65 地下二十七階
今年もお疲れ様でした。よいお年を!
二十七階への階段を下りた俺はすぐ近くにセーフゾーンがあるのを確認した。
そこへの道中まで敵がいないルートがあったので、俺はそのままセーフゾーンを目指して移動を始めた。
セーフゾーンの近くまで来たところでミハエルとフィーネに声をかける。
「ミハエル、フィーネ。すぐそこにセーフゾーンがあるから少し休憩しないか?」
「そうね。少し、休みたいわ」
「そうだな」
俺たちはセーフゾーンへと入り、各々壁際に座り込んだ。
そうして座り込むこと数分。
「……遅かれ早かれとはいえ、まだしなくてもいい殺人をさせてすまない」
俺の絞り出すような声に、ミハエルもフィーネも首を振った。
「別にルカの決断でやったわけじゃねぇよ。もしルカがあの時殺さないって言ってたら、俺は一人であいつらを殺しに向かってた」
「ええ、そうね。ルカの決断じゃないわ。私の決断よ。それに彼らは自業自得よ。殺意をもった時点で相手に殺される覚悟をしなくてはならないわ」
「そう、か……。でも、なんだか皮肉な話だな」
俺の言葉にミハエルもフィーネも首を傾げた。
「あの階層はさ、フィーネを救った階でもあるんだ。人の命を救った場所で、人の命を奪った」
「そうね……」
俺たちは暫く黙ってセーフゾーンで時間を過ごした。
人を殺してしまったという罪悪感はもちろんある。
相手が俺たちを殺そうとしていたとしても、どんな相手だとしても、こんな風に罪悪感を抱かないことはきっとないだろう。
だけど、後悔はしていない。
どんな言葉を紡いでも、人を殺したという事実は覆せない。
それでも、俺は後悔はしないし、間違いだったとは思わない。
フィーネが言った通り、殺意を持った時点で殺される覚悟はしなければならないのだ。
まして彼らは己の手を汚さずに殺しを行おうとした。
いや、実際行ってきたのだろう。
危険を冒さず、モンスターに任せ、己は安全な場所から見ているだけ。
そんな彼らは今日、狙った獲物に反撃されて死んだのだ。
そうしてセーフゾーンで過ごすこと一時間、俺はみんなに声をかけた。
「付き合わせてごめん。もう大丈夫だから、狩りを再開しようか」
「ええ、私も、もう大丈夫。行きましょう」
「おう、バリバリ狩って金稼がねぇとなー。宿代がなくなるぜ」
「そうだな。最近狩りしてなかったからな」
「そうね、私も引っ越しのお金稼がないといけないわ。ルカが心配しちゃうしね」
そう言ってクスリと笑うフィーネに俺は何も返せずにそっぽを向くしかできなかった。
ミハエルがなんだかニヤニヤ笑っている気がしなくともないが、明るい話題に切り替えてくれた二人に俺は感謝した。
そうしてセーフゾーンを出た俺たちは狩りをするために移動をはじめた。
ここ、二十七階から敵が変わり、出てくるのはリザードマンと、クラインデビルというモンスターだ。
以前依頼書できたので散々相手をしたモンスターたちである。
とはいえ、あれからそれなりに時間が経ったので改めて観察してみる。
リザードマンは俺が前世のゲームや小説などで見たことのあるトカゲの人型で、緑色の肌と鱗を纏い、太く立派な尻尾、そしてカットラスだろう湾曲した刃を持つ剣と盾を装備している。
指は三本しかないようだが、武器を持つのに支障はないようだ。
そんなリザードマンが二体、そして、小さい悪魔という意味のクラインデビルが一体。
クラインデビルの体長は三十センチくらいで、背中には小さなコウモリのような翼が生えていて、全身は灰色をしており、髪はなく、耳はピンと尖っていて、腹はぽっこりと出ているが全体的に細い。
そして、目は大きく、鼻は小さい。
そんなクラインデビルは麻痺効果のある雷魔法を多用してくる。
ただ発動速度が速くないのと、予備動作が分かるので、発動する前に素早く攻撃すれば発動を阻害できる。
骨が硬く丈夫なようで、頭部をフィーネが矢で狙っても刺さりはしても脳まではいかないらしい。
なのでフィーネは必ずクラインデビルの大きな目を狙って攻撃をしている。
それでも確実に殺せるのは五割ほどなので、そうやってフィーネが攻撃して魔法の発動を阻止している間に俺がアースバレットでとどめをさしている。
以前のようにウインドバレットでもいいが、高速で風が回転しているため、貫通したあと血肉を巻き込んだままなので、結構飛び散るのだ。
そのため、ミハエルにかからないように調整しなくてはいけなくて地味に面倒だった。
その点、アースバレットなら回転はしていても風と違ってさほど飛び散りはしないので楽なのである。
リザードマンはカットラスと立派な尻尾での攻撃をしてくる。
あの尻尾攻撃は普通に当たれば骨折くらいはしそうである。
しそうではあるが、リザードマンの尻尾はすでにミハエルによって切断され、トカゲの尻尾のように切られた尻尾がビチビチと動いている。
そうこうしているうちにあっさりとリザードマンは倒された。
剣についた血を振り払いながら、ミハエルは地面に落ちているリザードマンの皮を拾った。
リザードマンの皮は硬い鱗つきなので、防具などによく使われている。
なので、皮一枚で大銅貨五枚という値段がついているのでそこそこおいしい。
とはいえ、以前の依頼では中々でなくて大変だった思い出がある。
それでも、この階層で一番おいしいのはクラインデビルから出る中くらいの宝石だろう。
これは種類によるが大体、銀貨一枚からの値段になるので一番おいしい。
やはり宝石というものはどこの世界でも、人を虜にする魅力があるのだろう。
……まぁ、アクアマリンが出たときは、フィーネに似合いそうだなとか考えてしまったが。
「どうしたの?ルカ」
俺がいつまでも立ち止まっているとフィーネが不思議そうに声をかけてきた。
俺は慌てて首を振り歩き始めた。
「いや、なんでもないんだ。行こうか」
そうして俺たちは二十九階へとやってきていた。
二十七階からは冒険者パーティの数は減っていたので、俺たちは狩りをしながら階下へ向かっている。
おかげでかなりのドロップ品が集まっている。
大雑把に計算しても大銀貨三枚と銀貨七枚くらいはある。
まだ時間は昼の二時なので稼ぎはもっと増えそうである。
フィーネがいることで殲滅速度が上がっているのがかなり大きい。
そうしてチラリとマップを確認すると、黄色く光る光点があった。
「お、宝箱があるぞ」
「お? まじで?」
「ああ、トイフェルアイがいた階以来か」
「ああ……あの目玉……」
ミハエルが物凄く嫌な顔をしている。
まぁ、あのくっさい液を全身に何度も浴びたのだから嫌な思い出でしかないだろう。
「私は初めてね。本当に宝箱なんてあるのね。少し楽しみだわ」
「ああ、向かおうか」
そうして俺たちは宝箱へ向けて移動を開始した。
宝箱への道には十パーティほどの敵がいたが、問題なく俺たちは倒して進むことができた。
「そこを右に曲がった先にあるな」
「あいよ」
道を曲がった先に、ぽつんと宝箱が置いてあった。
宝箱を鑑定にかけてみたが特に罠はないようだ。
「罠はないみたいだ。フィーネ、開けてみる?」
「いいのかしら?」
「ああ、かまわないよ」
少し楽しそうに微笑んだフィーネが宝箱を開けた。
「あら、防具かしら?」
箱の中に入っていたのは金属と皮で出来たブーツだった。
ベースは皮で出来ていて、前の全面と、踵部分が鉄で覆われている。
その鉄を横側でベルトで止めている感じだ。
ちょっとカッコイイ。
俺はブーツに鑑定をかけてみた。
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鋼のブーツ
状態:良
詳細:ダンジョンから産出された良質なブーツで銀貨八枚の価値がある
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鋼のブーツか。
特に何か特別な効果がついているわけではないようだ。
宝箱から出るにしてはちょっとハズレかもしれない。
そういえばミハエルのブーツは皮のままだけど、どうだろうか。
そこそこ重いから微妙かもしれないが。
「ミハエル、これ、ミハエルが装備するか?」
「ん? 俺はこのままでいいぜ? それ重いだろうし」
「そうね、少し重いかもしれないわね。ミハエルの戦闘スタイルからするとあまりいいとは言えないわ」
「やっぱりそうか。じゃあ売る方向でいいか?」
「おう、それでいいぞ」
「そうね、私もルカも重いブーツは枷になるし、いいと思うわ」
こうして鋼のブーツは売ることに決まった。
「じゃ、三十階に向かおうか」
俺たちは三十階へ向けて移動をはじめた。
とはいえ、真っ直ぐに向かうわけではなく、うろうろとしながらなので三十階についた時には三時過ぎになっていた。
三十階にある転移柱に俺とミハエルは手を触れて記録をした。
「よし、これでいいな」
「ああ。あ、そういえばフィーネ。三十階の敵は何か知ってるか?」
「ごめんなさい、戦わずに戻ってから、三十階には来てなくて知らないの」
「そうか。いや、問題はないよ。でもどうするかな。まだ時間はあるし少しだけやってくか?」
「そうだな。下に行くのは我慢するとして、ちょっと様子見しようぜ」
「よし、じゃあ少しだけ狩っていくか」
そうして俺たちは少し休憩したあと、三十階の敵の把握と狩りをする為に移動を開始した。
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