30 俺の決意を伝えよう
二人と別れた俺は家への道を歩いていた。
あの後別れる前に結局マルセルにも防護魔法をかけた。
この世の中いつ何が起こるか分からないからだ。
俺が側にいればすぐに助けることはできるが、そうもいかない。
この防護の魔法は俺が解かない限りは解除されることはないので中々に便利ではある。
あいつらに限って殴られても傷つかないからと悪いことをすることもないし、問題はない。
家に帰ったら家族にもこの魔法をかけたいところだ。
そんなことを考えつつ歩いていると家についた。
俺は家に入りながら声をかける。
「ただいま、母さん、カール」
「おかえり、ルカ。カールはお昼寝してるわよ」
「そっか。顔見てくる」
俺は早速イソイソとカールに会いに行くことにした。
俺とカールの部屋へ行くと、俺はそっと扉を開けて中へ入った。
ベッドへ行くとカールがスヤスヤと眠っている。
早速カールにも防護魔法をかけたいところではあるが、こればっかりはちゃんと両親にも話してから了解を得るべきだろう。
俺はカールをじっと眺めながらニヘっと笑みを零す。
暫くカールを眺めた後、俺は部屋を出て食卓へと向かった。
「母さん、父さんは今日いつ頃帰る?」
俺の質問にマリーはスープの入った鍋をかき混ぜながら答える。
「そうね、今日はそんなに遅くならないはずよ。どうして?」
「ん、ちょっと話したいことがあって。夜に話すよ」
「そう。分かったわ。――お昼食べるでしょ?」
「うん」
そうして俺はマリーの作ったお昼ご飯を食べつつ、ウードが帰ってくるまでの間昼寝から起きたカールとたっぷり遊ぶこととなった。
実に幸せである。
夜、少し外が暗くなったところでウードが帰宅した。
「ただいま」
「おかえりなさい、ウード。お疲れ様」
「おかえり、父さん」
「ぱー」
俺達のおかえりコールにウードは笑みを浮かべる。
そしてカールは少し怯えた。父さんよ、その笑顔はやめなさい。
カールの怯えを見たウードはちょっと悲しそうな顔をしつつもカールを食卓の子供用の椅子に座らせ、俺も席についた。
隣をキープしたくはあるが、カールにご飯を食べさせるのはマリーがするので、残念ながら俺は見てるだけである。
ちなみにこの子供用の椅子は俺が前世の記憶を基にウードに提案して作ってもらった椅子だ。
鍛冶師の領分ではないが、可動する部分に鉄具などを使用することでウードの知り合いの木工師と合作で作ったのだ。
これはすでに売り出されていてかなりの売り上げを見せているらしい。
ウードが貴族からの依頼があったと驚いていたこともあった。
俺のおかげだと言っていたが、作ったのはウードたちなので凄いのはウードたちなのだ。
俺はあくまでもこういう作りの椅子があれば便利ではないかと提案しただけで、試行錯誤して完成させたのはウードたちだ。
そして食事を終えたところで俺は両親に声をかけた。
「父さん、母さん、少し話しておきたいことがあるんだ」
俺の真面目な顔にウードもマリーも真剣な顔で頷いてくれる。
「話してみなさい」
父親の、鍛冶師の跡を継がないということを告げるのがこれほど苦しいとは思わなかった。
どうしても、前世の親父とのやり取りが蘇ってしまうのだ。
それでも俺は話さなければならない。
緊張のあまり震える手でズボンをぎゅっと握り、背中を流れる汗を感じつつもなんとか言葉にした。
「父さんには申し訳ないんだけど……俺鍛冶師にはなれない」
絞るように出した俺の言葉に、ウードは少し黙ってから答えた。
「そうか。鍛冶師になれないのは別に構わないし、申し訳なく思うことはないんだぞ、ルカ。俺は別に自分の跡を息子に継いでほしいとは思ってはいない。もちろん継いでくれたら嬉しいがな。でも俺は、子供には自分のやりたいことをやってほしいんだ」
俺は前世の親父とは全く違う言葉を聞いて驚きと嬉しさがこみ上げた。
思わずぽろりと涙を零してしまう。
「ありがとう、父さん……」
少ししんみりした空気を変えるためか、ウードが聞いてきた。
「それで、ルカは何になりたいんだ?」
「俺は、――冒険者になりたいんだ」
「冒険者、か……」
「危険なのは承知しているし、簡単なことではないのは分かってる。だけど、それでも、俺は冒険者になりたい」
俺の真剣な言葉に、ウードは目を瞑り、マリーは不安気な顔をしている。
ただ何も言わないということは、どうやらマリーはウードの決めたことに従うようだ。
「……覚悟はしているんだな?ルカ。死ぬことだってあるんだぞ?」
「分かってる。油断はしないし、覚悟もしてる」
「そうか……。パパは、本当は冒険者にはなってほしくはない。お前を愛してるからな」
俺はそんなウードの気持ちも分かりつつも黙って見つめる。
「だけど、そうだな。そこまでしっかり覚悟しているのなら俺は止めん。ただ、途中で気が変わったとしても俺は気にしない。成人になる十三歳まではまだ後六年あるんだからじっくり考えなさい」
「うん、ありがとう父さん」
「ああ、パパは応援しているぞ」
「うん、頑張るよ父さん」
「そうだな、パパはいつでもルカの味方だからな」
「? ああ。――ありがとうパパ」
やたらパパを言ってくると思えば、どうやらウードはパパと呼んでほしかったようだ。
俺が久々にパパと呼ぶと嬉しそうに笑みを浮かべていた。
しかし、そんなウードの笑みを見てカールは泣きだし、ウードは眉を下げ、俺とマリーは笑ってしまうことになった。
――本当に、本当に、愛しい家族だ。
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