15 冒険者さんに頼んだが俺やらかしたっぽい
本日も2話更新してます。14もありますのでご注意下さい。
俺は冒険者一行に声をかけた。
「ちょっとそこの冒険者さん」
全員が一斉に武器を抜いて背中合わせで円陣を組んだ。
ほええええ! こええええええ!!! なんだよ! 声かけただけじゃん!
少ししてリーダーと呼ばれていた男が声を出した。
「名を名乗って、姿を見せろ」
見せられるわけがない俺は言い訳をする。
「訳あって名を名乗る事も、姿を見せる事も出来ない。しかし、話しを聞いて欲しい」
「――姿も見せず、名も名乗らず、その上で俺達に話しを聞いて欲しいと、そう言うのか」
「ああ、聞いてほしい、というかあんたたちにも関係してる話だ」
男は暫く考えるように黙り込み、口を開いた。
「とりあえず聞こう、話してみろ」
聞いてくれるそうなので俺はほっと一安心である。
とはいえ、警戒は解いてくれないようではあるが。当然か。
「先程、デーモンスパイダーに捕らえられていた村人の男性を救った。デーモンスパイダーも討伐してある。でも、俺はあんたたちに話したように、姿を見せるわけにはいかない事情がある。だから、あんたたちを案内するから、その男性を村まで運んでやってほしい」
「お前がデーモンスパイダーを? 一人でやったのか?」
「ああ」
俺がそう言うと、リーダーに注意されてた男の一人が声を出した。
「はっ嘘つけ! 一人でデーモンスパイダーをやれるはずがねぇだろ! 俺らBランクでもそこそこ手こずるってのに、一人で? はっ信じられるわけがねぇ!」
ええー……まじで? そんな強くなかったんだけど……。
「そう言われても倒したからなぁ……」
「じゃあ証拠出せよ。討伐証明部位くらい持ってんだろ?」
あああ! 定番中の定番だけど、そんなもん知らねぇよ!
「持ってない。言っただろ、事情があって姿を見せられないと」
「リーダー行こうぜ、こんな姿も名も名乗らないやつを信用なんてできねぇだろ。行ったが最後罠が仕掛けられてるかもしれねぇ」
「そんなもん俺に何のメリットがあるんだよ。するわけないだろ」
俺がそう反論しても男は黙ったままでリーダーと言われた男を見ている。
ガン無視されました。心が折れそうなんですが……。
「……いいだろう、そこへ案内しろ」
「リーダー!」
「黙ってろ。嘘をついてる声音ではなかった。だが全員武器はしまうな、警戒を続けろ」
リーダーの男はそう言うが、文句を言ってた男は激しく舌打ちをしている。
「助かる。案内するけど、声だけじゃなんだな……ああ、この光の玉の後をついてきてくれ」
そう言って俺は親指の先程度の大きさでそこまでピッカピカに光っていない光の玉を出した。
その途端、五人組の冒険者からザワリとした空気を感じた。
俺が何だろう?とそちらを見ると、口をぽっかりと開けた五人がそこにいた。
「リ、リーダー、あれ、あれ光魔法だろ……?」
リーダーの男はゴクリと喉を鳴らしている。
え?なんで?前の光の玉よりもすごいちっちゃくしたのに!
もしかして光魔法自体が激レアだったりすんの!?
……俺、やっちゃった?
「それは、もしかして光魔法、か?」
リーダーの男がすごい真剣な顔で問いかけてくる。
俺やっちゃったみたいですね。
「……そうだ、だから名も姿も見せるわけにはいかないんだ。わかるだろ?」
「そういうことか……」
どういうこと? いやまぁ、うまく切り抜けられた気がする!
「とりあえず案内してもいいか?」
「あ、ああ……行くぞ、皆」
リーダー以外の皆が言葉は出さずに静かにうなずくだけだった。
とりあえず来てくれるらしいからよしとしよう。後は忘れよう、うん。
俺は光魔法を指先で操作しつつ飛んでいる。
三十分程歩いた所で、リーダーの男が声をかけてきた。
「一つ聞きたいんだが、いいか?」
「何?」
「あんたは今、姿を消す魔法と飛行魔法も使っているのか?」
「ああ、よく分かったな。使ってるよ」
「そう、か……」
え? 何? 俺またやっちゃった?
「――同時に複数の魔法を並行して使える者なんて俺は聞いたことがない」
リーダーの言葉に俺唖然。もう、だから姿を、で押すしかないじゃん。
「だから、俺は名も、姿も見せられないんだ。分かるだろ?」
「ああ……」
それ以降リーダーは口を閉ざした。
超気まずいんですけども。
俺はそのまま無言で山の中を移動した。
冒険者たちは俺が複数魔法を使うと言ったあたりで全員が武器をしまい、大人しくついてきている。
あれから三十分してようやくデーモンスパイダーの巣の近くにやってきた。
あたりに蜘蛛の白い糸がちらほらかかっている。
そこで俺は彼らに声をかけた。
「ここの奥に村人の男性が倒れているんだ」
「分かった。そのまま案内をお願いする」
え。俺も行くの? まぁいいか……。
そのまま案内を続け、一面真っ白な蜘蛛の糸だらけの場所についた。
村人さんは無事のようでスヤスヤと寝たままだ。
「なっ!!」
リーダーの男が声を上げた。え? 何!?
彼の視線を追うと、そこには俺が凍らせたデーモンスパイダーの亡骸があった。
「ああ、びっくりした。急に声あげないでくれよ……」
「いや、え、あ、すま、ない……」
もしかしたらまだ死んでないと思ったのかな?
「あれはもう死んでるよ。安心してくれ」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだよ?」
「いや、いい。気にしないでくれ」
そう言うと、リーダーが何かを仲間に呟いて、一人が小走りで村人に近づき、触れようとしてシールドにはじかれる。
「あ、すまん。シールド張りっぱなしだった。解除したからもう触れるよ」
「シールド?」
「うん、他の獣とか来たら危ないだろ? だから」
「まさか、結界魔法のことか?」
「ああ、うん、そう。で、その人村まで運ぶのお願いしていいか?」
「あ、ああ……」
「じゃあ俺は行くけど、もういいよな?」
「え? 素材はいらないのか?」
「素材? 蜘蛛のか?」
「ああ」
素材とかあるのかよ。でも多分あれ、中までキンキンに凍ってるから無理だよね?
「多分無理だと思うよ。中まで凍ってると思うから」
「は?」
「え?いや、中まで凍ってるから素材あってもとれないと思うけど」
「中、まで……?」
「蹴ってみればわかるんじゃない?」
俺がそう言うとリーダーがデーモンスパイダーの氷漬けに近寄り足で蹴った。
途端、蜘蛛の体に亀裂が入り、ガラガラと音を立てて崩れた。
そんな親蜘蛛の氷の塊が凍った卵にもぶつかり、卵も砕けた。
そんな蜘蛛を見てリーダーの男は困った顔をしていた。
「なんだ? 何かまずかったか?」
「いや、討伐証明部位が取れないとなると、どう説明したものかと思ってな……」
「ああー……すまん」
「いや、いいんだ。どちらにしろ俺たちはこいつを倒しちゃいないからな。ただ、あんたのことは話さないといけないと思う」
おっふ。まじですか。でもまぁ、いいか。声も変えてるし姿も見せてないし。
「まぁ仕方ないな。どちらにしろ俺はあんたらに姿は見せてないし、構わないさ」
「そうか」
「じゃあ、俺はもう行くけどいいか?」
「ああ」
「その人頼んだ。それじゃあな!」
そう言って俺は消音魔法を張り、光魔法を消した。
でも実は移動していません。
暫くして、リーダーではない男が声を出した。
「行った……か?」
「――多分、だがな」
「しかし、どう説明するよ?リーダー」
「ああ、どうするか……」
「光魔法が使えて、結界魔法も使えて、飛行魔法に姿を消す魔法、挙句全部同時に使ってるんだぜ?」
「参ったな。話しても信用してもらえそうな気がせん」
「しかも、これだよな。氷魔法、こんなデカい蜘蛛を完全に凍らせてるどころか、中まで完璧に凍らせてるしよ。しかもこれ、俺らを呼びに来てここに案内するまで二刻くらいかかっただろ? それで全然溶けてないんだぜ……」
「仕方ない、多分まだまだ溶けないだろうから、これを麻袋にいれて持ち帰って証拠にするしかないだろう」
俺は冒険者の会話を聞きつつなんか申し訳ないなと思った。
今後は気を付けないといけないな。後は魔法の改良もいる。
凍った蜘蛛の死骸の一部を麻袋につめ、村人を背負って山を下り始めた冒険者一行を見送り、俺も一旦家に帰ることにした。
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