20 出産って大変なんだな……
本日も2話更新しています。
ゴブリンをこの手で殺してから一週間が過ぎた。
マリーは朝から陣痛が始まったらしい。
ウードが急いで産婆さんを呼びに行った。
俺はオロオロしながらマリーの側にいるしかなかった。
マリーは荒い息を繰り返し辛そうにしている。
「ママ……」
俺の思わず呟いた声に気づいたのだろう、マリーが辛そうな顔を無理やり笑みに変えて俺を見た。
「ルカ……ママ、大丈夫よ……いい子ね、ママの、側にいて……ね……」
「うん……ママ、頑張って……僕側にいるよ」
苦しそうに呻くマリーを涙目で見ながら俺はただただ祈るしかなかった。
――暫くして、ウードが産婆を連れて戻ってきた。
涙目でマリーを見る俺を見た産婆はニコリと微笑み声をかけた。
「大きくなったね。大丈夫よ、私が来たからもう安心しなさい」
俺は産婆さんの言葉にただただ頷いた。
後で知ったことだが、この産婆さんは俺をとりあげた人でもあるらしい。
もう六十歳くらいだろうか?
でもすごく元気そうで、そして笑みがとっても優しい。
ウードは産婆さんにアレコレと指示をされて忙しく動き回っている。
俺はただ、マリーの側でマリーを励ますしかできなかった。
陣痛が始まってからもう三時間が経った。
マリーは痛みに涙を零し、声をあげている。
俺はただただ固まって見ているしかできず、それはウードも同じだった。
だけど、俺と違ったのは、マリーの手を握っていることだろう。
俺も握りたかったが、出産中の女性は加減なく手を握ってしまうので幼児の手は危険だということだった。
そしてマリーも、やはり夫であるウードが側にいるのは安心するのだろう、ウードの名を呼んでいる。
いつもは子供にデレデレのウードだが、今は妻を守る男の目だ。
とてもカッコイイ。
そんなウードとマリーを俺は涙目で見守りながら、その時が来るのを待った。
そして、更に二時間、俺が緊張のあまり気を失いそうになった頃、それは来た。
「おぎゃー! おぎゃー! おぎゃー!」
「――生まれた!!」
俺は思わず叫んでいた。
そんな俺に赤ちゃんを抱えた産婆さんが言う。
「ああ、生まれたよ! 元気な男の子だ。あんたの弟だよ!」
俺は頭を上下に振るしかできなかった。
赤ちゃんは産婆さんに色々と処置をされ、綺麗に体を洗われてマリーの手元に届けられた。
肌は真っ赤で猿みたいにしわくちゃの顔の弟はふやふや泣きながらマリーに抱かれている。
俺も、マリーも、ウードも、愛しくてたまらないという目で弟を見ていた。
ただ、俺はもうそこで限界だった。
弟を見つめたまま、俺は気を失ってしまった。
気付いた時には自室のベッドの上だった。
ハッとして時計を見ると、昼の一時を回ったところであった。
マリーの陣痛が始まったのが朝の七時、そこから五時間かかって生まれたのは昼の十二時だ。
そこから俺は気を失ったので、一時間近く気を失っていたらしい。
俺は慌てて飛び起き、マリーのもとへ向かうことにした。
マリーの部屋――というか両親の部屋だな――そこへ行くには一度キッチンを通ることになる。
キッチンへ入るとそこには産婆さんとウードがいた。
俺に気づいた産婆さんが声をかけた。
「おや、起きたかい? あんたのお母さんは今は寝ているところだよ。もう少ししてから会いに行ってあげなさい」
そうか、マリーは寝ているのか。
そう思っているとウードが声をかけた。
「おいで、ルカ」
俺は素直にウードの側に行って抱っこされる。
「しかし、その子も大きくなったもんだねぇ。私がとりあげた時はあんなにちっちゃかったのにねぇ」
「ええ、あの時も今回も、マイヤーさんにはとてもお世話になっています」
「いやだね、マリーは私の孫みたいなもんだ。あの子だって私がとりあげたんだから」
なんと。マリーもとりあげたのか、この人は。いくつなんだろう?
【イナ・マイヤー 人間 女性 65歳 平民 状態:健康(膝が少し悪い) 優秀な産婆】
おお、優秀がついてる。でも膝が悪いのか、治療してあげたいけど……無理だな……。
ちなみにウードも優秀がついている。
【ウード・ローレンツ 人間 男性 32歳 平民 状態:健康 優秀な鍛冶師】
マリーとは九歳差で結婚したらしい。
産婆さんは六十五歳か、マリーは今二十三歳だから、この人が四十二歳の時に取り上げたんだな。
「どのくらい産婆さんしてるの?」
俺の質問に笑顔で答えてくれた。
「そうねぇ、私が二十八からだからもう三十七年、この仕事してるわねぇ」
「ほえー! すごいね!」
俺の感心の言葉に産婆さんはニコニコと笑ってくれた。
産婆さんは時々マリーを見に行き出産から二時間ほどして帰る旨を告げた。
「それじゃあ私は帰るよ。赤ちゃんも容体に変化はないし、マリーも落ち着いてるしね。なんかあったらまた呼びな」
「ありがとうございました、マイヤーさん」
深く頭を下げるウードに苦笑しながら手を振って産婆さんは帰っていった。
俺はウードのズボンを軽く引っ張って声をかける。
「パパ、ママに会いに行ってもいい?」
俺のそんな声にウードは笑みを浮かべた。相変わらず怖いな。
「ああ、一緒に行こうか」
「うん」
俺はウードに抱き上げられてマリーのいる部屋へと移動していった。
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