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75 ミスリル鉱石

 翌日、俺たちは今四十階にいる。


「一応四十五階を目指す感じで行こうか」

「おう」

「了解よ」

「はい」

「そうだ、エルナこれ」


 俺はアイテムボックスから盾を取り出してエルナに渡した。

 エルナは首を傾げている。


「盾、ですか?」

「そう、エルナは武器の扱いに慣れてないし、かといって何も持たないというのもいざって時危険だろ? その盾なら軽いけど、防御はしっかりできるから、いざって時は盾を前に出して助けを待つか、魔法で攻撃するかできるから」


 俺が渡したギミックつきの革張りの円形の盾だ。

 当然そのままだと防御力なんてこの階層ではないに等しい。

 だから、盾には反発魔法をかけてある。

 反発魔法はこの為に作った魔法で、攻撃を受けると盾の表面を覆うように展開している魔法がその攻撃と同じ力を返すのだ。

 ――魔法は防ぐだけで返さないけども。

 だから、エルナに攻撃された重みがかかることもなく防御しつづけられる。


「――で、こうして持ってて、攻撃を受けると……」

「わぁ! すごいですね!」


 ギミックつきの盾なので、当然ギミックはあって、強い衝撃を受けると一回り大きい盾が展開するようになっている。

 当然衝撃以外でも盾の内側の持ち手を強く握り込んでも展開する。


「片手が塞がれるけど、ないよりは絶対いいから」

「はい、ありがとうございます!」


 これで俺の懸念は一つ消えたのでよしとする。

 あとは昨日ふとゲームで使ってたバインドよりも強力な拘束魔法を思い出したので、それを作ってみた。

 当然、あのSランクのモンスター、シュタルクドラッヘを思い出しながら、あいつを拘束できる力でイメージしたものだ。

 もちろん魔法の発動阻害もしてくれる優秀な拘束魔法だ。


 そうして四十階の探索が始まった。

 冒険者はそこそこ多くいて、五パーティほどだろうか。

 多いと言っても、階層自体が広いので下層に行くルートで出会うことはなさそうである。

 そうして進むこと数分、ミハエルに前方の曲がり角の三十メートル先に敵がいることを知らせる。


 チラリと覗くと、そこにいたのは頭部や手首などから葉っぱを生やし、体表は木の幹のような、いわゆるドライアドがいた。


 ドライアド、大きさは一メートル五十センチほど、人型をしているが、見た目は完全に木で出来ている。

 髪の毛の代わりに緑色の葉っぱがふさふさと生え、体の一部からも枝が生えている。

 そんなドライアドが三体いる。


 ドライアドは基本魔法攻撃で、接近されると殴り攻撃をしてくるようだが、バインドと似た魔法も使うらしい。

 地面から木の根が生え、それが足をからめとるようだ。

 ミハエルの反射神経なら避けれそうではある。

 そして魔法攻撃は、鋭い葉っぱを飛ばすリーフカッターのようである。


「――そんな感じだな」

「なるほど、まぁとりあえずやってみっか」

「ああ、一体はミハエル、残りは俺たちでやろうか」

「分かったわ」

「はい」


 そうしてミハエルが走り始め、フィーネが弓を引き絞った。

 俺はとりあえず拘束魔法、『ルーツ』をミハエルが向かっていない二体に向けて発動した。

 エルナはアースバレットを撃ちだしている。


 ルーツは無事にかかったようで、二体は感電したかのようにピシッとなって動きを止めた。

 二体の体には赤いスパークしている光の線がまとわりついている。

 ミハエルが向かった一体はリーフカッターを飛ばしているが、この二体はまったく発動していないので、魔法の発動阻害はうまくいってるようだ。


 ミハエルは俺の予想通り、足元に生まれた木の根っこを飛び上がって避けている。

 根っこが虚しく空をきり消えていく。

 一方フィーネが撃ち込んだ弓矢は一発目はドライアドの頭部に刺さり、その次は人ならあるであろう心臓の位置を貫いていた。


 ドライアドの身体の弱点とか、身体構造についてはスマフォには書いてなかったが、通常のモンスターと同じく、頭部や心臓部分は弱点なのだろう、頭部と心臓を貫かれたドライアドはボフンと音を立てて消えた。

 もう一体もエルナが撃ち込んだアースバレットの三発目が頭部を破砕して消え、ミハエルも首を飛ばしたようでドライアドは消えたようだ。


 ミハエルが持ってきたドロップは『ドライアドの花弁』という薄いピンク色の花びらだった。

 酒に付け込むと実にいい香りがつくらしい。

 あとは加工して石鹸に練りこんだり、女性が使う香水など、香りづけで使われる素材のようだ。

 花びらといっても、小さくはなく、手のひらほどの大きいサイズだ。

 これで、銀貨一枚らしい。


 そうして俺たちは足を進めた。

 普通に狩りをしつつ進んでいると、遂にミスリル鉱石が出た。

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 ミスリル鉱石

 状態:良

 詳細:少量のミスリルが含まれた鉱石。銀貨五枚の価値がある

 ---------------------

 この大きさのしかも少量しか入ってなくてこれだけの価値があるのか。

 これまで出た鉱石は両手でちょうどくらいの大きさだったが、ミスリル鉱石は片手くらいの大きさなのだ。


「へぇ。ミスリルかー魔法反射するんだよな?」

「そうだな。しかも軽いらしいから、これで盾や手甲を作れればいいが、ここで集めるとかなりの量を集めないといけなくなるな」

「どれだけ集めればいいのか、気が遠くなりそうね」

「でも、キラキラして綺麗ですね」

「はは。そうだな。イヤリングの一つくらいならこれで作れそうだな」


 俺の軽口にミハエルが続いた。


「あー、いいんじゃね?エルナ欲しいなら貰ったらどうだ?」

「えっ いえ、いいです!」


 エルナは頬を赤くして、手をブンブン振って断った。


 だがまぁ、悪くない話だ。

 確かに贅沢ではあるだろうが、ミスリルは確かに美しくはある。

 二つで銀貨十枚程度だし、そこそこ出たら俺が二つだけ買い取って父さんに加工してもらって二人にプレゼントしてもいいかもしれない。

 ちょうどもうすぐ祭りの時期だし。


 そう思いつつ目線をあげると、ミハエルが耳を叩いてる。

 なんだろうと思いつつミハエルに通話魔法を繋げた。


『なんだ?』

『あーなんだ、それ、ミスリル鉱石たくさん出たら一個買い取りたい』


 そこで俺はおや?と思い聞いてみた。


『もしかして、エルナにイヤリングプレゼントか?』


 そう聞くも、ミハエルからは返事がない。

 それは要するに、肯定ということだ。


『安心しろって、別に揶揄う気はないから。俺も同じこと考えてたんだよ』

『……フィーネにか?』

『いや、二人に、と思ってたけど、ミハエルがエルナにあげるなら俺はフィーネにプレゼントかな』

『でも、なんて言って渡すんだよ。俺は別にイヤリングにして渡す気はなかったぞ。そのままあげようかと……』


 普通に狩りをしながらも俺たちは通話を続ける。


『ほら、もうすぐ宝寿祭あるだろ?』

『ああ、そういやそうだな』


 宝寿祭というのは、この国にある祭りで、この国を建国した初代国王の王妃が最初の子である王子を産んだお祝いのお祭りと言われている。

 ただ、その時に初代国王が、妻である王妃に子供を産んでくれてありがとう、いつもありがとうと、心を籠めてプレゼントをしたと言われているのだ。

 その当時、女性というのは男性に傅くのが当たり前と言われている時代だった。

 なので、本当にものすごい衝撃だったらしい。

 だが、初代国王は本当に国民から愛されていた。だから、国民は素晴らしい行いだと絶賛したのだそうだ。


 まぁ今でも軽くなったとはいえ、女性は傅くものとされてはいるのだが、それでもこの宝寿祭の日は親しい女性に日ごろの感謝を籠めてプレゼントをするというのが行われているのだ。


『だからまぁ、問題ないだろう?』

『そう、だな』

『とはいえ、俺はフィーネに、ミハエルはエルナにだけってのは問題があるからさ』

『おう』

『だから一緒にプレゼントしないか?俺たちから、二人へ ならいいと思うんだよ』

『あーそうだな。それがいいな。そうしよう』

『プレゼントはどうする?俺はフィーネにピアスを贈るつもりだけど』

『合わせる。エルナはピアスあいてねぇし、イヤリングかな』

『分かった。じゃあ父さんに加工お願いしておくよ』

『助かる』


 こうして俺はミハエルと通話を切った。

 あとは確かマルセルの彼女さんのお父さんが銀細工師だったはずなので、加工したミスリルをピアスやイヤリングにしてもらえばいい。

 時間ももうあまりないし、早めに声をかけておこう。


 そんなことを考えつつも階層を下り、もうすぐ四十三階である。

 結局四十階から四十二階までドライアドだけだった。


 各階層にそれなりに冒険者がいたのでやはりミスリル狙いなのだろうとは思うが、あの少量では何を作るにしてもかなり(こも)らないと難しいだろう。

 それでも、花弁か鉱石の二つしかでないので比較的ドロップ率はいいのかもしれない。


 そうこうしているうちに四十三階への階段についた。

 多分次からまた新しいモンスターになるはずだ。

 さてさて、どんなモンスターが出るのやら。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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