43 十三歳になりました
「お世話になりました、バルドゥルさん、皆さん」
俺は深く頭を下げてバルドゥルさんや他の職人さんたちにお礼を述べる。
あれから二年が経ち、遂に俺は冒険者になれるこの世界での成人の年――十三歳――を迎えた。
「おう、お前がいて助かったぜ。元気でやれよ! あと、無茶すんなよ!」
「ルカがいなくなるのは寂しいな。元気でな」
バルドゥルさん筆頭に、皆さんが口々に別れの言葉をくれる。
前世では俺は高校生でバイトもしたことがなかった。
だからこんな風に仕事を頑張って、仕事中に叱られたり、逆にほめてもらえたり、そして、こうして別れを惜しんでくれたり、そんな経験は初めてで、本当に素晴らしい時間を過ごさせてもらえたと思う。
もし冒険者という夢がなければ、俺はこの木工所での仕事をずっとしていたかもしれない。
そう思えるほどいい仕事場で、いい人たちだった。
「はい。本当にありがとうございました」
少し涙を浮かべるバルドゥルさんと固く握手を交わし、俺は再度頭を下げて木工所を後にした。
磁石リバーシは今も売れているが、ここでの仕事を辞めるに当たって俺は磁石も普通のも契約の終了を願い出た。
正直もう十分な資金はあるし、必要ないからだ。
――普通のはすでにもうあまり売れていないし、磁石の方は俺の取り分がなくなればウードの取り分が増えるしな。
もちろん、バルドゥルさんが言う通り俺の記憶にある知識は技術として価値あるものだ。
だけど、リバーシは弟と遊ぶためのおもちゃで作っていて、もしバルドゥルさんがああして声をかけてくれなければ商品になることもなかったし、悪い人だったら黙って勝手に商品化されていただろう。
もちろん俺は仮に黙って商品化されても気にもしなかったと思う。
だから別にもう俺は十分あぶく銭――あぶくと言うにはでかい金額だが――として稼がせてもらったので後はバルドゥルさんやウード、販売を頑張る商人さんで分けてくれればいいのだ。
その辺をバルドゥルさんに説明し、理解してもらえた。
多少渋ってはいたが、最後にはバルドゥルさんも了解してくれ、俺の契約は無事に終了することができた。
今日はこのまま家に帰り、明日はミハエルと共に冒険者になるために登録に行くことになる。
木工所から家までの慣れた道のりを歩き、家へと辿り着いた。
「ただいま」
俺の声に家の中から次々と声があがる。
「おかえり、にーちゃん」
今年で七歳となったカールだ。
カールは七歳になったので今は教会学校に通っている。
小さい頃から遊びついでに計算や読み書きを教えていたので実に優秀な子に育っている。
さすが俺の弟で可愛い天使である。
七歳となった今もカールの可愛さは昔と変わらずだ。
でも最近は構いすぎると照れて嫌がるのでお兄ちゃんとしては非常に寂しいところである。
そんなカールであるが、最近ウードの仕事、鍛冶仕事に興味を示している。
ムキムキ天使になってしまいそうで少し心配だ。
「おかえり、ルカ」
マリーは今年で三十歳になるが、相変わらず若々しく美人だ。
相も変わらずウードとは仲睦まじく、ラブラブのようではある。
「にーだあこー」
二人目の天使が地上に舞い降りた!
そんなリリーは今年で二歳になり、可愛さが大爆発している。
カールも可愛かったが、女の子はもっと可愛い気がする。
俺は途端にデレっとした顔になり、リリーを抱き上げた。
「リリー、ただいまー。いい子にしてたかー?」
「いいこー」
ニコリと笑って俺にしがみつくリリー。
力いっぱい抱きしめたいのをぐっと我慢して優しく抱きしめる。
「あー可愛いなぁ、ほんとに可愛いなぁ」
そんな俺を見てカールが苦笑した。
「にーちゃんも僕たちと同じ顔してるのに、昔から僕たちにデレデレだね」
「俺なんかより、カールとリリーの方が可愛いんだから仕方ないだろー。こう、溢れ出る可愛さが違うんだよ」
「まぁ僕は置いといても、確かにリリーは可愛いからその気持ちは分かるけど」
そんな俺とカールのやり取りに今度はマリーが笑みを浮かべて答えた。
「ママは皆にデレデレよー? みーんな可愛くていい子だもの」
そんなマリーにカールが――
「ママもとっても可愛いよ!」
そう言ってニコリと笑った。
俺はそんなカールを見て、天然のイケメンに育っている気がしてならないと思ってしまう。
カールは俺と違って、割とさらりとイケメン発言をよくするのだ。
その度に俺のハートは撃ち抜かれるのだが、お兄ちゃんはカールの将来が少し心配ですよ?
そんな風にわいわいしながらも夜を迎え、ウードの帰宅に合わせて、俺たちは食卓につくとマリーの手料理を食べ終えた。
ウードは三十九歳を迎え、渋みを更に増したが、相変わらず体はムキムキである。
「ルカ、今日でバルドゥルの所やめてきたのか?」
「うん、今日挨拶してきた」
「……そうか。やはり冒険者になるんだな?」
「うん。――明日にでも登録に行くつもりなんだ」
そう言った俺にウードは手を伸ばすと俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「そうか。頑張れよ」
本当は心配だろうに、それを口には出さず、こうして応援してくれることに俺は思わず涙ぐんでしまう。
「うん、頑張るよ。……ありがとう、父さん」
「ああ」
そう言ってウードは俺の頭をぽんぽんと叩きこの話は終わりとなった。
前世を思い出しそうになるが、俺は今のこの家族の優しさと愛情だけど感じることにした。
俺もいつか好きな人と結婚したらウードとマリーのようにお互いを思い合う素敵な夫婦になれたらと、そう思う。
相変わらず小さい子には泣かれるウードだが、リリーは肝の据わった子なのか、二歳になってからはウードを見てもあまり泣かなくなった。
それでもウードがそれに機嫌を良くして笑いかけるとリリーは泣いちゃうのではあるが。
そして今もリリーに笑いかけて大泣きされている。
そんなウードを見ていてふと気になったことを聞いてみた。
「ねぇ父さん」
泣きじゃくるリリーをマリーに手渡したウードが眉を下げたままこちらを振り向いた。
「なんだ? ルカ」
「父さんと母さんって、どうやって知り合って結婚したの?」
俺がそう聞くと、途端ウードは目が泳ぎ始めた。
「ん、まぁ、その、なんだ……」
言葉を濁すウードに変わって、マリーがクスクス笑いながら答えた。
「私がウードを好きになって告白したのよ」
どうやってマリーを口説いたのかと思っていたので、マリーのその言葉に俺は心底驚いた。
「わぁ! ママすごいね!」
カールの言葉にマリーは笑みを浮かべた。
ウードはそっぽむいているが、顔がかなり赤くなっている。
「へぇ! 母さんせっかくだから馴れ初め教えてよ」
「いいわよ」
「おっ俺はちょっとほら、やることがあるから――」
「――だめよ、ウード。一緒にいて頂戴。ね?」
逃げようとしたウードはあっさりとマリーに止められ、顔を赤くしつつも大人しく席についた。
なんだかんだと尻に敷かれているウードであった。
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