38 ゴブリンの巣(後編)
二話更新してます。37もあるのでご注意下さいませ。
棍棒を持ってこちらへ歩いてくるゴブリンソルジャー。
ソルジャー単体であればFランクなので油断しなければ問題はないはずだ。
まだ心臓は早鐘を打っており、呼吸は落ち着かず、手の震えもある。
それでもゴブリンソルジャーがこちらを警戒しているのかゆっくりと来ているのでなんとか深呼吸を繰り返す。
深くゆっくりと息を吐いた俺はショートソードを握りなおし、ゴブリンソルジャーに向けて構えた。
俺が剣を構えなおしたところでゴブリンソルジャーが棍棒を振り上げてこちらへ向かってきた。
身長は同じくらいだが、あちらは手が長い。
俺よりも高い位置からの棍棒が振り下ろされる。
しっかりとゴブリンソルジャーの動きを見て、俺は右側に避ける。
避けたところで剣を左手だけで振りぬく。
強さはそこまででもないが、ゴブリンソルジャーの脇腹を深く切り裂くことができた。
しかし致命傷とまではいかず、俺は少しゴブリンソルジャーから距離をとる。
ゴブリンソルジャーは剣で傷つけられたことで怒りを覚えたのか、大きな声を出して突っ込んできた。
俺はなんとかゴブリンソルジャーの攻撃を避け、素早く背後へ回ると、今度は両手で背中側から袈裟切りにする。
骨を断つ感触を感じながら力任せに剣を振りぬいた。
今度は致命傷だったようで、ゴブリンソルジャーはそのまま崩れ落ち死んだ。
油断はしてはいけないが、俺は剣を地面に突き立てると深く大きく息を吐いた。
緊張と手に残る切った感触にほんの少しだけ目を瞑る。
数秒ほどして俺は目を開けた。
「よし……」
気合を入れなおし、俺は残りのゴブリンの始末をするために小屋へ向けて移動を始めた。
小屋といっても木を大雑把に組んでいるだけなので隙間だらけだし中の様子も近づけば見える。
俺は慎重に小屋に近づいて中を確かめた。
中を見た俺は思わず息をつめてしまう。
小屋の中にいたのはゴブリンのメスとその子供が四匹だった。
メスは子供を庇うように子ゴブリンの前にいる。
俺はこのメスと子ゴブリンを殺さないといけない。
剣を構えなおし、俺は小屋に入る。
メスはぶるぶると震えて子供たちを抱え込む。
見逃してもいいのではないか、ふとそう思ってしまう。
だけど俺が見逃したことで、誰かが傷つくかもしれない。
どこまでいっても人間とゴブリンは相容れないのだから。
でも、俺の知らない人だ、今目の前の怯えるメスと子供を惨たらしく殺す必要があるのか?
そんな考えが俺の頭を支配しかけ、俺は強く頭を振った。
そんな甘い考えでどうする。
今後もそんな状況になったら見逃すのか? そんなことで俺は冒険者なんてやっていけるのか?
――ダメだ。それではダメなんだ。
俺は剣を振りメスと子ゴブリンを斬り裂いた。
俺の目の前には子ゴブリンたちを抱え込んでいたメスと小さなゴブリンの死骸がある。
俺はフラリと倒れかけ、小屋の壁に軽くぶつかった。
そのまま俺はその場に座り込み、手からは剣が落ちる。
膝に顔をうずめ俺はしばらく動くことができなかった。
どのくらいそうしていたか分からないが、探索魔法の範囲内、ミニマップに緑色の光点が現れた。
数は四つ、どうやら人がこちらへ向かってきているようだ。
まだ到着までは二十分以上かかるだろうが、のんびりもしていられない。
地面に落ちたショートソードをアイテムボックスに収納して俺は立ち上がる。
小屋を出る時にチラリと死んだメスと子ゴブリンの死骸を見る。
罪悪感はある、けれど俺はきっと次も殺すだろう。
深く息を吐き、自身に浄化魔法をかけてから飛行魔法と光学迷彩をかけてゴブリンの巣を飛び立った。
――次のゴブリンを探すために。
♦♦♦♦♦
森をかき分け、俺たちは歩を進める。
「もうそろそろだろう」
俺はぽつりと言葉を漏らした。
俺達はEランクのパーティで、今日はゴブリンの巣の殲滅依頼を受けてこの森へやってきた。
今回の依頼をクリアすれば俺たちはDランクに上がれる。
今回の依頼は、たまたまこの森に茸等を依頼で取りに来ていた新米冒険者がゴブリンの巣を見つけギルドへ報告したことで発生した依頼だ。
詳しい調査はされていないが、規模は大きくないとのことだったので、俺たちであれば問題なく倒せるだろう。
「少し先行して様子を見てくる」
そう言って足音をあまり立てずに走って行ったのは盗賊だ。
盗賊と言っても、別に盗みをする賊ではなく、職業としての盗賊である。
盗賊の仕事はこうした偵察や罠解除などが主だ。
盗賊を軽く見る者もいるが、パーティには必ず必要な職業であると俺は思っている。
暫くして盗賊が戻ってきた。
ただ、何やら難しい顔をしている。もしや上位種がジェネラル級だったのだろうか。
詳しく話を聞くとどうもそうではないということだった。
「ゴブリンの巣は確かにあった。あったんだが、すでに全滅しているようだった」
俺も他の仲間もそれには驚いた。
「俺たち以外の誰かが見つけて討伐したのか?」
そう思って言ったのだが、盗賊は首を振る。
「いや、討伐証明部位は残されたままだった。ただ……」
何か言いよどむ盗賊に俺は先を促した。
「切り方がな、あまり慣れていない切り方だったんだよ。なのに、綺麗に切断してるし、それに単独のようなんだ」
要は単独で、剣に慣れていない素人が、ゴブリンの巣を殲滅した、ということになる。
「……とりあえず確認に行くか。もしかしたら新人に練習させたのかもしれんしな……」
「そうだな……」
そうして俺たちはゴブリンの巣へと向かった。
ゴブリンの巣についた俺たちは再び驚くことになる。
詳しく調査をしていると、盗賊が一つの小屋付近で俺たちを呼んだ。
そちらへ向かうと盗賊が眉間に皺を作りつつ、俺たちに説明を始めた。
「どうも、ここの巣を全滅させたのは子供のようだぞ」
「は?子供?」
「ああ。ずっと切り方に違和感があったんだが、ここで判明した」
そう言って盗賊が指す方を見るとメスと子供のゴブリンの死骸と、そことは逆の所に誰かが座り込んだような跡があった。
「ここにどうも座り込んだようなんだが、足跡がどうみても子供なんだ。そこで切り方の違和感に気づいた。あれは身長の低い子供が繰り出した剣だ。どうも切る位置が低いとは思ったが……」
俺たちは盗賊の分析に驚くしかなかった。
それも仕方ない、だって子供がゴブリンの巣を全滅させたということなのだから。
「……どうする?リーダー」
盗賊の言葉に俺は考え込み、一つの答えを出した。
「どうせ信じてはもらえんだろう。討伐証明部位を切り取って戻ろう」
俺の言葉に全員が頷き、黙々と討伐証明部位を切り取って集め、適当に穴を掘ってゴブリンの死骸をまとめて放り込み埋めた。
本来なら誰かが俺たちより先に討伐して討伐証明部位をとっていたとしても、俺たちはそれをきちんと話し、証拠として討伐証明部位とは逆の耳を切り取って持っていけばちゃんと報酬も貰えはするのだが、今回はさすがに信じてもらえる気がしないし、討伐証明部位もとっていないようなので俺たちが狩ったことにすることにしたのだ。
子供が一人でゴブリンの巣を殲滅しました、なんて言って誰が信じるだろうか。
俺たちは色々と飲み込みつつ作業を終えて街へ向けて移動するのだった。
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