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72 これはひどい臭いだ

 無事にシュルプの街へと帰ってくることができた。

 帰りは魔法なしで少し馬車の操作を訓練することができた。

 魔法で強制的に体を動かしていたとはいえ、体は覚えているらしく、なんとか操作はできるようになった。

 ただ魔法なしだと、操作に集中してしまって周りを見れなくなるのでまだまだである。


 街へ戻り、無事フィーネたちはCランクへとなり、そのあとに俺たちは無事正式にパーティを組んだ。

 これからは俺、ミハエル、フィーネ、エルナの四人で冒険をしていくことになる。


 この日はフィーネたちのCランクへのお祝いと、正式にパーティを組んだお祝いをした。

 一応、お祝いの翌日は休日とし、休み明けはまたダンジョン探索だ。


 エルナもすでに三十階に到達しているので、次は四十階を目指すことになる。

 ちなみに、ダンジョンのランク分けであるが、かなり大雑把だけど、十階まではEランク、三十階までがDランク、四十階までがCランクと、ランク分けがされているらしい。


 俺としては、二十階までがD下級、二十階からはD上級っていうイメージだな。

 そして、やはりというか、この二十階から三十階までの間での死者が一番多いらしい。


 Dランクというのは冒険者でいえば一人前と言われる実力になる。

 そこで調子にのる者は命を失ったり、体を欠損したりとモンスターからの洗礼を受けて冒険者ではなくなる。

 調子にのらなかったとしても、CランクとDランクの実力には大きな差があるのでやはりDランクで冒険者としての人生を終える者はとても多い。

 二十階付近に人が多かった理由はそれである。


 三十階までくるとガクッと人は減る。

 実際俺たちが快適に狩りができたのは、冒険者パーティが少なかったからだ。


 こうして俺たちは無事に再びギーレンの宿屋で部屋を借りることができ、一日の休みを満喫した。


 そして翌日、ギーレンの宿屋で朝食を終えた俺たちはダンジョンへと移動した。


「今日からは四十階目指していこうか」

「おう」

「分かったわ」

「はいです」


 まずは三十階へと移動して、そこからはミハエルを先頭にしてすぐ後ろに俺、その後ろにフィーネとエルナという隊列になる。

 俺はミハエルへの案内も兼ねているからだ。

 でも最近のミハエルは、冒険者としての勘が磨かれてきたのか、何かを感じるのか、モンスターに関しては、俺が言う前に気づいていることも多い。

 こればっかりは俺には芽生えそうにない感じなので、俺は大人しくマップに頼ることにしている。


 今回は四十階を目指しての攻略なので、狩りはそこそこに真っ直ぐ階段を目指す。

 とはいえ、他の冒険者が多くないのでそれだけモンスターの数も多く、そして階自体がとても広い。

 なので、四十階を目指しているとはいえ、もしかしたら今日は三十五階で終わりの可能性もある。


 そうして移動すること数時間、今はまだ三十三階である。

 まだハイオークが出る階のようだ。数は増えて、五匹だ。

 二体はミハエルが相手して、残り三匹にはフィーネの牽制からの俺のバインドと、エルナと俺の魔法攻撃で倒している。

 分厚い皮下脂肪はあれど顔面にはそんなに肉はないので脳の破壊を狙っての攻撃だ。


 エルナはまだ攻撃の正確さが甘いが、それでもハイオークの顔面にアースバレットを撃ち込めている。

 俺はエルナが撃ち込んだアースバレットの開けた穴にさらにアースバレットを撃ち込んで脳にまで到達させている。

 そうして一匹目がボフンと音を立てて消えた。残りは二匹だ。


 フィーネはそんな俺たちのサポートとして、ハイオークの腕を攻撃している。

 肩関節を集中して攻撃しているので、ハイオークは腕をあげることができなくなり、おかげで俺たちの魔法攻撃は邪魔されることなく撃ち込めているのだ。


 そして全てを倒し終えたところで俺は全員に声をかけた。


「そろそろ昼休憩にしようか。すぐそこにセーフゾーンもあるし」

「おう」

「もうそんな時間になっていたのね」

「はい」


 テンポよく狩りが出来ていると時間があっという間に経っているものだ。

 セーフゾーンに入った俺たちは湧き水で顔を洗ったり手を洗ったりして一息ついたあと、昼ご飯にした。


 昼ご飯のあと三十分ほどゆっくり休憩したあと、俺たちは再び狩りへと戻っていった。

 やはりというかなんというか、下層にいけばいくほど広くなっていく。

 もちろん階層が作られている時に死者が少なければ少ないだけ狭くなってはいるのだが。


 そうして一時間ほどしてやっと階下への階段がみえた。

 広いうえに敵が多かったので真っ直ぐ向かったわりには時間がかかった。


 階段を下り、俺たちは三十四階へと足を踏み入れた。

 モンスターに変化があるのは光点の数で分かった。


「お、モンスターの数が変わったな。どうやらここからは新しいモンスターになるみたいだぞ」

「ほう、りょーかい」


 最初の敵に会うために移動を開始する。

 しかしなんというか……この階層におりてきてから少々くさい。

 何かが腐ったような、そんな臭い。


 その臭いの理由はすぐに分かった。

 そしてちょっとどころじゃなくくさい。

 俺たちの前方にはグールが一匹とゾンビが三匹いた。


「くせぇ……」


 ミハエルが思わず呟いてしまった。

 フィーネは何も言わないが、エルナはちょっと涙目になって鼻を押さえている。

 俺は鼻呼吸をスッパリやめた。これは実にきつい。


「ミハエル、フィーネ、エルナ、少し戻っていいか。臭い遮断の魔法を作りたい。これはきつい」

「賛成だ、戻ろうぜ」

「そうね、戻りましょう」


 全員が俺の提案に即座に返事をし、エルナは涙目でコクコク頷いている。

 そうして全員で階段まで戻った。

 ここも臭うといえば臭うが、先ほどと比べたら全然マシである。


「ちょっと待っててくれ。すぐ作る」

「おう、まじで頼むわ」

「いくらでも待つわ」

「くさいです~」


 俺はすぐに目を閉じて魔法のイメージをはじめた。

 とにかく悪臭カットだ。

 服にも臭いがつきそうだから、服にも臭いがつかないようにカットだ。

 二十三階にいたトイフェルアイもかなり強烈なくささだったが、なんというか、あれはただただくさいだけで、こっちのは腐敗臭なせいか、吐き気と不快感が半端ないのだ。

 服に汁の一つもつけたくはない。臭いも汚れもカットだ。


 俺たちは後衛だからいいが、前衛になるミハエルは本気で悲しみそうだからな。

 ミハエルのためにも今後もこんな敵が出る可能性もあるので、きっちりイメージを固める。


 今回ばかりは俺の魔法創造もかなりの気合いがはいった。

 たっぷりと二十分ほどかけて、俺は魔法を完成させた。


「よし、できた。悪臭と汚れを防止する魔法だ」

「ルカ、早くかけてくれ」

「私もお願いするわ」

「お願いしますー。くさいですー」


 俺はさっそく全員に魔法をかけた。


「あー助かったぜ……あの臭いは無理だ」

「ああ、あれは俺も耐えられない臭いだった」

「そうね、ちょっと鼻がとれるかと思ったわ。ルカ、ありがとう」

「吐きそうになりました。ルカさん魔法ありがとうございます!」


 こうして臭いがカットされたところで俺たちは再び三十五階目指して移動を開始した。

 出来ればあまり戦いたくはないが、この階層には冒険者がいない。

 まったくいない。ということは敵はたっぷりいるのだ。

 トイフェルアイのいた階層もそうだったが、やはりくさいところはみんな苦手なようだ。


 そうして初めての戦闘となった。

 ゾンビは動きは遅く、攻撃は噛みつきや引っ掻きなどだが、グールはそれなりに早く、腕力もあるようだ。

 とはいえ、どちらも素手である。


 ただ、ミハエルが物凄く嫌そうに戦ってる理由は、ゾンビもグールも吐くのだ。

 そのうえ、それを飛ばしてくる。

 ゾンビはただただ嘔吐してそれをかけてこようとするだけだが、グールのは酸も含まれる。

 どちらにしろ酸があろうがなかろうが、ゲロである。


 見た目もグロいうえに、ゲロを吐きかけてくるという精神攻撃、そして魔法で遮断しているが強烈な腐臭。

 この階を通過した冒険者は本当にすごいとしか言いようがない。


 できるだけモンスターのいない所を選んで通ってはいるが、如何せん人がいないのでモンスターが豊富なのだ。

 ただ、意外だったのが、グールが落としたレアと思わしきドロップ品だ。

 そもそも不死者が落とすアイテムとしてはなんだかなと思えるものだが、買うと大銀貨一枚はする高級回復薬がドロップすることだろう。


 さすがにこれが初めて出たときは全員で微妙な顔になったものだ。

 ただ、これに関してはいつか何かに使う可能性もあるので売らずにとっておくことに決まった。


 この高級回復薬は部位欠損などは治せないが、そこそこ深い傷でも治療が可能なのだ。

 即座に傷口が治る即効性はないが、傷口にかければすぐに止血はされ、傷口は徐々に塞がっていく。

 即効性があるものは、薬草や回復ポットが出るダンジョンに行かないと手に入らないし、かなり深い階層でないと出ないらしいけども。


 ミハエルが目に見えて消極的な戦闘になっているのと、ここは人目がないというのもあって、俺とエルナで魔法乱射することになった。

 まぁ乱射といっても片っ端からファイアボールを撃ち込むだけである。


 ゾンビもグールも炎に極端に弱かったので出来る作戦だ。

 ミハエルとフィーネは俺たちの後ろで休憩である。

 もちろん二人ともいざという時はいつでもすぐに攻撃できるように警戒はしているが。


 こうしてボンボンとグールとゾンビを燃やしながら先へと進む。

 極端に炎に弱いとはいえ、即死するわけではないので多少のタイムロスはあったが、無事俺たちは次の階への階段へと辿り着いた。

 とはいえ、きっと次も不死者ゾーンだろうけども。



 三十五階へと下りた俺たちは転移柱に触れた。

 ミニマップには見事に緑の光点はない。

 ようするにここはグールとゾンビのいる階層ということだ。


「まだ昼の三時だが、稼ぎとしてはもう問題ない額だと思う。四十階に行くには時間が足りないし、今日は一旦帰らないか?」

「おう、帰ろうぜ」

「ええ、そうね。帰りましょう」

「賛成です」


 満場一致で帰るという意見になった。

 明日はここからスタートだが、今日はもうここで狩りをして稼ぐというのはごめんなのだ。

 稼ぎに関しても、稼ぐ目的で狩りをしてはいなくても、冒険者が少なくてモンスターと存分に戦ったので、かなりのドロップがあるのだ。


 グールとゾンビゾーンからは銀鉱石だけでなく金鉱石も出始めたし、小さな魔石もそこそこ出たのだ。

 なので、大体一人頭、大銀貨三枚くらいにはなるだろう。


 こうして俺たちは腐敗臭漂う階層から抜け出し、地上へと戻った。


 明日も腐敗臭漂う階層を進まなくてはならないが、稼ぐための狩りをするわけでなくただの通過なので問題はない。

 できれば、グールとゾンビがいる階層は三十五階までであってほしいものだ。


 そんなことを思いながら俺たちはダンジョンを出ていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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