4 地球じゃなかった!
あの日から一週間が過ぎた。
相変わらず俺は母親、マリーからの乳を貰っている。
もう俺は開き直った。これしか食糧がないのだから素直に俺は授乳してもらうのだ。
ただ正直飽きた。もっと味の濃い物が食いたい。
トンカツとか食いてぇなぁ……。
そんなことを考えながらも俺はベッドの上でゴロゴロしている。
そして、一つ分かったことがあるが、ここがどうも、地球ではないということだ。
それに気づいたのは三日前、父親であるウードが俺を連れて散歩に出かけたのだ。
俺は外を見てただただ驚いた。
最初に驚いたのは、荷車?を引いていた動物だ。
顔はバクのような顔をしていて、足が六本あるのだが、そんな動物が荷車を引いて歩いていた。
次に驚いたのが、人の服装だ。
小説で読んだような、鎧を着ていたり、剣や槍、杖?なんかを持った人が普通に歩いている。
誰も見ていないし普通にしているので、コスプレではないということだ。
そして、コスプレではないということはだ、あの尖った耳、そしてあのふさふさの耳と尻尾、あれは伝説のエルフと獣人ではないのか!?
まじか!? まじかよ! 何だ? ここは地球じゃないってことか? まさかの異世界か!?
俺、異世界転生しちゃったの!?
俺はもう大興奮だった。ウードに抱かれたまま手をバタバタさせあー! あー!と声を出している。
機嫌よさげな俺にウードはニッコニコのようだが、その顔怖えぇんだよ、パパ……
ほら、エルフさんや獣人さんがびびって逃げていったじゃないか……
俺が不機嫌な声を出すと、ウードはオロオロしだした。
――パパよ。もういいから他に連れていってくれ。
俺はウードの服を掴んであっちあっちと指をさす。
ウードは俺の言うままにそちらへ足を向けてくれた。
次に向かった先で、俺のワクワクは大爆発した。
何やら建物の奥にある運動場のような所から空に向かって火の玉が飛んでいったのだ!
あれはあれだろ! ファイアボールだろ! 異世界だし!
俺は大興奮のままウードの服を引っ張り、あっちに行きたいと指をさす。
ウードは俺が指をさす方向を見て何か気づいたのか、運動場の手前にある建物に入っていった。
ウードが入ると、ザワザワしていた建物内がシンとした。
中にいたのは様々な人だった、エルフさんに獣人さん、それに多分ドワーフもいる!
もしかしてここは冒険者ギルドという場所なのかもしれない。
剣や槍、杖を持った革鎧や金属鎧をつけた人たくさんいるのだ。
ウードはそんな人々の間を抜け、受付っぽいとこにいる、職員らしきお姉さんに声をかけた。
「すまない、少しいいか」
「ぴっ」
このお姉さん、今ぴっって言ったぞ。人間ぽいけど獣人とかなのか?
でもちょっと涙目になってるから、パパが怖いんだろうな、分かるぞ、お姉さん。
「訓練場を見学してもいいか? 息子が見たがっていてな」
お姉さんはウードを見てコクコクと高速で頷いている。
それを見たウードはお礼を言うと、受付の隣の通路を抜けて更に奥へ行った。
通路を抜けた先にはそれなりに広い運動場みたいな場所があった。
そこで俺に感動の嵐が襲い掛かった。
――魔法だ! 魔法である! 魔法だよ!
俺の目の前で氷の粒みたいなのが飛んでいって案山子みたいなのにぶつかった。
奥の方ではさっき見た火の玉が飛んでいる。
まじやべぇ! 俺の興奮は最高潮に達した。
そして興奮しすぎた。いきなり鼻から放物線を描いて血が噴き出した。
ウードが真っ青な顔になって叫ぶ。
「ルカアアアア!!」
ウードの叫びに魔法を撃っていた人たちが振り返り、鼻血を噴いて血まみれの俺と、そんな俺を抱える極悪な顔をした俺の鼻血で血まみれのウードを見て悲鳴が上がった。
全員が攻撃しようとウードに対峙する中、俺たちの近くにいた、一人の少女が声を上げた。
「違います! 違いますよ! 皆さん! この血は興奮した子供の鼻血であって、この怖い顔の人は殺人犯ではないですよーーー!」
少女の叫びによって場は落ち着きを取り戻したが、それでもまだ皆警戒しているようだ。
そして俺はぐったりである。当然ウードはそんな俺を抱えてオロオロしっぱなしである。
――すまない、パパよ……。
少女がウードに話しかけてきたが、物凄くビクビクしている。
「あ、あの。その、治癒魔法、私使えますので、その子にかけましょうか……?」
「本当か! 頼む! この恩は一生かかってでも返す!」
ウードの迫力に少女は涙を浮かべながら、ピィと変な声を上げた。
それでも少女は健気にも勇気を振り絞って極悪な顔をしたウードの手に抱かれたままのぐったりした俺に治癒魔法なる物をかけてくれた。
ヒールですよ! ヒール! ハッいかんいかん、興奮したらまた鼻血を噴き出してしまう……。
少女が俺に手をかざすと、緑色?のこう、なんつーんだろうか、暖かい光が出て、俺の顔がじんわりとぽかぽかしていく。
これが、ゲームでいつも使っていたヒール、か……。感動で涙でそう。
その後、ウードがお礼をしたいと言っても少女は全力で断り、そそくさとその場を去っていった。
パパのお顔は怖いですからね。仕方ないね。
ウードはその後家へ帰るまでの道のり、当然血まみれなので驚かれ、警察みたいな人、多分あれだな、警備兵とか衛兵とか言うやつだな、それを呼ばれ、真っ直ぐ家に帰ることはできず、結局なんだっけな? ああ、詰め所だ、詰め所って所にマリーが迎えに来てやっと帰宅できた。
まぁ、詰め所についたところで、パパの知り合いの警備兵の人がいて、またかと笑われていたけど。
そしてやっと家に帰ってきたわけだが、とりあえずウードがすごく落ち込んでいるので、謝罪の意味も込めてパパと呼んでおこう。
――本当にすまない、パパよ。
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