27 選択肢は一つじゃない
俺たちは教会学校を出て、屋台広場へ向かった。
屋台は大体銅貨一枚から三枚で食べ物が購入できる。
日本円で言うと、百円から三百円というところだな。
子供の小遣いは貰えて月銅貨五枚程度なので、そうそう買い食いはできないが、こうして月二回くらいはやってくる。
屋台広場についた俺たちはそれぞれ好きな物を購入して、広場の一角で地面に座り込んで食べ始めた。
俺が買ったのは硬い黒パン――長さ十五センチほど――にレタスとソーセージを挟んだ物で、味付けは塩と醤油モドキだけである。
お値段は銅貨二枚で、子供であれば問題ない大きさではある。
マルセルは辛い物が好きなので、買った物は、黒パンにレタスと削いだ薄いオーク肉が挟まれた物で、醤油モドキと唐辛子で味付けされたソースがかかっている。
値段や大きさも俺と同じ銅貨二枚だ。
ちなみにこのオーク肉だが、当初聞いた時はさすがに吐いた。
今では慣れたもので普通の豚肉として美味しく食べられるのだが、当時はオークの姿を思い浮かべ食べることができなかった。
食べられるようになったのは、ゴブリンを殺して少し経ってからくらいだろうか。
あそこで覚悟が色々できた気がする。
――とはいえ、この世界の人は元々最初から存在するモンスターの食材なのでまったく気にはしてない。
前世で言えば、加工された豚や牛の肉と同じだ。
実際に見たら厳しいが、加工された肉なら平気というのと同じなのだろう。
そして、ミハエルが買ったのはオーク肉のシチューだ。
ミハエルはお小遣いを貰っていないので、自分でバイトしたお金で購入している。
バッフルホーンの乳でオーク肉や野菜を煮込んだ物で、これはちょっと高くて銅貨三枚する。
オーク肉がそれなりにゴロゴロ入っているせいか、お椀一杯程度で三百円だから少し高い。
大きい器――お椀二杯分――でも頼めるが、値段は六百円もするし子供には少し多い。
ただ、成人男性だと少し物足りない量ではあるだろう。
ちなみにミハエルの買ったシチューは食べた後、器とスプーンはちゃんと返却しないといけない。
適当に会話しつつ俺たちは食事を進める。
会話してると、ふとミハエルが尋ねてきた。
「そういえばさ、ルカは親父さんの跡継ぐのか?」
「いや、俺は冒険者になるつもりだ。まだ親には言ってないけどな」
俺の言葉にマルセルが驚いた顔をする。
「えっ ルカ冒険者になるの!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよぉ! でも、なんで冒険者になりたいの?」
「んー。まぁ色々あるんだけど、俺は今度こそ自由に生きたいんだよ」
「今度こそ?」
「あーまぁそこは気にしないでくれ。昔からな、憧れなんだよ、自分の力で自由に生きていくのがさ」
「そうなんだ」
マルセルはなんだか感心したような顔で頷いている。
でもミハエルはなんだか考え込むような顔で黙って聞いていた。
マルセルがそんなミハエルに声かけた。
「ミハエル、どうかしたの?」
「……いや、なんでもねぇ。お前はどうなんだよ? マルセル」
「僕?僕は父さんの跡を継ぐよ! 父さんのこと尊敬してるしね!」
「道具屋か。マルセルには合ってんじゃねーか?」
「そういうミハエルはどうなの? お父さんの跡、継ぐの?」
マルセルの言葉にミハエルは少し渋い顔をする。
「……わかんね」
「やっぱり、継がないの? 武器屋さん」
「そう、かもな……」
ミハエルの家は、母親はミハエルが五歳の頃に亡くなっており、父親と二人暮らしだ。
俺の前世の親父ほどではないが、随分と厳しい人のようで母親が生きていた頃から何かあると手をあげていたようなのだ。
ミハエルはそんな父親を嫌っており、跡継ぎに関してもあまり気が乗らないようである。
だからだろうか、俺はふとミハエルに声をかけてしまった。
「じゃあ、俺と冒険者になろうぜ」
かつての俺と少し境遇が似ていたからかもしれない。
そんな俺の言葉にミハエルは驚いて目を見開いた。
急にそんな提案をしてもきっと困るだろうと思い、少し言い直す。
「いやまぁ、そういう選択肢もあるってことだよ」
俺の言葉に思う所でもあったのだろうか、ミハエルは考え込むように呟いた。
「そうだな……」
その日はそのまま俺たちは昼飯を食うと、それぞれの家へと戻っていった。
ミハエルのことが気になりはするが、結局どうするか決めるのはミハエル自身だ。
かつて俺もずっと、親父にはお前は跡継ぎなのだからと言われ続けていて、俺自身も跡継ぎだからと、理不尽に殴られても、親父の言うことには従っていたし、努力もしていた。
もちろん高校に入ってからは、逃げるように部活をしていたが、結局のところは自分がいつか親父の跡を継ぐのだと、そう考えていた。
だけど……もし、前世で別の道があるんだって、別の道を歩んでもいいんだって誰かに教えられていれば、いや、自分で気づけていれば、もう少し何かが違ったかもしれない。
まぁ今更ではあるのだが、だからこそ今世では俺は俺のしたいように生きるのだ。
ウードやマリーのことは愛してるし感謝もしているが、それでも俺は俺の生きたいように生きる。
それもあって、思わずミハエルに言ってしまったというのもある。
そんなことを考えながらも俺は自宅についた。
それでも今は、成人するまでは、愛しい弟と、愛しい両親と絆を深めていきたい。
「ただいま、母さん、カール」
「おかえり、ルカ」
「にー」
愛しい家族の声に俺は笑顔を浮かべる。
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