145 実験は難しい
四十六階で丸一日狩りをして、魔石を集め、その翌日である今日は一人ダンジョンのセーフゾーンにいる。
コンロの詳しい構造なんて知りはしないが、なぜ火がでるかは知っている。
となれば、まずは携帯ガスコンロのガス缶をまず作ろう。
ただし、ガスの代わりに魔力をいれる。
缶はミスリルで作ればいい。
どうせだから触ればガスとなる魔力をいくらでも補充できるようにしよう。
よしできた。
「うーん、ミスリル製ってだけでまぁ普通のガス缶だな。とりあえず魔力を通してみるか」
ゆっくりとミスリルのガス缶に魔力を流す。
流した魔力はミスリル缶の内側へと通っていく。
ああ、これは以前ミスリルの剣で試したことと同じか。
無害な魔力に変換されてるのか。
一度本当に錬金術を学びたいな……。
できれば錬金術師と知り合いになって色々と開発をお願いしたい。
とりあえずは今は実験の続きをしよう。
ミスリル缶の製作はできた。
次は魔石に火の付与か。
ヒール系しかしたことはないが、ファイアボールを付与すればいいのだろうか。
とりあえずやってみるか。
魔石を手のひらにのせ、ヒールと同じ要領で付与する。
ファイアボールを付与した魔石はヒールと同じく、かなりの回数を付与できた、が、これは違う気がする。
冷蔵庫にあった魔石やマリーが使っている魔石には制限がなかった。
ということは俺の付与が違うということか。
うーん……。
純粋に火魔法の付与か?
うーん、火属性の付与ってところか。
まぁ魔石はまだあるしやってみるか。
魔石を握り、魔法ではなく、火属性の付与をしてみる。
「できたな。回数もない」
ヒールの付与をしたせいで俺は深く考えすぎていたのかもしれないな。
さて、このままだとただの暖かい魔石だ。
少し魔力を与えてみるか。
魔石に魔力を通すと、魔石から火ではなく熱が放たれた。
暖房に使えそうだがこれでは意味がない。
次にファイアボールを付与した魔石で試してみたが、魔力を通すとファイアボールが撃ちだされるだけでコンロの火のようにはでなかった。
どうやっても火が出ないので、俺はヒント欲しさにヴェーバー道具屋へと向かった。
マリーが風魔法が付与された魔石を買ったのはマルセルのお店でなのだ。
もしかしたら火魔法の魔石もあるかもしれない。
ダンジョンを出てマルセルのいる店へ向かう。
店につくとちょうどマルセルが品物の整理をしていた。
「マルセル」
「あ、ルカ! どうしたの? 買い物?」
「いや、ああーまぁそうともいえる」
俺の言い回しにマルセルは首を傾げた。
「いや、前に母さんがここで風魔法の付与された魔石を買っただろ?」
「ああ、うん! 何かを作るのに欲しいって言ってたよ!」
「うん、それでさ、同じので火魔法が付与されたのってある?」
「あー、うん。あるよー。でもルカは魔法使えるでしょ?」
「ああ、ちょっとな。その火魔法が付与されてる魔石ってさ、火がでるの? 熱だけ?」
「火だよー!」
「へぇ。俺もやってみたけど熱しか出なくてさ」
「ああ! それはそうだよー。だってこれ付与してくれてるの錬金術師さんだからね」
「どういうことだ?」
「んとね、うちと契約してくれてる優秀な錬金術師さんなんだ。うちは魔石を提供して、錬金術師さんには付与してもらってるの。多分うち以外では魔石に付与してるのが錬金術師ってのはいないんじゃないかな? 大体は魔法使いの人が最下級の魔法付与してるから、永続的じゃないんだよね」
「なるほど」
俺はマルセルの言葉に少し考える。
「とりあえずその火の魔石売ってもらえるか?」
「いいよー。一個?」
「んー、とりあえず五個頼む」
「はーい、一個六銀貨だよー」
「あれ、母さんは三銀貨で買ったって言ってたけど」
「あ、ごめんね。あれはいつもお世話になってたからお礼も兼ねてだったんだ」
「ああ、そうなのか。ギルドと同じ買取価格だから驚いたんだよな」
「うん、ごめんね」
「いや、気にしないでくれ。はい、二十五銀貨」
「ありがとうございます!」
ちなみに、魔法使いが付与しているのは四から五銀貨で売っているらしい。
ただ、回数制限があるので、そう考えると高いみたいだが。
――この話を聞いてから知ったことだが、我が家の冷蔵庫に使われている氷の魔石は、最初は知り合いが魔法を付与してくれたらしいが、今はここで購入したのを使っているそうだ。
マルセルから火の魔石を五個買い取り、俺は再びダンジョンのセーフゾーンへ潜った。
「さて、試してみるか」
小さい魔石に軽く魔力を流す。
すると、魔石からはポッと小さな火が生まれた。
徐々に魔力を通す量を増やしたが極弱火から弱火くらいまでしか大きくならなかった。
それ以上に魔力を通したところ魔石は割れて壊れてしまった。
次に魔力回路の調査をするためにずっと少量だけ魔力を通しながらじっくり観察する。
薄っすらと見えはするのだが、実に細かく、これは真似ができない。
この錬金術師に会ってみたいな。
マルセルのお父さんが登用してるなら、きっと人格に問題ない人のはずだ。
どうするか……。
とりあえず会ってみるか?
物を見せずにコンロの構想を話してみてその反応で話すか決めてもいいかもしれない。
もしコンロの構想を話してすぐに理解してくれる人なら、事情を話して協力を仰いでもいいかもしれない。
俺が他国の錬金術師育成学校にいくのもありだが、何もかも俺だけで抱える必要はないし、できるだけ俺は冒険者以外で目立ちたくはない。
爆散してしまう子を救いたい気持ちはあるが、かといって俺自身が目立ち危険に立つ気はない。
家族や友人を危険に晒してまで救う気はない。
いや、救いたい。本当は救えるならって気持ちは大きい。
でも、俺は一人で生きてるわけじゃないし、自分勝手なことはできない。
だけどその中でできるだけのことをしたい。
そうだな、錬金術師に会ってみよう。
とはいえ、まずはマルセルに聞いて、マルセルのお父さんに許可を得ないとだな。
火の魔石をアイテムボックスにしまい、俺はダンジョンを出た。
再びヴェーバー道具屋へと足を向ける。
「マルセル」
「あれ? どうしたのルカ。何か足りなかった?」
「いや、少し頼みがあって」
「なーに?」
首をコテンと傾げるマルセルに錬金術師に会いたいことを話した。
「んー。ちょっとお父さんに聞いてみるから待ってて!」
「ああ」
店の奥へとマルセルが走っていった。
少ししてマルセルとマルセルのお父さんが出てきた。
「やあ、ルカ君」
「こんにちは、おじさん」
「錬金術師を紹介して欲しいって?」
「はい」
「ちょっと奥で話そうか。マルセルはお店頼むよ」
「うん!」
おじさんの案内で店の奥へと向かう。
席に座るように促されて椅子に座った。
俺の向かい側におじさんが腰かけ、口を開く。
「さて、うちと契約してる錬金術師を紹介して欲しいって話だとマルセルから聞いたけど、どんな話をしたいのかな?」
俺はおじさんに素直に、自分が考えてる物をその錬金術師さんに話て、どう思うか、実現できるかを尋ねたいことを伝えた。
「ふむ、他の錬金術師じゃだめなのかね?」
「他の方でも別に俺はいいんですが、ただ、俺はそのツテも知り合いもいませんし、何より、おじさんが信用して契約している方なら俺も信用できると思ったからです」
俺の言葉におじさんが笑みを浮かべた。
「はは。そんなに私を信用してくれているのは嬉しいね。うん、君になら紹介してもいいよ。きっと彼も君なら大丈夫だろう」
「ありがとうございます」
「今日は彼に魔石を納品する日だから、そのついでに話してくるよ、少し待っててくれるかな?」
「はい」
そうしておじさんは店を出ていった。
どんな人かは聞いてはいないが、おじさんが信用を置いている人なら人間性だけは絶対に信用できる。
俺はミハエルを救ってくれたおじさんを信頼しているし、人となりも知っている。
おじさんが手を組んでいる商売仲間や仕入れ仲間はみんな本当にいい人なのだ。
もちろん、信用はしていいけど、信頼してはいけない人もいるにはいるんだけど。
商売相手だからそれは当然のことではある。
どちらにしろ、信頼できるかどうかは俺が見極めなくてはならない。
だが、人となりは最初から信用しよう。
三十分ほどしておじさんが帰ってきた。
「ルカ君お待たせ。会ってもいいって彼が言ってくれたから案内するよ」
「ありがとうございます」
「うん、でも彼もこだわりはあるから彼が難しいと言ったら素直に諦めてくれるかな?」
「はい。もちろんです」
「ありがとう、それじゃ案内するよ」
俺はおじさんに連れられて錬金術師の元へと向かった。
お読みいただきありがとうございます。
評価ブクマをして頂けますと喜びます。




