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18 覚悟はしていたけど

ストックが溜まり過ぎた為、本日も2話更新しています。

 鑑定魔法を開発してから二年の時が経ち、俺は六歳になった。

 結局一人で外に出られたのはあの日だけで、後は大体マリーかウードが一緒だった。

 まぁ、四歳児が一人で外遊びは普通しないから仕方のないことではあるのだが。


 だが!今日から俺は外に一人で遊びに行ってもよくなったのだ!

 もちろん、魔法は人前で絶対に使わないのと、危ない所へ行かないこと、お昼は一度帰ってくることは約束事である。

 どれもちゃんと守るつもりである。

 森に行くけど別に危なくないので約束破りにはならない! ならないったらならない!

 ――物凄く気を付けるから許してほしい。


「ママ行ってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」


 マリーは大きなお腹をさすりながら手を振っている。

 近いうちに我が家には弟か妹が生まれることになる。

 前世では俺は一人っ子だったので実に楽しみなのだ。


「うん!」


 俺は元気よく返事をして玄関を開けて外へと出た。

 さて、今は八時十分か。

 俺は視界の右上にある時計に目を向ける。

 これはこの二年の間に開発した魔法の一つだ。


 この世界には時計という物が存在しない。

 あるのは決まった時間ではあるが、朝に一回、昼に一回、夕方に一回鐘が鳴るだけで後は大体の時間なのである。

 ――ちなみに、時間の数え方は一時間ではなく、一刻、二刻で、一刻は大体三十分のことである――


 俺としては時計がないのは正直不便なので、時計を開発した。

 これも時計魔法任せではあるが、ちゃんと地球にいた時と同じデジタル時計である。

 ちなみにタイマー機能にストップウォッチ機能もあるので大変便利なのだ。


 家を出た俺は大通りを渡り裏路地に入っていく。

 すでに探索魔法はつけてるので人のいない裏路地だ。

 すぐに消音魔法と姿を消す光学迷彩魔法と飛行魔法を起動して、かつてゴブリンのいた森へ向かう。

 まぁ、姿を消す魔法は光学迷彩とは違うんだけど、姿消し魔法はちょっと名前がダサイので光学迷彩にしたのだ。

 飛行魔法はなんだかんだとまだ二回目なので高い所を飛ぶと下半身がきゅっとなる。


 ――さてさてゴブリンさんはいますかなー。

 いたいた。ミニマップに赤い光点が四つある。

 そして、その場所を目視すると小さな人型が動いている。


 ……よし、俺は今日ゴブリンを殺す。

 いずれ大人になったら俺は冒険者になるのだから、今から覚悟を持っておきたい。

 俺の性格上、嫌なことを後回しにすればするほど言い訳を募らせやらなくなってしまうのだ。


 俺はこの二年の間に、マリーの知り合いの女性冒険者の話を聞く機会があった。

 彼女に、初めてゴブリンを倒した時の気持ちなんかも聞くことができた。

 やはり彼女も最初は人型ということで倒すことができなかったのだという。

 だけど、先輩冒険者がゴブリンを弱らせ、彼女に止めを刺させたそうだ。

 その結果、彼女は覚悟がついたんだと笑って言っていた。


 ただ、中にはそれで心が折れて冒険者をやめる人もいるんだそうだ。

 この世界で生きて、当たり前にモンスターを身近に感じていてもやはり二足歩行――人に近い姿――を殺すには抵抗があるのだ。

 平和な日本でぬくぬくと暮らしてきた俺に果たして人型を殺せるのか。


 ……だけど、俺は折れたくない。俺は冒険者になって世界を巡りたい。

 だからこそ、今日、俺はゴブリンを殺す。

 その為に、具現化魔法も作ったのだ。

 ゴブリンを殺すと考えただけで胸がドキドキするし、若干体が震える。

 大丈夫だ、俺。何度もイメージはした。大丈夫、俺ならできる。


 俺はゴブリンの近くへと舞い降りた。

 一度深く深呼吸をして、ゴブリン四体に闇魔法の支配をかける。

『命令があるまで一切動くな』

 ゴブリン達はピタリと動きを止めた。

 俺は具現化魔法でサバイバルナイフを作り出した。

 刃渡り二十センチはあるので十分ゴブリンの心臓に突き刺さるだろう。

 身体強化をかけて俺はサバイバルナイフをぎゅっと握ってゴブリンの前に立つ。

 膝はガクガクと震え、手もぶるぶると震えている。

 汗がダラダラと流れ、奥歯がカチカチと音を鳴らす。


 どのくらいゴブリンと見つめ合っていただろうか。

 俺は一度ゴブリンの前から離れ、サバイバルナイフを消した。

 そのまま木に寄りかかり、俺は膝を抱えた。

 怖い。怖くてたまらない。

 人間じゃないのは分かってる。でも、それでも命を奪う行為が恐ろしい。

 俺の目は後から後から大粒の涙が零れた。


 どのくらい泣いていただろうか、やっと気持ちが少し落ち着いた。

 顔を上げると、相変わらずゴブリンたちは同じ姿勢のまま動いていない。

 俺はそんなゴブリンをじっと見つめた。


「俺はこれからお前らを殺すよ。お前らには何の恨みもない。でも、俺が冒険者になるために、冒険者であるために、俺はお前らを殺す。許してくれとも思わないし、恨んでくれていい。それでも、俺はお前らを殺す」


 その言葉は誰に向けて言ったのか、ゴブリンに向けてでもあり、俺に向けてでもあるだろう。

 俺は手の甲で涙を拭い、震える手に再びサバイバルナイフを具現化した。

 今度こそ、ゴブリンを殺す。


 魔法ではなく、己の手で、ゴブリンの命を奪うのだ。

お読みいただきありがとうございます。

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闇の世界の住人達

前作になります。まだ連載中ですが、すでに最後まで書き終えています。

もし良かったら↑のリンクから見てみて下さい。

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