2 まずは考えろ
目を覚ますと、木の天井が見えた。ここはどこだろうか。
俺は起き上がろうと思い、ベッドの木枠を掴もうとして驚いた。
木枠に手が届かないと思って自分の手を見ると、そこには小さな子供の手があったのだ。
そこで俺はやっと先程のことを思い出した。
俺の体は俺の体ではなく、小さな子供の体だったのだ。
ドキドキと鳴る心臓を必死に抑えながらも、俺は自分の両手を目の前まで持ち上げた。
小さな子供の手が、俺の意思通りに開いたり閉じたりする。
どうなっているんだ? なぜこんな子供の体になっているんだ?
俺は、俺は確か、朝練があるから朝早くに家を出て、学校への道にある横断歩道を渡ろうとして……
ああ、そうだ。車に轢かれたんだ。
青空を見た記憶はある、でも、その後どうなった?
記憶がない……
俺、もしかして死んだのか? 嘘だろ? こんなにハッキリ覚えてるのに?
え? じゃあ、この体は? 生まれ変わったってことか? まじかよ……
――オーケー、俺。落ち着け俺。記憶はあるし、俺の思考はしっかりしている、はずだ。
まずは状況の把握だ。思い出せ。
そう、あの外人の女の人、あの人は俺をなんて呼んでいた?
確か、そう、「ルカ」そう呼んでいた。
ということは今の俺は「ルカ」という名前ということだな。
そういえば、外国語、だよな? 日本語ではなかったと思う。
普通に聞き取れたから何も違和感はなかったが。
で、俺だ。俺は今いくつなんだ?
歩けてはいたようだから、三歳くらいなのか? いやでも、その割に言葉を喋れてなかったよな。
「おえおにゃまあー」
俺の名前と言おうとしたがやはりろくに喋れない。
本当に今俺はいくつなんだ?
「あーいーうーおー」
俺がとにかく喋っているとパタパタと足音がしてさっき見た外人の女の人が来た。
「ルカ、起きたの? お腹空いた?」
彼女の言葉を聞いて、そういや腹減ったなと思い、腹が減ったことを伝えようとした。
「おあかー」
喋るのも疲れる。子供ってのは声を出すだけで疲れるのか。
そんなことを考えていると、女の人が笑みを浮かべて俺を抱き上げた。
「お腹空いたのねー。おっぱいにしようねー」
その言葉に俺は固まってしまう。
俺が固まってる間に女の人は俺を抱いたまま胸をはだけさせて俺を近づけた。
まだ母以外の女性の胸など生では見たことも触ったこともない俺はぎゅっと目を瞑ってしまう。
「あら? どうしたの? お腹空いてないの? ほーら、おっぱいですよー」
俺の口に突起物があたり、俺は思わず叫ぼうとして口をあけたらそのままくわえてしまった。
すぐに口を離そうとしたが、女性はそのまま俺を抱え込み俺は口を離せなくなってしまった。
俺は頭の中で、どうすればいいのかと混乱していた。
ただ不思議なことに、こう、エロイ気分にならないのだ。
口内でもごもご動かしていると、俺の舌は自然と突起物を包み込み、そのまま自然と吸い付いていた。
俺の胃に流れ込んでくる物に俺は食欲が満たされていく。
うまいわけではないのだが、体が求めているのだ。
とりあえず俺は女性の乳房に吸い付きながら心を落ち着けた。
――そうだ、俺は子供なのだから、問題はないはずだ。
瞑っていた目をチラリと開けて女性を見上げた。
女性はとても優しい笑みを俺に向けている。
多分、いやそうなのだろうが、この人が俺の母親ということだろう。
随分若く見えるが、童顔なのか、本当に若いのかは分からない。
だが、見た感じは十七歳から二十歳くらいというところだろうか?
とはいえ、外国人ってのは年齢より上に見えるのでもしかしたらもっと若いのかもしれないが……
そうだとしたらとんでもない若い母となるな。
というかだ、あんまり子供に詳しいわけではないが、普通おっぱいを飲むってのは一歳くらいまでだよな?
なんとなく、何かでそういうのを見た記憶がある。
となると、俺は今一歳くらいなのだろうか? 転んで泣いていたってことは歩けはするようだが……
子供っていくつから歩けるんだ? そんなこと考えたこともなかったな。
まぁそのうち分かるだろう。
今は生前は経験できなかったおっぱいの感触でも楽しもう。
――と、楽しみたいところだが、まったくこれっぽっちもエロイ感情が湧かない。
子供だからなのか、母親だからなのか。
まさか、俺はエロ感情が欠落でもしてるのか!?
いやいや……落ち着け俺。大丈夫。――きっと子供だからだ。
しかし、俺の母親であるこの女性は普通に美人だよな。
ブロンドの髪に、長い睫毛、綺麗な青い目、それに白くてスベスベしてそうな肌。
今は俺を見て優し気に微笑んでるけど、俺の美的感覚で言えば、超美人だと思う。
てことは、これはもしかして、俺イケメンルートありなんじゃないか?
前世では冴えない顔だったからな、ブサイクではなかった、と思うが、イケメンでもなかったし。
あーでも、どうせ死ぬなら加山さんに告っとけば良かったよなぁ……。
まぁ、仕方ないか……というか、ストップストップ。
もう俺腹パンで死ぬって。
俺は吸い付くのをやめて顔を振った。
「お腹いっぱいになったかしら? いい子ね、ルカ。よしよし」
母親は俺を抱えなおすと俺の背中をぽんぽんと叩いた。
途端俺はゲプっとゲップをしてしまう。
しかもちょっと吐いたぞ。うおー、母親の洋服汚しちまったぞ。やべぇ。
俺は焦ったが、母親は特に何も言わず俺を抱いたまま部屋の中を歩き回り、多分だが子守歌だろうか?
何かを歌いながら俺の背中を軽く叩いている。
俺はそんな背中を叩くリズムと、歌声を聞いていると、段々と眠気がやってきた。
さっき起きたとこなのに、もう眠いということに驚くが、その眠気には俺は抗えなかった。
『おやすみ、ルカ。いい子ね』そんな母の声を最後に俺は眠りについた。
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