52 訳ありのようだ
フィーネと共に俺たちは、二十五階の転移柱にまでたどりついた。
時刻はまだ昼の二時過ぎだ。
もう少しかかるかと思ったが、俺たちの通った通路にはあまりモンスターはリポップしていなかったようで数が少なかった。
道中敵も少なく後衛同士ということでフィーネと会話する機会があったのだが、彼女は今年十五歳らしく、俺たちより二歳年上だった。
十三歳から冒険者として活動しているそうだ。
最初は得物は剣だったそうだが、たまたま弓を使ったところ、自分でも驚くほど弓を上手く扱えたそうで、そこからはずっと弓使いとして冒険者をしているらしい。
その話しを聞いて、もしかして、と思って気になった俺は、フィーネを鑑定してみた。
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フィーネ・フォン・アルネム(15)
人間:女性
称号:準男爵 当主
状態:健康(特になし)
パッシブ魔法-
弓術操作・大
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ちょっと鑑定したのを後悔した。
いや、確かにパッシブはすごいのがついてたけど、フォンって、準男爵って。
しかも当主って。
確かになんか冒険者にしては言葉遣いが綺麗だとは思ったけど……。
確実に訳ありですよね。
貴族でこの若さで当主で、そして冒険者してるんだもの。
しかも成人してすぐの十三歳から。
当然俺は貴族にはできるだけ関わりたくないのでフィーネの鑑定結果は見なかったことにした。
「送ってくれてありがとう。ルカ、ミハエル」
「ああ」
「おう」
「あなたたちはこれからまた三十階目指すの?」
フィーネの言葉に俺とミハエルは目を合わせる。
ミハエルもきっと同じ考えだろう。
「いや、今日はもう行かないな」
「そーだな」
「そう。ねぇ、それなら夜ご飯私に奢らせてくれないかしら?」
「え?」
「私の気が済まないから、お礼をさせて欲しいの。ダメかしら?」
実は彼女にお礼としてお金を支払うと言われたのだが、俺たちはその申し出を断ったのだ。
金目的で助けたわけでもないし、あまり冒険者仲間とそういう金銭のやり取りはしたくなかったというのもある。
そもそも、俺たちが助けたくて勝手にしたことだ。
これについてはミハエルも同意していた。
とはいえ、彼女も借りを作ったままは嫌なのだろう。
チラリとミハエルと目を合わせるとミハエルは頷いた。
「分かった。じゃあ奢ってもらうとするよ」
そうして俺たちは夕食の約束を交わした。
待ち合わせの時間は夜の鐘が鳴る頃なので、大体六時くらいだろう。
場所は俺たちが昨日行った酒場だ。
「じゃあ、またあとでね」
フィーネはそう言うと手を振って街の雑踏に紛れていった。
「さて、ミハエルはどうする?」
「あー、ちょっとマルセルんとこ行ってくるわ」
「そっか、じゃあ俺はちょっと家に帰るから、マルセルによろしく言っといてくれ」
「ああ」
若干ミハエルの様子が気になったが、まぁ何かあれば教えてくれるだろう。
俺とミハエルはその場で別れ、俺は久しぶりというほどでもないが、二日ぶりとなる。
カールとリリーはどうしているだろうか。
お兄ちゃんのこと忘れていないだろうか。え、忘れてるとか、ないよな?
自分で考えておいて俺は急に不安になってきた。
カールはきっと覚えててくれるだろうけど、リリーはまだ二歳なのだ。
ああ、忘れられてたらどうしよう!
いやでも、リリーは賢くて可愛くて天使だからきっと覚えてるはず。
俺は若干不安な気持ちを抑えながらも足早に実家へと急いだ。
「ただいま!お兄ちゃんですよ!」
実家の扉を開けるや否や、俺は声を出して呼びかけた。
マリーはびっくりした顔をしていたがすぐに笑みを浮かべた。
「おかえり、ルカ」
「ただいま、母さん」
マリーにそう声をかけたところで足元から天使が現れた。
「にぃー」
「リリー! 覚えててくれたか! さすが俺の天使!」
俺はしゃがむと、ガバっと手を広げリリーを迎えた。
リリーは俺の胸に飛び込むとぎゅうっと俺の服を握りしめる。
天使ですよお! ここに天使がいますよおお!
可愛くて可愛くて仕方がない。
そんな我が家の天使の一人を抱き上げつつ、俺はマリーに声をかけた。
「母さんカールはまだ帰ってないの?」
「ええ、今日はお友達と遊んでから帰るって言ってたわよ」
俺は眉尻をものすごく下げてしまうことになった。
「そっか……」
そんな俺を見てマリーは苦笑していたが、天使なリリーは俺をぺちぺちと叩いた。
「にぃーよちよち」
「リリー!」
ああ、なんと可愛いのか! カールがいなくて傷心してる俺を慰めてくれるなんて! 天使!
俺はそんなリリーと二日振りにたっぷりと触れ合った。
四時を過ぎた頃にはカールも帰ってきて、俺はカールもしっかりと抱きしめた。
相変わらず天使で可愛い!
しかし、恥ずかしがってあまり抱きしめさせてくれなかった。しょんぼりである。
だけど、カールの天然イケメン発言がお兄ちゃんの心を撃ち抜いた。
「にーちゃん、二日会わなかっただけなのに、なんだか、さらにかっこよくなったね」
カールはお兄ちゃんを殺す気だろうか。
俺はデレッとして思わずカールを抱きしめた。
「カールは相変わらずイケメンだなー!」
「やーめーてー!」
「ちょっとだけ! もうちょっとだけ!」
「にぃー」
カールを抱きしめていると、リリーも近寄ってきて手を広げた。
俺は片手でカールを抱きしめ、もう片方でリリーも抱き寄せ、二人まとめて抱きしめた。
そうしていると今度はマリーが俺たちを抱きしめた。
そこでカールは仕方ないなぁという顔で大人しく抱きしめさせてくれた。
お兄ちゃんとても幸せです!
ウードが今ここにいない事が少し残念だが、俺はたっぷりと家族成分をとることができた。
そうしてるうちに約束の時間が近づいてきていた。
「さて、俺はそろそろ行かないとだ」
「あら、食べていかないの?ルカ」
「うん、ごめん。ちょっと約束しててね」
「そう。残念ね」
「え、にーちゃん食べてかないの?」
カールの寂しそうな顔に俺は心の中で血の涙を流すことになった。
「すまない、カール……」
「そっか、寂しいけど仕方ないよね。でも、今度一緒に晩御飯食べようね!」
「ああ、今は少し忙しいけど、またすぐ帰って来るよ!」
俺の言葉にカールは満面の笑みで頷いた。
「うん!」
あー死んじゃう。俺の心臓がもたない! 心臓あと十個ください!
そうして俺は後ろ髪を引かれる思いで実家を出て、フィーネと約束した酒場へ向けて移動をはじめた。
テクテクと歩いていると、酒場が見えてきた。
夜の鐘が鳴るまであと十分ほどあるが、すでにミハエルがいた。
俺は酒場の前にいるミハエルに手をあげた。
「もう来てたのか、ミハエル」
「よぉ。ついさっき来たとこだけどな」
そんな会話をしていると、お待たせ、と声がかかった。
そちらに視線を向けると、そこにいたのはとても綺麗な少女だった。
服装は冒険者のそれなのだが、汚れを落としてきたようで、綺麗になっている。
そして、一緒にいた時はまとめていた髪の毛を下ろしていた。
金色の緩くウェーブした長い髪がふわふわと揺れている。
たったそれだけで彼女の魅力は何百倍にも上がった気がする。
俺の人生で前世含めて、異性としてこれだけ可愛い女の子を見たことがない。
アイドルでもここまで綺麗な子はいなかった。
一瞬俺は彼女に見惚れてしまったが、すぐに切り替えて出来るだけ平静を保って声を返した。
「やあ、フィーネ」
「遅れてごめんなさい」
「いや、約束の時間はまだだから、遅れてはいないよ。俺たちが早かっただけさ」
「そう?それならいいのだけど。じゃあ中に入りましょうか」
そういってふわりと微笑んだ顔にまたドキリとしてしまう。
中々に平静を保つのが大変そうだ。
「ああ、そうだな」
酒場に入った俺たちは、酒場の端にある円卓に腰かけ、酒場のウエイトレスさんに声をかけ注文をした。
どうやら彼女はお酒を飲めるようで、薄めたブドウのワインを頼んでいた。
そうしてまずは乾杯をすることになった。
俺たちはハチミツ酒で、彼女はワインだ。
――ハチミツ酒と酒の文字が入っているが実際はアルコールは入っていない。色合いがエールに似てることから、酒が飲めない人たちがハチミツ酒と呼び始めた、ただのハチミツジュースだ。
乾杯の音頭はフィーネがした。
「あなたたちに感謝を! 乾杯!」
「「乾杯!」」
そうして俺たちは様々なことを話あった。
――もちろんお互い話せる範囲内でだが。
俺たちが冒険者になってからまだ数日であることにフィーネは驚いていたが、それでも俺たちの戦いぶりを見た後なので、納得もしていた。
そして、フィーネのこれまでの臨時パーティを組んで来たメンバーの話や、彼女には二つ下――俺たちと同じ十三歳――の妹がいること、妹があまり体が丈夫ではないことをチラリと零していた。
さすがに深くは聞かなかったけども。
こうして俺たちは交流をしつつ楽しい夜を過ごすことになった。
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