで最初のモンスターパーティに出会った。
予想通りではあるがやはり迫力がある。
まだ距離はあるが、遠目でも大きいことがわかる。
ヘーレギガント、洞窟の巨人という意味らしい。
なるほど確かにそうだ。洞窟にいる巨人だな。
身長は三メートルほどあるだろうか、体格は筋肉質でゴツイ。
持っている武器は木の棍棒のようだが、あれで殴られたら簡単につぶされるだろうな。
あとは布の腰巻をしているだけのようだ。
そんなヘーレギガントが三体で歩いている。
まずは二体をルーツで止めて一体だけにして、ミハエルが戦うことになる。
ただまぁ、これは最初だけで、前衛であるミハエルが間合いや攻撃など、ヘーレギガントの動きを理解するために必要だからだ。
これだけ大きい敵となるとミハエル一人ではさすがに時間がかかりすぎるのだ。
そうして俺たちはミハエルとヘーレギガントの戦いを見守る。
当然ただ見ているだけではなく、戦いをみて、俺たちもヘーレギガントの動きや攻撃方法、攻撃速度、そしてミハエルがどう動いて戦うか、それを見て、俺たちはどう攻撃すればいいかを考えるのだ。
まぁそれも前衛がミハエルだけだからできることではあるが。
パーティとしてはバランスが悪いとは思うが、いざとなればフィーネが軽装前衛として動けるし、身体強化をかければ俺もなんとか前衛をすることはできる。
純粋に後衛なのはエルナだけだろう。
そうしているうちに数分かかったがミハエルがヘーレギガントを倒した。
ヘーレギガントが体中から血を流すほどにミハエルは切りつけていたようだ。
「んー。俺一人だと倒すのに時間がかかりすぎるな。残りは全員でやろうぜ」
ミハエルの声に俺たちは頷いた。
「ルーツははずすぞ」
「おう」
「わかったわ」
「はいです」
別にルーツをかけたままでもいいのだが、それでは訓練にならない。
何度も繰り返して慣れたらルーツで止めてサクサク倒してもいいんだけどな。
狩りの時ならそのやり方は時々している。
とはいえ、止まった敵をやり続けるのは飽きるので動きがすばしっこい相手にかけるくらいだ。
ルーツで止めていたヘーレギガントを解放したあと、ミハエルが切りかかったところでミハエルの動きを邪魔しない形で俺やエルナ、フィーネの後衛組が攻撃をしていく。
――ルーツと同じ理由で俺の氷結槍も基本的には使わない。使う時はフランメモスみたいに鱗粉を撒き散らしたりする相手くらいだ。
こうしてヘーレギガントを倒し、ドロップした魔石を回収して次へと向かう。
今回は五十階を目指しているので寄り道はせずに真っ直ぐ階段へ向かうルートだ。
やっと四十七階へ下りる階段が近づいてきた。
時刻はすでに昼を過ぎて一時になっている。
途中で昼休憩は挟んだが、予想以上に時間がかかる。
ヘーレギガントを倒すのに時間がかかるというのもあるが、何より階層が広いのだ。
四十五階の倍以上はあるだろう。
まぁ、敵の大きさを考えればこれだけの広さがないと意味はないんだろうけど。
それでもやはりモーナットビーストとドライアドのタッグは強烈だったのだろうと思う。
これだけの大きさと広さとなるとかなりの人数が犠牲になったのだろう。
もちろん他のもっと上層の階での死者なんかもあるのだろうけど。
階段手前にいたヘーレギガントのパーティを倒し終えドロップ品を回収する。
ミスリル鉱石と火鉱石が出たようだ。
火鉱石はこの階層、ヘーレギカントから出るようになった。
この鉱石は溶かして鉄に混ぜると、鉄に火耐性や火属性がつくようになるらしい。
こんな鉱石があったことに驚く。
まぁ、俺は魔法で付与できるので必要はないけども。
というか、鉄なりに混ぜるのでそれ以外の属性付与ができなくなってしまうので正直不便だ。
――ちなみに火鉱石以外には、風鉱石、土鉱石、水鉱石があるらしい。それ以外は今のところ発見されてはいない。
こうして俺たちは四十七階へと下りた。
当然というかなんというか、四十七階も広い。
今日は多分四十七階か、四十八階の途中で寝泊まりすることになるだろう。
ダンジョンに潜り始めてから初めてのダンジョン内での夜営になる。
ブオンとこちらにまで棍棒を振り回す音が聞こえてくるヘーレギガントの攻撃を躱し、ミハエルがヘーレギガントの右足首の腱を切り裂く。
ズンと大きな音を立ててヘーレギガントが膝をつき、鼓膜を震わせる大きな叫び声をあげる。
そこへフィーネの矢が飛び込み、ヘーレギガントの目に刺さる。
ヘーレギガントはたまらず棍棒を落として目を押さえる。
それと同時に、エルナのアクアカッターがヘーレギガントの脇腹を切り裂きもう一発のアクアカッターがヘーレギガントの目を押さえる手首を切り落とす。
そして、止めに俺がアースバレットを二発大口を開けて叫ぶヘーレギカントの口内に撃ち込む。
一発目で口内から頭頂部に向けて突き刺さり、その直後に同じ部分にアースバレットが当たり頭蓋骨内へと侵入し、脳を破壊する。
それを合計四回行って四十七階での狩りが終わった。
時刻は夕方の五時だ。
それなりに効率よく最短で進んでは来たが、元々冒険者が誰もいなかったのでモンスターが充実しており時間がかかった。
階段近くにセーフゾーンがあるので今日はそこで終了となる。
「そろそろセーフゾーンに向かおうか。やりすぎても明日に疲れが残るのはよくないしな」
「そうだな」
「そうね、分かったわ」
「はいです」
そうしてセーフゾーンへと入った。
出来合いの夕食をとりながら雑談をする。
「そういえばよ、うちのパーティ名ってなんだっけ?俺ルカに丸投げで聞いてねぇな」
う。あの時はカッコイイと思ってつけたが、そうやって改めて聞かれるとなんだか恥ずかしい。
「あら、そういえば私ずっとソロだったからパーティ名とか気にしていなかったわ。ねぇルカ、なんてパーティ名なの?」
ぐぐ。
「そういえば私も知りませんでした。どんなパーティ名なんですか?」
うぐぐ。
しかし黙っていても仕方ない。
諦めて俺はパーティ名を教えた。
「イストワール」
「イストワール?どんな意味があるの?」
「物語って意味があるんだ。俺たちの冒険の物語を刻んでいくパーティだから、イストワール」
「ほー! いいじゃん。イストワールか」
「素敵ね、物語を刻んでいくパーティ」
「わー! カッコイイですね!」
俺の頬が熱を帯びる。
褒められてはいるけど、やっぱりちょっと厨二臭かった気もする。
でも実際このパーティは今も物語を刻み続けている。
最初は二人きりだったパーティにフィーネやエルナが増え、Cランクになり、そして今度はBランクになる。
俺たちの物語はここでは止まらない、いつかSランクになるのだ。
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