69 フィーネたちのCランク試験の説明と準備
エルナがEランクになってから数日が経った。
今日はフィーネとエルナがCランク試験の説明を聞く日だ。
結局コボルト狩りをしてEランクになった翌日を休みとしてからはずっとダンジョンで狩りだった。
すぐにDランクへと上がり、Cランク試験までは少し時間がかかったが昨日Cランクへ上がる試験を受けれるようになったのだ。
正直エルナにはスピードランクアップで可哀そうなことをしたとは思っている。
でも、今日やっと試験の説明を受けれるということでフィーネもエルナもとても喜んでいた。
当然のように俺たちも一緒にフィーネたちについてきてギルドマスターが来るのを待っている。
扉が開いて入ってきたギルドマスターは当然のように俺たちがいることを何も気にすることなく席についた。
「お前らまだパーティ組んでねぇのについてくんだろ?」
「よくお分かりですね、ギルドマスター」
「わからいでか」
呆れたようにそう言うギルドマスターに俺もミハエルも苦笑を浮かべた。
「まぁいい。さて、嬢ちゃんたちにCランク試験について話すぞ」
今回フィーネたちが受けるCランク試験はここから片道二週間の距離にある、黒い森と呼ばれる森に生息する、フォレストウルフ三十匹の討伐と皮の採集だった。
黒い森と呼ばれる理由は、その森に生えている木が他のところの木と違って、黒っぽい緑の葉をつけるからだ。
黒い葉をつける木が密集して生えている森なので、黒い森と呼ばれている。
そして、そんな黒い森に住んでいるのが森狼と呼ばれるフォレストウルフだ。
毛皮の色は濃い緑で、実によく森に馴染む。
そのうえ、狼なのにとても身軽に木に登り、木の上から強襲してくるのだ。
攻撃方法は牙で噛みつくくらいしかないのだが、動きが素早く実に厄介なのである。
単体であればDランクだが、群れているのでCランクとなる。
大体五匹から六匹の集団で行動をしていて、連携して攻撃をしてくるのでいかに素早く数を減らすかが肝要だ。
まぁ今回の試験に利用される依頼もそうだが、毛皮がとても美しく人気があるのだ。
「言っとくが、お前らは手伝い禁止だからな」
ギルドマスターがこちらを見て言ったので俺が答える。
「分かってますよ」
「ただまぁ予想外の時は対応してもかまわん」
「はい」
「よし、それじゃあ、あーお前ら時計この子らにも渡してるよな?」
「ええ、渡してます」
ギルドマスターが言う時計というのは、懐中時計のことだ。
ギルドマスターも昔欲しがったので渡している。
「よし、それじゃ朝の七時三十分に集合でいいな?移動のための馬車はこっちで用意しとく」
「はい、わかりました」
ギルドマスターにフィーネが答え、エルナも頷いている。
「よし、それじゃ今日は解散だ。自分の飯の分は自分で用意しとけよ」
「「はい」」
フィーネたちの返事に頷いたギルドマスターが今度は俺たちを見ていった。
「ああ、そうだ。お前ら今回勝手についてくるんだから御者しろ」
「ええ、俺、御者なんかしたことないですよ」
「俺もないです」
俺もミハエルも御者なんてしたことがない。
「なら魔法作っとけ。馬車操作とかでいいだろ。いいな?」
なんと強引な。とはいえ、確かに勝手についていくのだからそのくらい頑張るべきか。
多分だけど、俺たちが特殊だからできるだけ『他人』を排除したいのだろう。
それに、どちらにしろあれば便利な魔法だ。
「わかりました」
俺がそう言うとギルドマスターは笑顔で俺の頭をクシャクシャと撫でた。
おのれ。
俺は乱れた髪を手櫛でなおす。
「よし、じゃあな」
そう言うとギルドマスターは部屋を出ていった。
俺たちもそれを見送ってから部屋を出た。
ギルドから出た俺たちは明日からの準備をすることにした。
「俺たちがいないという前提で準備をしないとだな」
「ええ、そうね。旅に必要な装備やアイテム、食糧の準備がいるわね。そうね、手分けしましょうか」
「どうするの?お姉ちゃん」
「エルナは食糧の準備とその他必要なアイテムの準備、どっちがいい?」
「必要なアイテムはちょっと自信ないから食糧でいいかな?」
少し眉を下げてそう言うエルナに、フィーネは笑顔で答えた。
「いいわよ。じゃあお姉ちゃんは食糧以外の準備をするわね」
二人の会話を聞いていた俺たちは――
「んじゃ、俺はエルナの護衛するわ」
「じゃあ、俺はフィーネの護衛をするよ」
――と同時に伝えた。
同時発言に俺もミハエルもぐぬっとなってしまったが、フィーネはクスリと笑みを浮かべ、エルナはびっくりした顔で、でも笑顔で返事をした。
「ありがとう、ルカ、ミハエル」
「あっ ありがとうございます!ミハエルさん、ルカさん!」
そうして、俺とフィーネ、ミハエルとエルナでわかれて買い物へと行くことになった。
「ねぇルカ。いい道具屋さん知ってるかしら?」
「マルセルのお父さんの店が俺は一番いい店だと思ってるよ」
「それはどこ?」
「ヴェーバー道具屋って知ってる?」
「ええ、知ってるわ。行ったことはないのだけど、いいお店って聞いたことがあるわ」
「品揃えが豊富だし、ハズレの商品はないし、安くはないけど、それだけいい商品ってことだから、俺はすごくお勧めだよ」
俺が熱心にマルセルの店を紹介すると、フィーネはクスリと笑っていた。
「クスクス。じゃあそこに行きましょう」
「あ、ああ」
ちょっとだけ俺は頬が赤くなってしまう。
友達の店だからつい熱心に力説してしまった。
でも実際本当にいい物ばかり扱っているのでお勧めはお勧めなのだ。
マルセルの店についた俺はフィーネがあれこれ選ぶのを眺めていた。
その時、マルセルの声が聞こえた。
「あ、ルカ!」
その声に振り向く。
「ああ、マルセル。久しぶりだな」
「わー! ルカ! 久しぶりだね! あれ?そっちの子は……」
「ああ、俺たちの新しいパーティメンバーなんだ」
「こんにちは。初めまして。私はフィーネって言うの。よろしくね」
「わ、あ、僕はマルセル! この道具屋の息子なんだ! よろしくね!」
しばらくマルセルと話ながらもフィーネは必要な道具を集めていた。
「こんなものかしらね」
「そうだな」
「じゃあ、私お会計してくるわね」
「ああ」
そう言ってフィーネは会計をしに向かった。
いつもなら僕がやるよ!と真っ先に声をあげて手伝うマルセルが静かなので俺がマルセルを見ると、マルセルと目があった。
「どうかしたか?」
俺の疑問にマルセルが笑って答えた。
「可愛い子だね!」
「む……」
それだけで俺の頬は少し熱を帯びたのがわかる。
「あはは。ごめんね、揶揄って。僕は応援してるよ!」
「ぐぬ」
ずっと弟のように思っていた友達はすでに恋愛に関しては先輩だったことを思い出す。
「おまたせ。あら? どうかしたの?」
「あはは。なんでもないよ!」
「な、なんでもない」
「そう?」
俺は首を傾げているフィーネから目をはずし、そっぽを向きながら言った。
「次行こうか。じゃあな、マルセル」
「うん! またね、ルカ、フィーネちゃん!」
フィーネは俺に首を傾げながらもマルセルに別れを告げている。
「ええ、ありがとう。また利用させてもらうわね」
「うん! ありがとうございました!」
そうして俺たちは次に必要な装備を買いに移動をはじめた。
くっそ、マルセルめ。
一番のお子ちゃまだったのに、誰よりも先に大人になりやがって!
俺は頬の熱が引くのをひたすら待つことになった。
そうして俺がマルセルの恋愛の先輩ぶりに心を乱されていると、フィーネがクスリと笑って言った。
「ふふ。ルカは彼と仲がいいのね」
「あ、ああ。そうだな。ミハエルと同じで、初めて教会学校で会った七歳の時からずっと友達だ。マルセルは泣き虫で臆病だったけど、本当に大事な時は絶対に引かない強さがあるんだ。それに、友達思いで、本当、いいやつだよ」
「素敵なお友達ね」
「ああ」
こうして俺とフィーネは昼まで店を巡って旅に必要な物を揃えた。
昼の鐘が鳴ったら一旦集合する予定なので、集合場所へと向かう。
集合場所へ向かうとすでにエルナとミハエルがいた。
「よう、ルカ、フィーネ」
「ああ、もう買い物は終わったのか?」
「はい。往復分も含めてきちんと用意しました!」
エルナの言葉にミハエルも頷く。
そんなエルナにフィーネは笑顔で言った。
「そう、ありがとう。エルナ、ミハエル」
「それじゃ、昼飯にしようか?」
俺の言葉に、フィーネたちは頷いた。
「そうね」
「そうだな」
「はい!」
今日は酒場ではなく食事のできる店に入ることにした。
酒場の料理は安いが基本酒に合う料理なのだ。
たまにはこうして普通の店で普通の食事をとるのもいい。
俺たちは大衆食堂的な店に入り、料理を頼んで食事を楽しんだ。
食事中の会話でいつのまにか俺の家に遊びに行くという話になってしまい、昼ご飯のあとに俺の実家へ向かうという話になり、でも、大勢で行くのも悪いという話になって、なぜかエルナとミハエルはマルセルに会いに行き、俺とフィーネだけが実家へ向かうということになった。
なぜこうなったのか。
なんかまるで彼女を家に連れていって挨拶させるみたいじゃないか!
いやいや、ただの友達を家に連れていくだけだ。
落ち着け俺。
少しして実家についた俺は謎の緊張感を持ちつつ玄関を開けた。
「た、ただいま」
「あら、ルカ。おかえり、久しぶりね」
「ああ、母さん、久しぶり。顔を出せなくてごめんね」
「いいのよ。あなたが無事であれば、それでいいわ」
ふわりと微笑むマリーに俺も笑い返す。
「あら? そちらの可愛いお嬢さんは?」
俺はその声でハッとした。
久しぶりのマリーとの会話で忘れていた。
「あ、えっと、俺のパーティメンバーのフィーネ」
「初めまして、お母様。ルカのパーティメンバーのフィーネです」
「あらあらあら。ルカも隅に置けないわねぇ」
「ちょ、母さん、やめて」
俺とマリーの会話にフィーネは苦笑している。
母さん、まじで、やめて……超恥ずかしい。
俺が顔を赤くしていると、可愛い声が聞こえた。
「にー」
ハッと声をした方をみると、リリーがいた。
「リリー!」
すかさず俺はリリーを抱き上げた。
ああ、なんて可愛いのだろうか。
「可愛いなー、可愛いなー」
俺がリリーを存分に愛でているとクスクスと笑い声が聞こえてきた。
俺はまたしも、ハッとしてそちらを見ると、フィーネが笑っていた。
「ご、ごめん」
「うふふ、いいの。可愛い妹さんね」
「ああ、本当に可愛いだろ? リリーっていうんだ」
「ふふ。リリーちゃん、初めまして。フィーネって言うのよ」
「いーね」
「ええ、そうよ」
リリーを見て優しく微笑むフィーネに俺はドキリとしてしまう。
「二人とも、座ったら? お茶をいれるわよ」
「あ、ありがと、母さん」
「すみません、ありがとうございます」
「いいのよ。ゆっくりしていってね」
母さんに促されて俺は席についた。
遅れてフィーネも腰をかける。
当然俺はリリーを抱いたままだが。
「いーね」
「ん? どうした?」
俺の声に、リリーはフィーネに向けて手を伸ばした。
「だっこ」
どうやらフィーネに抱っこをせがんでいるようだ。
チラリと見るとフィーネは笑みを浮かべて頷いたので、俺はリリーを渡した。
リリーはフィーネに抱っこされるとぎゅっとしがみついた。
ちょっとジェラシー。
フィーネはリリーを抱いたまま椅子の上で左右にゆらゆらと体を揺らし、子守歌だろうか、聞いたことのない歌を歌い始めた。
それは優しくて暖かい歌だった。
子供を想い作ったような、そんな歌。
フィーネにしがみついていたリリーはいつのまにか眠りについていた。
マリーがそれを見て小声で話した。
「あら、寝ちゃったのね。ありがとう、フィーネちゃん。寝かしてくるわ」
「はい」
フィーネはマリーにリリーを渡し、マリーはリリーを抱き上げて寝かしつけにいった。
俺はさっきの歌について聞いてみることにした。
「さっきの歌はフィーネの家の子守歌?」
「ええ、エルナが生まれた時、母がよく歌っていたの。私も母と一緒によくエルナに歌ってあげたのよ」
エルナは懐かしそうな目をして話した。
「そうか」
そんな話をしているとマリーが戻ってきた。
「ルカ、そういえば今日はどうしたの? 彼女を紹介しにきてくれたの?」
「ちっ違うよ! みんなで昼飯食べてるときに、うちの話になって、でも大勢で押し掛けるのはーってなって、ミハエルとエルナはマルセルのとこいって、フィーネがうちに遊びにきたんだよ」
「あら、そうなの。ママちょっと残念」
「母さん!」
フィーネは俺たちのやり取りにクスクスと笑っている。
まじで、やめてぇ。
「うふふ。仲がいいのね。楽しいわ」
「そうでしょう? ルカはね、とってもいい子なのよ。ちょっと弟と妹にメロメロだけど、家族をとっても大事にしてくれるいい息子なの。フィーネちゃんのお家はどんな感じ?」
何気ない質問だけど、俺は少し慌てた。
フィーネの家はもうエルナ以外家族がいないのだ。
だけど、フィーネは懐かしむように思い出しながら笑みを浮かべた。
「私の家族も、とても優しくて、暖かい家庭でした。父は私たちに甘くて、母は怒ると怖いのですが、普段はすごく優しかったです。兄もいつも私と妹に優しくて……本当に、大好きな家族でした」
フィーネの言葉に何か感づいたのか、マリーはとても優しい笑みを浮かべている。
「そう、フィーネちゃんのご家族はとっても素敵なご家族だったのね」
「はい。愛しくて大切な家族でした」
「ねぇルカ、フィーネちゃん。今日は夜は予定はあるの?」
「いや、ないけど、なんで?」
「晩御飯を食べていきなさいな」
「え? いや、俺はいいけど、フィーネは……」
「私は大丈夫よ、ルカ。ぜひご一緒させてください」
「まぁ良かったわ! ルカも何か作ってね」
「母さんそれが目的か」
とは言ったものの、きっと俺の秘密を話しているかどうかわからないから俺にメイン料理を頼んだのだろう。
「うふふ。ルカのご飯おいしいのよ? 楽しみにしててねフィーネちゃん」
「はい、楽しみにしてます」
そう言ってフィーネは俺を見て微笑んだ。
ぐぬっ そんな顔されたらがんばるしかないじゃないか……。
しかしそうなると何を作るべきか。
「母さんは何を作るの?」
「ママは付け合わせのサラダとスープを作るわ」
「ちょ、それ俺のがメインってことじゃないか」
「そうよー、楽しみにしてるわね、ルカ」
まさかの俺がメインを作るのか。
まじでどうするか。
こうして俺は頭を悩ませつつも、買い物に行って、ミハエルたちに夜ご飯についての報告をしたりして、ミハエルにニヤつかれつつ、ぐぬぬとなりながらも、フィーネに手料理を振る舞った。
ウードは相変わらず怖い顔だったが、フィーネはサラリと普通に接していた。
カールは相変わらず天使で天然イケメンを発揮してるし、リリーとまとめて抱きしめたら嫌がられ、俺の心はハートブレイク状態だ。
そんな俺たちをみて、フィーネはずっと笑顔だった。
「じゃあ、今日は帰るよ。カール、リリー、またな」
「お世話になりました。ありがとうございました」
俺とフィーネは家を出るとギーレンの宿屋へ向けて歩いた。
「ルカ、今日はありがとう。あんなにおいしい料理はじめてだったわ。それにとっても楽しかった」
「そうか? それならよかった。まさか俺が飯を作ることになるとは思わなかったが」
そう言って俺は少し苦笑する。
「ふふ。でもあの料理、エルナにも食べさせてあげたかったわ。本当においしかったもの」
「あー、うん。今回の旅の間、野宿の時あれに使った調味料だすよ」
「まぁ、本当? それはとっても楽しみね」
嬉しそうに微笑むフィーネに、俺は少し嬉しくなる。
そうして俺たちはその日を終えた。
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