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45 冒険者としての始まり

 翌日、俺は朝の、といってもまだ薄暗い四時に目が覚めてしまった。

 まるで子供の様に今日が楽しみであまりよく眠れなかった。

 精神年齢としてはもう三十だというのに。

 ――とはいえ、肉体年齢に引っ張られるのか、三十歳の大人の落ち着きは俺にはまだないように思える。


 俺は自身に苦笑しつつベッドから体を起こした。

 だけど、もうこの家を出るのだと思うと少しだけしんみりする。


 朝起きて、もう可愛い弟や妹の寝ている姿を見れないのだと思うとやはり寂しいものだ。

 最後に愛しい弟と妹の寝ている顔の写真をデジタルカメラに収める為に俺は早速アイテムボックスから二台取り出した。

 カール用とリリー用だ。

 消音魔法を発動してから俺は存分に天使達の寝顔を撮影した。


 合計で二百枚を撮った俺はやっと満足する事が出来た。

 ふと気づけばすでに五時である。

 一時間も夢中で弟と妹の写真を撮っていたらしい。


 俺はむふーと大きく鼻息を出すと、消音魔法を解除してそっと部屋を出た。

 マリーはすでに起きて何かを作っているようだ。


「おはよう、母さん」

「おはよう、ルカ。もう行くの?」

「もう少ししたらね。昼用にサンドイッチ作っていい?」

「いいわよ、ミハエル君の分も持っていったら?」

「うん、そうだね、そうする。ありがとう」


 俺は手早くサンドイッチを作ると粗い紙で包みアイテムボックスにしまい込んだ。


「行ってきます。夜には一度挨拶に帰って来るね」

「そう……。寂しいわね。出来るだけ帰って来てね?」

「うん。当分はこの街で活動するから出来るだけ帰って来るよ」


 それでも寂しそうな顔をするマリーは俺に向けて手を広げた。


「ルカ、抱きしめさせて頂戴」


 俺も手を広げマリーに抱き着いた。

 すでにもう身長はだいぶ追い付いていて、後一年もすればマリーを追い抜くだろう。

 ――俺の背がちゃんと伸びてくれればだけど。


 マリーとの抱擁を終えた俺は家を出て、ミハエルと待ち合わせしている冒険者ギルドへと向かった。

 時刻は現在朝の五時三十分だ。

 待ち合わせの時間は六時三十分なのでちょっと早いがまぁいいだろう。


 ――ちなみに、ミハエルには具現化魔法で作った懐中時計を渡してあるので待ち合わせなどがとても楽になった。

 一応貴族などしか懐中時計なんて持っていないらしいので、ミハエルには人前であまり使わないようには言ってある。


 テクテクと歩く事十五分程、冒険者ギルドが見えてきた。

 冒険者ギルドは街の西側にあり、ダンジョンの入り口の近くに場所を構えている。

 ダンジョンの管理も冒険者ギルドがしているので近くにあるのだ。

 待ち合わせの時間までは後三十五分程あるので俺はギルドの中で依頼書などを見て過ごそうと思い、ギルドの扉――酒場にあるようなゲート状の扉――を開けて中に入る。


 ギルド内は朝も早いというのにすでに数名の冒険者がおり、ギルド内に併設されている酒場ではこれから酒盛りという雰囲気のパーティもいた。

 俺はそんな酒場から目線をはずして依頼書が貼られているボードへと目線を移した。


 依頼ボードを見ると、ボードの前に立っている少年が一人いた。

 俺はそんな少年に声をかける。


「ミハエル、もう来てたのか?」


 ボードを見ていたのはミハエルで、先に冒険者ギルドに着いていたようだ。


「よう、ルカ。あんまり昨日寝れなくてよ。五時三十分にはギルド着いちまって、暇だから依頼ボード見てたんだよ」


 少し照れくさそうにそう言うミハエルに俺は苦笑しつつ答えた。


「俺もだ。これでもゆっくり来たんだけどな」


 俺達はお互い目を合わせ苦笑してしまう。


「じゃあ早速登録するか」

「ああ、そうだな」


 そうして俺達は冒険者ギルドの受付へと向かった。

 受付では依頼の受付から登録までなんでも出来る。

 ただし、討伐証明部位や依頼アイテム等の、物や、物のある依頼の清算などは受付の左端にある『精算所』で行う事になる。

 物がないタイプ――例えば護衛依頼――の清算などだと、受付での清算になる。


 受付には綺麗な女性がおり、俺達を見てニコリと微笑んだ。


「おはようございます。ご用はなんでしょう?」


 女性の言葉に俺が答えた。


「冒険者登録をお願いしたいです。俺と、こいつと」


 俺の言葉に受付嬢はニコリと微笑み、用紙を差し出して来た。


「ではこちらの用紙に必要な事項を記入して下さい。文字が書けない場合はこちらで代筆致しますのでお知らせ下さい」

「ありがとうございます、文字は書けるので自分達でします」


 俺はお礼を言うと紙を受け取り、受付の隣にある机に紙を置き、ミハエルと一緒に記入を始めた。


 最近は紙に関してはかなり値下がりしていて、この記入用紙も若干色は灰色や茶色っぽく、真っ白ではないが粗くもない普通の紙になっている。

 新しい技術が二年ほど前に開発されたらしく、色以外は高級紙と同等の紙が大量に作成されるようになったのだ。

 おかげで高級紙はもうかなり値段を落としており、もう高級紙ではなく庶民が買える程のただの紙になっている。

 この製紙技術は二年の間にあっという間に広がり、ここ最近で大きく変わった事の一つだろう。


 この製紙技術に関してだが、開発した人は秘匿する事なく、技術の公開をしたのだそうだ。

 これに関してはかなり衝撃が走ったらしい。

 秘匿すればどれだけの儲けが約束されたか分からないというのに、その人は技術を商業ギルドに公開し、もっと紙が普及されて世界が進歩すればいいと公言したのだという。

 俺はこの話しを聞いた時、聖人かと思ったくらいだ。


 ただまぁこの人、やはりこれまで高級紙を独占していた所やそのバックにいた貴族に随分と恨まれてしまったらしく、暫くして姿を消したという噂だ。

 なんとも悲しい話しだ。


 ちなみに、依頼ボードに貼っている紙は今のところDランク以上のもので、D以下の依頼書は紙ではなく板で作られている。

 これもそのうちもっと紙が普及すれば変わってくるのだろう。



 受け取った用紙には、名前と種族、年齢と得意な戦闘方法、そしてパーティメンバーについて書き込む場所がある。

 その他には細かく書く所はなく、深く詮索もされない。


 俺は戦闘方法については一応魔法と書いておき、パーティメンバーにはミハエルの名を書き込んだ。

 パーティに関しては仮登録という所で、正式に申請するにはFランクにならないといけない。



 俺とミハエルは書き込みを終えると受付嬢に用紙を渡した。

 受付嬢は軽く用紙を確認すると俺達に暫く待っているように告げてギルドの奥へと入って行った。


 十分程経った所で受付嬢が戻って来て、カウンターの上に鈍色(にびいろ)のドッグタグを二つ置いた。

 タグには名前と俺達の冒険者ランクであるGの文字が刻まれている。


「おめでとうございます。冒険者登録は正式に受理されました。これからの活躍を期待しております」


 冒険者はあくまでも自己責任の世界だ。

 冒険者ギルドは、積極的に死なないようにアレコレと指導してくれたりはしない。

 ――もちろん訓練場はあるのでそこで先輩冒険者から学んだりは出来るけれども。



 俺達は受付嬢にお礼を言ってタグを受け取った。

 今この時から俺達は冒険者となるのだ。

 ミハエルと目を合わせ、俺達はお互いの拳をぶつけ合った。


「これで俺達は冒険者だな、ルカ」

「ああ、これからも宜しくな、ミハエル」


 俺達の様子を受付嬢が微笑ましく見ていたのを横目に、早速依頼ボードを見に行った。

 ランクを上げるには功績ポイントというものが必要となる。

 依頼をこなしてもポイントはつくのだが、モンスターを狩ってその証明部位を提出する事でもポイントがつく。

 とはいえ、依頼書達成の方がポイントがいいので、俺達はGランクが受けられる薬草取りとゴブリンの討伐依頼を受ける事にした。


 この二つの依頼は基本常駐の依頼となる。

 Gランクでは街中でのちょっとした依頼やドブ掃除などの簡単な物しかなく、外での依頼となるとこの程度になる。

 どれもポイントは少ないのだが、ゴブリン討伐の依頼の達成ポイントとゴブリン狩りのついでに薬草も集め、薬草の依頼ポイントもゲットという寸法だ。


 ――ちなみにGランクからFランクに上がるには一人百ポイントなので、二人で二百ポイントが必要になる。

 これが少々面倒な所だ。

 Gランクのうちはパーティを組んでいてもポイントの共有が出来ないので、それぞれポイントを稼がないといけないのだ。

 Fランクに上がれば正式にパーティを組めるのでポイントは共有になるのだが。


 ゴブリンの討伐証明部位は一つにつき一ポイントで、常駐依頼のゴブリンを五匹狩る依頼は十ポイントとなる。

 五匹を狩って五ポイントよりは依頼を受けて五匹で十ポイントの方が効率がいい。

 薬草は五束で三ポイントとポイントは低いが、報酬がゴブリン討伐依頼より銅貨五枚多く、五束で大銅貨一枚の報酬になるのでついでに受けるだけだ。


 まぁ、単純に言えばゴブリンを合計百匹倒せば俺達はFランクへと上がる事が出来る訳だ。

 俺達は先程の受付嬢に依頼について申請し、受理されて依頼の控えとなる板を四枚渡された。

 ――四枚の内約としてはゴブリン討伐依頼が二枚、薬草採取依頼が二枚だ。


「確かに依頼を受け付けました。依頼を失敗なされた場合は違約金が発生しますのでご注意下さい。ゴブリン討伐は五日以内、薬草採取は十日以内となっております」


 依頼は失敗すると報酬額の二倍を支払わなければならなくなる。

 ――控えとなる板を捨てたとしても、ギルドの受付帳に記載されているので誤魔化す事は不可能である――

 今回受けた常駐依頼であれば、五匹毎に、銅貨五枚が支払われるので、その最低限の五匹すら倒せず失敗すればギルドに大銅貨一枚を支払わなければならなくなる。

 薬草に関しても同じで、最低限の五束を用意出来なければ失敗となり、こちらは大銅貨二枚を支払う事になる。


 依頼を簡単に失敗されてもギルドとしては信用問題になるのだから、この制度は当然の事だろう。

 それに、背伸びして自分達ではこなせない依頼を受けさせないという目的もある。

 冒険者の失敗は大体が死と直結しているせいだ。


 依頼を受けた俺達はその足でゴブリン狩りに行く事にした。

 出来れば今日中にゴブリンを百匹程やってランクをあげてしまいたい。


「巣でも探してやるか?」


 ミハエルの言葉に俺は渋い顔をする。


「巣は上位種がいるからなぁ、あまり目立つのもどうかと思うし、普通のを百匹狩ればいいんじゃないか?」


 そう言う俺にミハエルは少しだけ苦笑する。


「お前、目立つのはどうとか言って一日で百匹もゴブリン狩ったら普通に目立つだろ」

「むっそれもそうか……でもさっさとランク上げたいし、まぁ最低限普通のゴブリンだけにしとこうぜ」

「あいよ。まぁ俺は構わねぇさ」


 そうして俺達は街の外に出ると人のいない場所で光学迷彩と飛行魔法をかけて空に飛びあがった。


 探索魔法を発動させた俺はミニマップを確認し、ミハエルと共に次々ゴブリンを狩って行った。

 夕方近くにはゴブリン百匹分の右耳と、薬草が二十束集まった。

 基本的にゴブリン狩りはミハエルに任せ、ミハエルが狩ってる間に近くに薬草があれば採取をしていたのだ。


 探索魔法のミニマップには薬草を示す光点が映るように改造してあるので実に楽に採集出来た。

 ――とはいえ、早々沢山生えている物でもないので、効率よく採取したといっても二十束が限度ではあったのだが。

 たいした稼ぎにもならなさそうなので今後は受ける事はないだろう。


「ふう、それじゃ、目的の数も倒せたし、そろそろ戻るか」


 俺の声にミハエルが剣をしまって肩を軽く回してから答えた。


「そうだな。そういやFからEランクもポイントは百だっけ?」

「そうそう。ただゴブリンだと0.5ポイントに下がるから、コボルト狩りだな」

「巣はダメなんだっけか?」

「ゴブリンの巣は依頼があっても俺達は受けれないな。あれは一応Eランクの依頼だからな」

「そっか。あんまり強くないのにな」


 面倒くさそうにそう言うミハエルに俺は苦笑した。


「ミハエルが強すぎるんだよ。もう今じゃ一人でゴブリンの巣の殲滅出来るじゃん」

「ルカがいるからだよ。でもまぁ、もう少し歯ごたえが欲しいとこだな。訓練にならねぇ」


 そう言って不満そうに口を尖らすミハエルを見て俺は再び苦笑してしまう。

 ミハエルの剣術強化・大の威力は本当に凄まじいものがある。

 ミハエルの努力があっての物だが、彼は剣術を習えばすぐにそれを習得し、自分の技術として昇華する事が出来る。


 正直ミハエルの実力は現時点では俺はCランク相当であると思っている。

 それに今後強い敵に当たれば当たる程、彼の技術は向上していくだろう。


 俺も剣の訓練はしているが、所詮普通の一般人程度の技術しかない。

 まぁ俺のメインは魔法なのでそれは別に構わないのではあるが。

 ただ派手に魔法は使えないのでやはり戦闘に関しては当分はミハエル頼りとなるだろう。


 そうして俺達はオレンジ色に染まる夕焼けの中ギルドへと戻ると、無事Fランクへとなり、鈍色のタグから、銅のタグへと進化した。

 ギルド職員にはかなり驚かれ、耳が古い物ではないのかという疑いもかけられたが、全て新鮮な耳だったのでその疑いは見事に晴れた。


 精算所にいたおじさんの職員には――こりゃ逸材が入ったな――と言われたが、幸いギルド内にはあまり人はいなかったので俺達は然程目立つ事もなかった。


 そして、パーティの正式な申請をしておいた。

 これで今後はポイントは共有になるので二人分のポイント集めをしなくても、一人分のポイントでランク上げが可能になる。


 ギルドを出た所で俺はゴブリン討伐依頼の報酬で合計銀貨一枚と、薬草採取依頼の報酬で合計大銅貨二枚、そして、討伐証明部位の報酬が銀貨一枚、合わせて銀貨二枚と大銅貨二枚をミハエルと半分にした。

 Gランク冒険者としてはありえないだろう稼ぎとなった。

 普通なら大銅貨二枚を稼げればいい方なのだから。


 少し派手にやりすぎた感はあるが、とりあえずEランクまではさっさとあげてしまいたい。

 その理由としてはダンジョンに挑めるのはEランク以上でないといけないからだ。

 ダンジョンであればきっとミハエルも存分に腕を磨けるはずだ。 


「じゃあ俺はちょっと実家に寄ってくる」

「おう、んじゃ俺は先に宿屋行ってるわ」

「分かった。悪いけど俺の分もとっといてくれ」

「あいよ。個室でいいだろ?」

「ああ、頼む」


 俺はミハエルに大銅貨三枚を渡した。

 俺達はこれから宿屋暮らしになるのであるが、別に寝れればいいので一番安い冒険者ギルド経営の宿にしたのだ。


 冒険者がよく利用する宿屋であり、冒険者ギルドが経営している宿屋でもあるその安宿は、ベッドと椅子が一つ置いてある程度の狭い部屋で大銅貨三枚、大部屋――数人で雑魚寝――だと大銅貨一枚で泊まれる。

 さすがに知らないやつらと雑魚寝は正直落ち着かないので個室にした。

 それでも通常の宿屋よりはとても安い。


 本来新米冒険者であれば、危険を覚悟で野宿か、もしくは大部屋に泊まるか、実家を拠点にするものなのだが、俺達は三年間働いて貯めた金があるのと、冒険者として生きて行く覚悟を決める為に宿屋暮らしをする事にしたのだ。


 それに俺達は早々にランクを上げるつもりなので、報酬額ももっと増えて行くだろう。

 そうなれば、もう少し上等な個室を借りてもいい。

 まぁそれでも問題なのは風呂がない事ではあるが。

 そこらへんは浄化魔法でなんとかしようとミハエルとは話し合っている。

 さすがに風呂のある宿屋となると最低でも銀貨一枚からになるので今のままでは厳しいのだ。


 そうして俺はミハエルと別れ、実家へ挨拶をしに行った。

 挨拶の後カールが涙目で――兄ちゃんもう帰って来ないの?――なんて聞かれて、おれは即答で時間があれば頻繁に帰る事を約束するという出来事もあったが、概ね問題なく挨拶は終わった。


 こうして俺の、いや、俺達の冒険者としてのスタートは問題なく?始まったのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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