42 俺もしかしてモテてたの?
41話のフーンアイについて文章を追加しました。
俺は手提げの籠を持って家を出発し、市場へと向かった。
シュルプの街の中心には東西南北に十字の通りがあり、街を出入りするための門は南北にある。
北側の通りは衣服や日用雑貨などの店が多く、また俺たちが通っていた教会学校が通りから少しはずれた場所に建っている。
東の通りには市場や食品関係の店、そして俺たちがよく行ってた屋台広場が存在する。
ミハエルの父親の店もこの通りで一番奥まった所にある。
武器屋ではあるが、どちらかというと刃物屋に近いだろう。
南の通りは鍛冶屋が密集している関係で武器や防具の店が多くあり、西の通りは宿屋、冒険者ギルド、商業ギルド、酒場などギルド関係や冒険者相手の店が多い。
マルセルの父親が経営する道具屋は西の通りでも目立つ場所にあり、良質なアイテムを販売しているので人気と信頼が高いお店だ。
――ちなみに、西の通りの奥にダンジョンへの入り口が存在する。
俺が住んでいるのは南の通りなので、市場へ行くには東の通りまで行かねばならない。
市場へは歩いて十五分ほどかかる。
俺の住んでいる所は南の通りでも道に面しているが門側――中央から離れた所――なので、少し距離があるのだ。
中央に近い程裕福な家が多いので、俺が住んでいる所はまぁ普通くらいだろう。
ただ、西の通りに関しては少し事情が違って、住宅に関しては中央に近い方が裕福なのは同じなのだが、宿屋などは外側――ダンジョンに近い場所――の方が高級なのだ。
とは言っても、冒険者向けの宿屋の話しで、旅人向けは南北の通路に存在しており、やはり中央付近が高級宿になる。
また、外周にあって、通りから離れている住宅は基本的には少し貧困な家庭が暮らしていることが多い。
スラム街というほどでもないが、あまり治安がいいとは言えない。
そんなことをつらつら考えつつ、屋台広場を抜けて更に奥にある市場へと辿り着いた。
市場には所狭しと店が広がっており様々な食品が売られている。
食品以外にも薬草販売店やちょっとした雑貨を布を敷いた上で売っている人もいたりと様々だ。
俺は雑貨などを少し見つつ目的の野菜を売っている店へとやってきた。
――野菜を売ってる店は他にもたくさんありはするのだが、この店が一番質がいいので、ここで買うことにしている――
店と言っても市場にある店は屋台に近い感じで、よくテレビで見ていた海外の屋台みたいなとこに野菜や魚などを並べているのがあったが、あれに近い感じだろうか。
実はこの店はかつて教会学校に通っていた時に同時期に通っていた女の子の親が経営してる店なのだ。
もちろん話しかけたらそそくさと逃げられた悲しい思い出がある。
いつも男三人で煩くしていたせいか、女の子は皆声をかけると逃げるのだ。
おかしい、俺はモテルートのはずなのに。
何か女の子に嫌われる発言をしただろうか……? ないと、思うんだけどなぁ。
ふぅと溜め息をつきつつも、目的の玉葱、一つ鉄貨一枚を三つを買うために並べられた野菜を眺めつつも店員に声をかけた。
「すみません、玉葱三個下さい」
「はい!いらっしゃい!あっ」
何やら店員さんが驚いた声を出したので、何事かと野菜から目を離してそちらを見ると、かつて俺から逃げた少女がいた。
おう、とても気まずい。
「や、やあ。久しぶり……。えっと、玉葱三個もらえるかな……?」
少女はなんだかもじもじとしながら小声で何かを呟き玉葱三個をとって俺に差し出してきたので、その行動に困惑しつつも、俺は玉葱三個を受け取ると籠に詰め込み、少女に銅貨一枚を差し出した。
少女は俺の手にできるだけ触れないように銅貨をとると店の裏側へ行った。
――俺の手に触れたくないほど嫌われていたのか……。俺なんかしたかなぁ……?
そう思い、少しへこんでいたが、少女がお釣りを持って戻ってきたので受け取るために手を出すと、急に少女が俺の手を掴んだ。
俺がビックリしていると、少女が赤い顔で俺に――
「えっと、あの、お釣り鉄貨七枚です。あの、また来てね! ルカ君!」
そう言ってきた。
いや、え? 俺のこと嫌ってるんじゃないの……か?
俺の混乱をよそに少女は俺から手を離すと赤い顔のままパタパタと店の裏へと行ってしまった。
そんな少女に混乱しつつも俺は受け取った鉄貨をしまうと、自宅へ向けて移動を始めた。
あれだよな? 今の反応は、やっぱ嫌ってるってわけじゃないよな?
前世で恋愛経験なんかないからハッキリ言えるわけじゃないけど、あれはちょっと自惚れていいなら、俺に好意を寄せてくれてる感じだよな?
いやまぁ、好意とまではいかなくても、あれは照れていたよな?
いかんいかん。口元がニヤついてしまうぞ。
というか初めての経験すぎてどうすればいいか全然わからん!
とはいえ、俺は冒険者になるので仮に彼女が恋心を寄せてくれていたとしても恋人にはなれないんだけどな。
少なくとも、冒険者として一人前と言われるDランクになるまでは他にかまけてる余裕はないのだ。
いやまぁ、カールとリリーは別だけど! 天使は俺の心の支えだから!
ま、俺が何かして嫌われていたというのがないと判明したのでいいか。
しかしそうなると、これまで俺が話しかけてもそそくさ逃げてた女の子たちは実は皆照れてたのかな。
やばいな、自意識過剰過ぎるか?
もしかしたら本当に嫌われてた説もあるが、さっきの子の反応を思い出すと、俺は口元がニヨニヨするのを抑えきれなかった。
家に帰ってきたがお昼にはまだ後一時間はあるので、冷蔵庫モドキの中にいれてある調味料の在庫確認をすることにした。
とはいえそんなにたくさん作ったわけではないけども。
冷蔵庫モドキから小さな瓶を四個取り出した。
俺が作り出した調味料は、醤油、味噌、ケチャップ、マヨネーズ、コンソメの五つだ。
醤油モドキがあるので醤油はどうするか迷ったのだが、それなりにクセがある醤油モドキなので、普通の俺がよく知る醤油を作ったのだ。
この世界には一応米も存在したのだが、我が家ではパンが主流だった。
俺も別にそこまで米に固執するタイプではなかったのでパンでも問題なかったのだが、この調味料を導入して最初に作ったのが実は豚肉――オーク肉――の生姜焼きだった。
俺としては生姜焼きはご飯で食べたかったので、その日はマリーにお願いして米を買ってもらったのだが、これがまた米が豚の生姜焼きに合うこと!
特にウードが大変気に入って、それからこの調味料で料理をする時はお供はパンではなく米が多くなった。
ケチャップ炒めやコンソメで味付けした時はパンの方が合うのでパンになるのだが、和食を作るとどうしても米寄りになってしまう。
調味料の瓶の中身を確認して減った分を継ぎ足しておく。
マヨネーズに関しては使いすぎると体に良くないと伝えていてサラダや隠し味に使う程度なので、程々に減っているだけだ。
まぁこの世界ではよく動くのでそう太るとは思えないが、マヨネーズは太る元なので注意がいる。
継ぎ足しを終えた瓶を冷蔵庫モドキになおして目を覚ましたカールの相手をすることにした。
「カール、リバーシするかー?」
「するー!」
リバーシも順調に売れており、今のところ真似はそこまでされていないようである。
どうやら、バルドゥルさんたちはかなり腕のいい木工職人だったようで、機械で作ったかのように全て同じサイズと厚みの石を作れる人がそう多くないようだ。
不揃いな石のリバーシは真似て作られて大銅貨三枚で売られているようではあるが、どうせならきちんとしたのがいいとバルドゥルさんが売り出してる大銅貨五枚のリバーシを求める人が多いらしい。
とはいえ、それも今だけで、都市部などの腕のいい職人がいる所で流行りだせばそれは完璧に真似られてしまうだろうということだった。
それでも、普通のリバーシだけでもすでに俺の懐には大金貨二枚以上が入っており、あまりお金に困らなくなっている。
――予想以上に売れているようでバルドゥルさんたちはとても忙しくしているみたいだが。
その上に、銀貨五枚のと大銀貨一枚からで売り出した磁石リバーシの方の収入もあるのだ。
まぁ対象が裕福な平民や貴族なのでそこまで大量に売れているわけではないのだが、かなりの数の人が買い求めており、貴族に至ってはどのくらい派手に装飾するかで競い合っているそうだ。
そんなわけで、磁石の方も俺には大金貨一枚の収入が入ってきている。
普通のリバーシは値段設定的に遠くまで運ぶのは輸送費で儲けが減るので、隣の領地くらいまでしか販売しておらず、これ以上はもう売り上げは見込めないだろうということだったが、磁石リバーシについては対象が金持ちと貴族なので遠くまで輸送しても儲けが出るため、まだまだ売り上げは伸びそうな気配はある。
商人さんはそれはもう疲労困憊という顔色をしているのに大変ニッコニコなのできっと伸びるだろう。
彼の店は規模を拡大してすでに国外へも支店を作って精力的に磁石リバーシの販売を行っているのだ。
普通のリバーシはさすがに国外までとなると輸送賃であまり儲けが出ないので磁石リバーシに絞っているらしい。
とはいえ、噂を聞きつけた他国の商人がシュルプの街まで買い付けに来ていて、大量に購入し、自国で高値で販売をしているらしく、そういう意味での売り上げはあるようではある。
まぁそれでもいずれは真似されるのでそう長くヒットはしないだろう。
そうして暫くカールとリバーシで遊んだ後、俺は昼ご飯にオムライスを作って、マリーとカールに提供した。
二人共、特にカールは大喜びしてくれたので俺は大変満足するのだった。
――ちなみに夜にオムライスの話をしたらウードがとても悲しそうな顔をしたので、マリーの料理の後で小さいミニオムライスを作って提供した。
ウードがニッコニコになっていたので作って良かったと思っている。
こうして俺の久しぶりの休みは終わるのだった。
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