60 フィーネの話し
50話の一部表記の変更をしました。58話のアラートの範囲について変更しました。
二人に俺の秘密を話し終えたあと、場所をうつしてから、フィーネが今度は自分の秘密を話しだした。
「ルカの秘密だけ聞いて、私は黙ってるっていうのは嫌なの。聞いてもらえる?」
「無理に話さなくても別にいいぞ?」
「ううん、聞いて欲しいの。そうね、ずっと誰かに聞いて欲しかったのかもしれないわ」
「そうか」
「私ね、本当は貴族なの――」
そうしてフィーネは自分の生い立ちを話し始めた。
フィーネが十歳のころ、両親が他国へ赴いている時の道中で強力なモンスターに襲われてしまい、両親はもちろん、護衛もその時に亡くなった。
そして、当時十五歳だった兄が跡を継いで当主となった。
兄はとても優秀だった。
準男爵家の当主としても、研究者としても大変優秀で、そしてとても優しい兄だった。
いつも、民の為になることをするのが貴族として正しい姿だと言っていた。
両親を亡くしたフィーネとエルナにとってもそんな兄は親代わりで、そしてとても尊敬していた。
フィーネが十二歳の年を迎えるころ、兄はずっと研究していた紙について素晴らしい発見をした。
兄は商業ギルドにその研究の成果を全て渡した。
この世界がさらに発展してくれることを祈って。
だけど、その兄の行為は高級紙を独占している商人と、その後ろにいる大きな貴族にとってはとても許せる行為ではなかった。
それも今となれば理解のできることで、兄だってきっと気づいてはいたのだろう。
だけど、兄は優しすぎた。
そして、兄とてまだ十七歳の子供だったのだ。
同じ貴族がそんなことをするなんて思いもしなかったのだろう。
嫌がらせはされるかもと思っていたようだが、まさか暗殺をされるなんて。
気付いた時にはすでに遅く、もう時間の問題だった。
兄は物凄く後悔をした。
だって、自分だけじゃない、妹たちまで危険に晒されたのだから。
そこから兄はすべてを捨てて、私たちを生かす道を探した。
あらゆる工作をして、私たちを、貴族としての私たちを殺した。
そして、涙ながらに私たちを抱きしめ、すまない、すまないと繰り返した。
私たちが家を出て身を隠すこと一週間、兄が行方をくらませたと風の噂で聞いた。
その日、私たちは抱き合い泣きじゃくった。
兄からもらったお金もいずれ尽きる。
いつまでも泣いていられない。
だけど私にできることなんて何もない、貴族の娘として育ったのだから。
それに目立つわけにもいかない。
だから私は冒険者になったの。
だって、普通の仕事じゃ魔封じの腕輪を買えないから。
十三歳になってすぐ冒険者になったわ。
幸い、私は弓と出会えて、冒険者として成功できた。
「――そして今こうして、あなたにエルナを救ってもらえたのよ」
「そう、か……」
「ごめんなさい。重い話よね」
「いや、いいんだ」
しかし俺としては驚いた。
かつて俺が紙の普及に貢献した人を聖人だな、なんて思っていたが、それがまさかフィーネのお兄さんだったとは。
他人事だったから、そこまでなんとも思わなかった。
だけど今は、少し辛い。
フィーネはエルナが治ったら貴族にまた戻りたいのだろうか。
「なぁ、フィーネ。一つ聞いてもいいか?」
「なにかしら?」
「フィーネは、貴族の家を復興させたいのか? また貴族として生きたいのか?」
俺の質問にフィーネは苦笑を浮かべた。
「いいえ、貴族なんて面倒なだけよ。私はただのフィーネ。貴族である、フィーネ・フォン・アルネムは死んだの。兄と共に」
「そうか」
「ええ、そうよ」
フィーネを鑑定すると、今も称号は準男爵のままだ。
それでも、フィーネが貴族を捨てたというのなら、俺はもうその称号を気にしないようにしよう。
彼女は俺たちと同じ、ただの冒険者だ。
暫くして、エルナの様子を見にいき、もう彼女の魔力が全て箱に収まっているのを確認した。
恐る恐るではあったが、フィーネとエルナは、エルナについていた壊れていた魔封じの腕輪や、壊れかけの魔封じの腕輪を一つずつはずしていった。
全ての魔封じの腕輪をはずしても、火花が散ることもなければ、爆発することもなく、二人は抱き合い涙を流した。
そんな二人の様子を確認した俺は、彼女たちに声をかけて家をでることにした。
だけど、家を出る前にエルナに呼び止められた。
「ルカさん! お願いがあるんです!」
「ん?」
「あの、魔法を教えていただけませんか? その、ずっと私、姉に苦労をかけてきて、何もできなくて……」
悔しそうにそう告げるエルナに、俺は少し考えてから頷いた。
「ああ、いいよ。ただ、俺はパーティを組んでるから、ミハエル、仲間に相談してからになるけど、いいか?」
「はいです! ありがとうございます!」
「ありがとう……ルカ」
泣きそうな笑顔で俺にお礼を言うフィーネに、俺は笑みを浮かべて言った。
「いいんだ。同じ冒険者仲間だろ」
そうして俺は、フィーネたちの家を出てミハエルを探すことになった。
まずはフィーネたちのことをミハエルに話さなくてはならない。
俺は、ミハエルがいそうなところ、マルセルのお父さんが経営する道具屋へ向かうことにした。
そこにいなければきっと訓練場にいるだろう。
西の通りの真ん中にある道具屋ヴェーバー。
ここがマルセルの親父さんがやっている道具屋だ。
品ぞろえが豊富で、品質もいい。
「こんにちは、おじさん」
「おお、ルカ君か! おかえり!」
「ただいまです。あの、ミハエル来ましたか?」
「うん、今は娘がミハエル君を連れていっててね。多分あと四刻もすれば帰ってくるとは思うよ」
「そうですか」
「中で待ってるかい?」
「かまいませんか?」
「いいよー。中で待ってなさい」
「ありがとうございます」
俺はマルセルのお父さんに案内されて、店の奥へと入っていった。
しばらくしたらマルセルが配達から帰ったらしく、久しぶりに会話を楽しんだ。
マルセルは最近お付き合いを始めた子がいるらしく、なんともデレデレとしていた。
まさかあの奥手なマルセルに一番最初に恋人ができるとは思わなかったが、俺は心底嬉しくて祝福した。
そうしてマルセルと話ているとあっという間に二時間が経っていて、ミハエルが帰ってきたらしい。
おじさんが呼びにきてくれたので、俺はマルセルに別れを告げてミハエルのもとへ向かった。
ミハエルは若干驚いていたが、何か用事があるのだろうとすぐに察してくれ、二人でいつもの酒場へと向かうことになった。
「休み中なのに、悪いな、ミハエル」
「いや、かまわねぇさ。特にすることがあるわけじゃねぇしな」
「そうか。でもまたなんでマルセルの妹さんと出かけてたんだよ?」
「あー……まぁ、あれだ。実はCランク試験に行く前にな、告白されてな……」
「えっ」
「勘違いすんなよ。俺は断ったんだよ。でもまぁ、今日手伝いに行ったら、一度だけデートしてほしいって言われて、泣くもんだからよ……」
「そっか」
なんで付き合わないのか?なんてことは聞けるわけがない。
俺だって、普通の子とは付き合うなんて無理だ。
冒険者ってのは常に死と隣り合わせだし、今はまだ鉱山ダンジョンに挑んでるからこの街にいるが、いつかは別のところへも行くのだ。
そりゃ、この街で完結すれば付き合うのだって可能だけど、俺たちはここで止まらない。
俺たちは冒険者なのだから。
酒場についた俺たちは適当に注文をした。
「んで、今日はどうしたんだよ?」
「実は――」
ミハエルの質問に、俺は今日のフィーネたちとの出来事を話した。
「なるほどな。いいんじゃねぇか? つか、思ったんだけどよ、いっそフィーネたちとパーティ組めばよくねぇか?」
「え?」
「フィーネも妹もいいパッシブあるみたいだしよ。それに、あのSランクモンスターとやって思ったんだよ。俺も当然もっと強くはなる、なるけどよ……」
「そうだな、いつか二人では限界がくる、か」
「そういうことだ。悔しいけどな」
「うん、分かった。明日にでも二人を誘おう。ミハエルも一緒に来てくれ」
「おう、分かった」
こうして俺たちは二人をパーティにいれたあとどうするかを大雑把に話し合った。
二人がパーティに入ってくれるかは分からないけれど。
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