57 ギリギリだった
二話更新しました。56もあるのでご注意ください
シュタルクドラッヘとの戦闘が始まった。
「坊主! 左からいけ! 俺は右からいく!」
「おう!」
ミハエルとギルドマスターは左右からシュタルクドラッヘへと攻撃をしはじめた。
俺はひたすら隙を伺うことになる。
現状は二人で攻撃しているというのに、シュタルクドラッヘは簡単に攻撃をさばいている。
しかも、俺が少し動くとこちらに視線を一瞬飛ばすのだ。
多分だが、ミハエルは今はBランク相当、ギルドマスターはAランク相当のはずだ。
Sランクというのはここまでのものか。
現状をしっかり把握しているギルドマスターは攻撃をしつつも叫ぶ。
「こいつぁやべぇな! そっちの坊主から意識が逸れねぇ!」
俺から意識が逸れないとしても、攻撃をし続けるしかない。
そうして二人して攻撃を繰り返すこと十分ほどが経った。
段々とミハエルも、Sランク相手とはいえ動きが慣れはじめたのか、動きがよくなり、ギルドマスターも身体強化をかけられた自身の体に慣れたのか動きに鋭さが増してきた。
そうなるとさすがのSランクモンスターでも厳しくなってくるようだ。
俺が動いてもこちらに視線を送ってこなくなってきた。
なので俺はじわじわと岩の裏へと移動をする。
こちらへ意識を向けさせないように、ゆっくりと。
しばらくしてやっと俺は岩の裏に完全に姿を隠すことができた。
多分気配で分かるとは思うが、それでも少しでも攻撃を当てる可能性を上げるために、俺は光学迷彩をかけて息を殺す。
シュタルクドラッヘとミハエルとギルドマスターは立ち位置をグルグルと変えながらひたすらに切り結んでいる。
シュタルクドラッヘは素手だが、鱗が鋼のように硬いらしく、剣とぶつかり合うたびに火花が散っている。
だからだろう、これだけ切り結んでもシュタルクドラッヘには傷一つついていない。
俺が岩の裏に隠れて十分ほどが経った。
先ほどまでは俺のいる方へ背中を決して見せていなかったシュタルクドラッヘだったが、段々と背中を向けることが増えてきた。
あと少し、あと少しだ。
ミハエルたちだってそう体力が続くわけじゃない。
急がねばならない。
だが失敗も許されない。
そして完全にシュタルクドラッヘの意識が俺から逸れた。
もうずっと背中をこちらに向けている。
あとはミハエルとギルドマスターがそれに気づいて強攻撃を仕掛けてくれればいける。
通話魔法をかけておかなかったことを今更後悔するが、それでも二人を信頼して俺は時を待つ。
そして、遂にその時がきた。
ギルドマスターがまず気合いの声を発しながら、シュタルクドラッヘへと仕掛けた。
「おらぁ!!」
それと同時にミハエルも仕掛けた。
俺はそれを見た瞬間、ここしかないと思い、同時に四発の氷結槍を撃ち、そのすぐあとにさらに二発を追加で撃ちだした。
左右上下からの同時攻撃のあと、わずかに遅れて二発が当たるはずだ。
俺が魔法を放った途端、シュタルクドラッヘが反応しようとしたが、ミハエルとギルドマスターの強攻撃を受けてる最中で完全には対応できなかったようで、右と上からきている氷結槍は躱したが、左と下からのは避けきれずに、見事命中した。
左腕と左足に当たった氷結槍はすぐさまにシュタルクドラッヘを凍らせていく。
だが相手もすごいもので、すぐさまに自身で左腕と左足を切り落とし、距離をとろうとした。
だけど、俺はそこも考えていた、だからこその二発。
距離をとろうとしたシュタルクドラッヘの背中に俺の撃った時間差の氷結槍がぶち当たった。
シュタルクドラッヘは驚愕したような顔でこちらを振り向き、光学迷彩で姿を消しているはずの俺へと射抜くような視線を向け、そのまま氷漬けとなった。
それでも俺たちは数十秒の間、臨戦態勢を崩さずに息を詰めて氷漬けのシュタルクドラッヘを見ていた。
いや、俺とミハエルはただ緊張を解けなかっただけだろう。
「死んだ、な?」
ギルドマスターのその声でようやく俺とミハエルは大きく息をつくことができた。
「頑張ったな、坊主ども。俺が警戒してるからおまえらは少し休憩しろ」
そのギルドマスターの声を聞いた瞬間、ミハエルは仰向けに倒れ込み大きく息をついている。
俺も緊張から解放されその場にへたり込んだ。
「終わった、のか……」
俺のつぶやきを聞いたギルドマスターが声をかけてきた。
「そこにいるのか、坊主。お前姿も消せるのか」
ギルドマスターの言葉にまだ光学迷彩を消していないことに気づき解除した。
「ほお、すごいもんだな」
しかし困った。
いまさら隠すこともできないし、しかも冒険者ギルドのマスターだ。
俺が言葉を発せずにいると、ギルドマスターはそれに気づいたようだ。
「安心しろ、俺は冒険者を国に売ったりはせん」
「そう、ですか……」
俺はほっとした。
「だが、全員が俺のような人間じゃないからな。お前のその魔法は人に見られないようにしろよ」
「はい、気を付けます」
そんな俺を見ていたギルドマスターは苦笑して言った。
「だが坊主はきっと誰かが危険に陥っていたら助けるために魔法を使うだろうな」
そんなギルドマスターの言葉に続いて、倒れ込んでいたミハエルも――
「そうっすよ、ルカはそういうヤツです。そんなヤツだから俺は信頼してるんです。だから、俺が護ります」
そう言った。
俺はそんなミハエルの言葉に少し照れる。
でも俺は守られるばかりなのは嫌だから、もっと強くならないと。
そんな風に考えていると、ギルドマスターの言葉に首を傾げることになった。
「そうか。なら俺は坊主どもを護ってやるよ」
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